山
『今日のニュースです。〇月〇日、今日未明〇〇修禅寺前で三人目の体の一部が切り取られた40代男性の死体が発見されました、捜査当局は……』
「眠い~~」
ガシガシと僕は頭を掻きながらは起きる。
布団から抜け出すと眠気覚ましにテレビをつけ欠伸をした。
丁度朝のニュースが有ったので聞きながら台所に行く。
「ふんふん~~」
スマホが鳴ったので手に取って出る。
『ブツブツ』
「先輩ですか?」
『ブツブツ』
「はいはい後で取りに行きます」
『ブツブツ』
「はいはい」
『ブツブツ』
「〇〇山の〇〇方面行にある三番目の信号の後ろにある杉の木ですか?」
『ブツブツ』
「ではお駄賃は半分という事で」
スマホを切る。
うん。
もう少し分かりやすく話してほしいんだが……。
僕は冷蔵庫から昨夜作り置きしたカレーのタッパーを取り出す。
冷蔵庫には沢山の肉が有る。
塊が沢山。
冷凍庫にも沢山あります。
肉の塊が。
幸せだな~~。
沢山の肉に囲まれて幸福だな~~。
肉が食いたい放題だし。
「昼はカツにして夜はハンバーグにするか」
となるとナツメグやクミンまだあったかな?
いやオールスパイスがまだあるから良いか。
「とはいえ脂身があまり美味くないのが欠点なんだよな~~」
まあ~~それもラードや牛脂を使えばある程度何とかなるんだが……。
ハンバーグの様に練りこむ奴なら特に。
だけどな~~臭みがな~~。
場合によっては臭みけしするために煮込まないと駄目だし。
生姜の皮に長ネギの青い所入れて。
う~~ん。
贅沢や。
弁当を作り出勤。
ああ~~楽しみだな~~。
昼休み。
食堂で弁当を広げるとカツと萎びたキャベツにご飯が僕の食欲をそそる。
「ソースはと……え~~と……」
食堂に有るソースを手に取る。
いや待て。
ここは敢てポン酢と言う選択も……。
う~~ん。
「あれ~~先輩今日も肉ですか?」
「おう?」
背後から聞きなれた声がした。
振り向くと一ヶ月前にに入社した後輩がボケッと覗いてる。
「今日もではなく毎日だぞ僕は」
「それヤバくないですか?」
「何が?」
「肉ばかり食ってたら栄養に偏りがきて倒れますよ」
「ほっとけ野菜も食ってる」
「魚は?」
その言葉に僕は視線を逸らす。
「まあ~~良いですけど」
「まあ~~な~~」
「それはそうと良く金が有りますね~~」
「あん?」
後輩の言葉に首をひねる僕。
何のことやら。
「肉ですよ肉」
「はあ?」
「最近不景気の影響で肉の値段が高騰してるでしょう?」
「ああ~~」
そのことか。
どこぞの国の戦争の所為で輸入が困難になり外国産の物が高騰してるのだ。
その事を言ってるんだろう。
主に石油関係が高くなってるが肉の類も例外では無い。
外国産の安い肉類は軒並み高騰。
今は本来高い筈の国産の肉類が安いぐらいだ。
まあ~~国産が安いと言っても高騰する前より値段は高めになってるが。
鶏100ℊが百円台だったのに三百円だもんな。
キツイわ。
消費に対し供給が追い付かないというか~~何というか……。
詳しいことは分からない。
分かってることは今現在肉類は高いという事だ。
「僕は猟友会に入ってるからな」
「あ~~なるほど取り放題でしか」
「腕が無いと駄目だがな」
「へえ~~良いなあ~~」
「僕は腕無いけどな」
「……」
何で黙る。
「あとは罠猟もやってるし」
「おお」
目が輝いてる。
「まあ~~冬場の山を回って仕掛けた罠を見回らんといけんからキツイけどな」
「大変ですね」
「まあな下手すれば山で遭難若しくは大怪我するし」
「うへ~~」
「罠に掛かった猪や鹿に止めを刺そうとして逆に反撃されたりするし」
「先輩されたんですか?」
「知り合いがな腹を鹿の角でやられたんだ」
「ええっ!」
「そのまま救急車に連絡して入院したらしい」
「うわ~~」
いやガチで大変だった。
あの時は。
内臓出てたし。
幸い傷はついてなかったが。
「クマに襲われたことも有るし」
「良く生きてましたね」
「運が良かったとしか言えん」
いや本当に。
クマよけ忘れるとは僕は馬鹿だ。
とはいえだ。
その時に先輩に会えたのは幸運だった。
先輩凄かったな~~。
クマを素手で撃退したし。
その場で解体し肉を分けてくれたっけ。
「獲物を殺せても後が大変だしな」
「というと?」
「ダニやら獲物についた寄生虫を注意しながら血抜きして内臓を取らんといけんし」
「うへ~~大変ですね」
まあ~~先輩はその心配も無いが。
