第8話 ドラゴンさんがお怒りのようです
さっきから、どどーん、どごごーん、と地響きが続いている。
フレイムドラゴン・ロードはかなりお怒りのようだ。私が顔を出さないものだから、壁に向かって苛立ちをぶつけている。
ダンジョンデバイスのマッピング機能は優秀で、踏破エリアに入ったモンスターをマップ上にドットで表示してくれる。
マップの中央にはひときわ大きな丸がある。これがきっとフレイムドラゴン・ロードだ。そして、それを取り囲むように無数のドットが点在している。
わかるのは位置情報だけで、個別のモンスターに対して名前や能力まで判別できるわけではない。
本来であれば、強さに応じてドットの色が変わるらしい。自分より弱ければ青、同格なら黄色。そして、戦うべきではないほど実力差がある場合は赤。さらに、討伐不可能なほどの強敵なら紫色になる。
このマップは視聴者にも共有されている。
》【もりもり】赤い点ばっかりですね……ドラゴンは紫……
私はまだLV2だ。周りに自分より弱いモンスターなんていない。この群れをどうやって突破していこうか。都合よく粉塵爆発に頼るわけにもいかないし、自爆の危険だってある。
神王装備に守られているとはいえ、気絶してしまえば一方的に攻撃され、死は免れない。
とにかく喫緊の課題は、安全地帯の確保である。
》【コリント】ちょっといいかな? 【スーパーチャット500DP】
チャリーンという通知音とともに、コリントさんからのコメントが入った。
しかも、500DPの投げ銭付き。DPはダンジョンポイントの略で、現金と等価で交換することができる。地上の事務局で、だが。
》【コリント】この階層のモンスターの動きが明らかに不自然なんだよね
「どういうことでしょうか?」
》【コリント】どうもグループ分けされているように思うんだよ ちょっと3D表示にしてもらえるかな?
私は端末を操作し、ダンジョンマップを2D表示から3Dへと切り替えた。
》3D!? そんな機能あったの?
》え、ダンジョンって平面の地図じゃないの?
》確かに……この階層って道が上下に入り組んでる 3Dじゃないとわかりにくい
次々にコメントが流れる。
》【もりもり】春菜さんは新しい発見ばかりですね
「えへへ」
自分の功績ではないのに、褒められるとつい照れてしまう。
「これまでの階層は道が平面的だったので、3D表示の必要がなかったのですね。でも、この地下212階は上下に入り組んでいて……」
そこまで話して、私はあることに気がついた。
「ここって……本当に地下212階なのでしょうか……?」
》どういうことだ?
》なに言っちゃってんの?
「いや……あの……。自分でも何を言っているのかよくわかんないですけど……」
》【コリント】あ、そういうことか!【500DP】
チャリーンという通知音とともに、コリントさんのコメント。
》【コリント】モンスターの動きがなんかおかしいと思ったんだよ。ダンジョン管理協会がモンスターを捕らえて階層移送を試みたけど、できなかったよな。
ハンター事務局とダンジョン管理協会が存在することは私も知っている。事務局はハンター、つまり「人間」を管理する組織だと考えればわかりやすい。
一方でダンジョン管理協会は、ダンジョン内部の調査や上層での安全を管理する団体だ。
ダンジョン外の仕事が事務局、内の仕事が管理協会、とも言える。
》【アメリア】なるほど! モンスターの階層間の移動は不可能。するとこのモンスターの不自然な動きも説明がつく【500DP】
》【桃太郎忍者】よし、おれっちが解析してやる。ちょっと待て。
》【みっち】今はAIが使えるから便利だよな。モンスターの動向解析に。
》【桃太郎忍者】おまたせ、マーキングしといたよ。モンスターの行動は4タイプ。層をまたいで移動できてないんだ。たぶん今いるここは、地下212階から地下215階までの4層構造なんだ。【1500DP】
桃太郎忍者さんのお陰で、私の端末の表示が変わった。マップ上のドットが、■や▲、★、●といった形に分かれている。
つまりここは、四つの階層が合わさってできたエリアなのだ。212、213、214、地下215階の4階建て構造になっている。
》そんなん聞いたことねえぞ!
》大発見?
》いや、そんなことよりもだな……
》ハルナっち。経験値増えてねえ? モンスターのドットも時々消えてるし【100DP】
チャリーンという音とともに、またもやコメントが。
何かを発見したり、注目してほしい時にスーパーチャットを投げる流れが、いつのまにか定着していた。
確かに言われた通り、なぜか経験値が増えている。ドロップアイテムもいくつか入っていた。
「なんでしょう、これ」
理由もわからず、首を傾げる。
》ドラゴンの周辺でドットが消えてる。フレイムドラゴン・ロードの八つ当たりなんじゃね?【20DP】
つまり、私が少しでもダメージを与えたモンスターがドラゴンに殺され、その経験値が入ってきているようだ。
経験値は与えたダメージの割合などに応じるため、私に入るのはほんのわずかだ。ドロップアイテムも貢献度や討伐者のレベルに左右されるため、低級ポーションや低級ブレッド(食料用のパン)ばかりだ。
だけれど、これは漁夫の利というやつではないだろうか。
この階層のモンスターに少しずつダメージを与えておけば、自動的にアイテムが稼げるかもしれない。
この考えを告げると、みんなも良い作戦だと賛同してくれた。
そして視聴者の協力により、マップの中から安全そうな場所を探していく。
モンスターは階層をまたぐ上下の移動に制限がある。
つまり、高低差が大きい移動が彼らには不可能であり、物理的に入り込めないエリアが存在するということがわかった。
「あるじゃないですか! 安全地帯!」