僕に気を使って色々処理してくれたし。
「とはいっても僕は唯の手伝いがメインだがな」
「手伝い?」
「先輩の手伝いをして肉を貰ってんだよ」
因みに先輩は猟友会に所属してないが。
「え~~」
呆れた顔するな。
「仕掛けた罠の見回りとかしてな」
先輩は罠は使わず彷徨って遭遇したらバトルだけどね。
「自分のは?」
「全然かからないな」
「……」
ジト目はやめろ。
自覚してるから自分が下手だという事は。
「猟友会の先輩方は高齢の人が多いからな~~体力使うような手伝いで肉を貰ってるんだ」
そちらは微々たるものだが。
「だったら俺も手伝って……」
「駄目だ罠猟にも免許が要るからな例え手伝いでも」
「え~~」
力なく打項垂れる後輩。
「あっ!」
何か思いついたな。
「免許を取れば俺も手伝って肉を貰えるんじゃ……」
「先輩に紹介せんぞ僕は」
「何でです?」
「お前の人間性を把握してるからな」
「え~~」
「借りパクするし、直ぐに言い訳をする上に適当な仕事をする」
「え~~」
項垂れる後輩。
同情はせんぞ。
まあ~~いいや。
僕はスマホを取り出し電話をする。
『ブツブツ』
「先輩です?」
『ブツブツ』
「あ、はい」
僕はメモを取り出して地図を掻く。
『ブツブツ』
「山の西側で、はい」
後輩は何故か地図を見つめている。
まあ~~良いが。
一応警告はしとくか。
この地図の山の事を。
「知ってるか後輩」
「何がですか?」
「この山には出るって話を」
「出るって……クマですか?」
首をひねる後輩。
クマも出るがな。
クマだけではないが。
「クマじゃない何かだ」
「何かって?」
「名前すら無い存在ナニカだよ、クマより恐ろしい」
僕の言葉に息をのむ後輩。
「いえ知りませんが……そうなんですか?」
「この辺りでは昔から有名な話だ」
昔からな。
かなり昔からだが。
「へえ~~」
「地元の人間しか知らんが」
「何でそんな話を今したんですか?」
「お前の性格だと此の山に入りそうな気がしたのでな」
「入るわけないじゃないですか~~」
目が泳いでいるぞ。
入る気だったな。
「良いか此の山はクマより恐ろしい何かがいる」
「はあ~~」
「入るなよ」
「でも猟友会の人たちは入る……」
「僕達は十分な知識と覚悟と対処法を知ってるんだよ」
「え~~」
「良いから入るなよ」
「はあ」
「分かったな」
「は~~い」
視線を逸らしながら返事をする後輩。
あ。
駄目だ。
聞く気ないな。
まあ~~良いか。
山に入るのは自己責任だし。
あ。
そういえば急に用事を思い出した。
うん。
電話を入れよう。
先輩に。
スマホを取り出して先輩に電話する。
『ブツブツ』
「はいはい?」
『ブツブツ』
「はいはい」
『ブツブツ』
「では」
電話を切る。
次の日。
『今日のニュースです。〇月〇日、今日未明〇〇修禅寺前で四人目の体の一部が切り取られた20代男性の死体が発見されました、捜査当局は手口が同じことを含め連続殺人と断定……』
「ふう~~」
ガシガシと僕は頭を掻きながらは起きる。
昨日は急に用事を思い出し同期と遅くまで飲んでたんだよな~~。
二日酔いが酷いな~~。
布団から抜け出すと眠気覚ましにテレビをつけ欠伸をした。
スマホが鳴った。
相手は会社の上司だ。
内容は修禅寺近くで後輩が下半身の一部を失い死んでいたのが発見されたらしい。
今夜はお通夜だそうだ。
ふ~~ん。
さてと先輩に電話するか。
「ああ~~もしもし先輩?」
『……ブツブツ……』
「人生の先輩聞いてます?」
『……ブツブツブツブツブツブツ……』
「ほんとに聞いてます?」
『ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ』
聞いてないのかな?
「鎌倉幕府の2代目、源頼家の悪霊先輩」
『〇〇山の〇〇方面行にある三番目の信号の後ろにある杉の木だ』
はいはい。
そこに分け前が有るんですね。
あ~~でもな~~。
「今回は精の付く物を下さい」
『ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ』
文句たらたらですか。
『僕の後輩何で食う権利が有ると思いますが」
『……ブツブツブツブツブツブツブツブツブツは美味いんだがな~~ブツブツブツブツブツブツブツブツ良いだろうブツブツブツブツブツブツブツブツ』
「ありがとうございます」
うん。
今日の夜が楽しみだ。
今回の肉は。