第42話 レベルドレイン
もりもりさんはダンジョンデバイスをしっかり握りしめている。ヴァンパイアに血を吸われる私の姿は、そのままライブ配信されていた。
》ハルナっち……
》顔から血の気が引いている……
》さすがにこれは……
》過去の悲劇が繰り返されるのか……
》ああ、ハルナっちが……
》ヴァンパイアの毒牙に……
もりもりさんが、消え入りそうな声で呟く。
「大丈夫です、春菜さんなら、大丈夫です……」
私の基本ステータスは視聴者にも開示されている。
現在のレベルは、誰もが目にすることのできる状態だった。
》ハルナっちのレベルが……
》ヴァンパイアの特殊能力、レベルドレイン……
》レベルを低下させる能力か……
》ハルナっちのレベル、1になっちゃったよ
》あああああ、ハルナっちぃぃぃぃ
》レベル1になっちゃったよおおぉぉぉぉ
》ハルナっちのレベルが1に戻っちゃったあああああ
首を掴んでいたヴァンパイアの手が離れる。
どさっという音とともに、私は地面に崩れ落ちた。
「春菜さん!」
倒れ込む私。駆け寄ろうとするもりもりさん。
しかし、そんなもりもりさんを私は手で制した。
こちらに来なくていいと合図を送る。
「げほっ、げほっ」
反対の手で喉を押さえて咳き込む。
首を強く絞められていたせいで、すぐには声が出ない。
大丈夫、来なくていい。そう目で伝えた。
ヴァンパイアは満足そうに、私を見下ろしてくる。
「はあっ、はっはっはあっ! レベル1ですか!」
洞窟中に響き渡るような高笑いを上げた。
「レッサーヴァンパイアはせいぜい現在のレベルから1か2を減らす程度。対して、エンシェント・ヴァンパイアである私にかかれば、一気にレベルを大幅ダウン! どうですか、私の能力は! 私が吸い上げたEXPはおよそ11億ほどでしょうか……。人間にしては、まずまずといったところですね。元のレベルはいくつだったのでしょう? これであなたもレベル1。さぞや絶望し、無力な存在に成り下がったことでしょう! レベルはいくつ奪われたのでしょうね?」
私は片膝をつき、長剣を杖代わりにしてなんとか立ち上がる。剣を前に構えて、エンシェント・ヴァンパイアを鋭く睨みつけた。
「いいですね、その顔。その顔が好きなんですよ。その顔が見たかったのですよ。
絶望ですか? 諦めですか? ん? おや? あなたの目はまだ死んでいませんね? おかしいですね。元のレベルが高いほど、絶望も深いはずなのですが……」
――土の拘束!!
――残像光速移動!!
もりもりさんの魔法と、私のスキルの発動は同時だった。
ヴァンパイアの下半身が石膏のような物質で固められ、動きが止まったところへ私の水平斬りが煌めく。
勝負は一瞬だった。
ヴァンパイアの首が宙に飛ぶ。
何が起こったのか理解できない眼。呆然とした表情。
それがスローモーションのように見え、やがて首は放物線を描いて地面に落ちた。
ゴトッ。
ゴロゴロッ。
地面を首が転がっていく。
これで決着したと思い、私はつい手を緩めてしまった。勘が鈍っていたのだ。
「春菜さん! まだです! まだ生きています!」
もりもりさんの言葉でハッとした。私の覚醒レベルもリセットされている。エンシェント・ヴァンパイアのレベルドレインを受けたままなのだ。
「大丈夫です! ヴァンパイアを倒せば、春菜さんのレベルも元に戻ります!」
そうか、そういうことなのか。
私がフレイムドラゴンを倒せた理由。
リビングデッドを倒せた理由。
そして……
もりもりさんがここまで来れた理由……
「うあああああああああ!」
私は何としてもこのヴァンパイアを仕留めなければならない。
覚醒レベルを取り戻す必要があるのだ。
もりもりさんの魔法により、拘束されたままのヴァンパイア。
私はその両腕を叩き斬る。
続けて、両脚をも切断した。
切断面からは、粘性の高い紫色の血液が流れ出す。
だが、覚醒レベルが戻る感覚はない。まだヴァンパイアは死んでおらず、生きているのだ。
ヴァンパイアが油断したところを急襲した、私ともりもりさんの連携は完璧だった。
最後のとどめを刺そうとした時、ゆっくりと、もりもりさんがこちらに歩いてきた。
「よくやりました、春菜さん。終わりです。最後は私が……」
――巨大な土爪
もりもりさんの魔法により、彼女の腕がごつごつした岩へと変わる。その指先には、鋭い爪が伸びていた。
「よ、よせ……。やめろ……。やめろおおおお!!!」
地面に転がった首が叫ぶ。首だけになっても、まだ生き長らえているヴァンパイア。
牙を剥き出しにし、大きく口を開けて必死に命乞いをする。
それを無視して、もりもりさんはヴァンパイアの胴体へ向かった。胸のあたりを突き刺し、心臓を引きずり出す。
「これを潰せば……」
「や、やめろおぉぉぉ……」
もりもりさんが心臓を握りつぶす。
ぐしゃり、と鈍い音が響いた。
覚醒レベルが戻る感覚。
ヴァンパイアが絶命したことを悟る。
それと同時に、別の覚醒者との繋がりが戻る感覚があった。
もりもりさんが無言でこちらを見つめてくる。
私もその目を見つめ返した。
覚醒者同士の、言葉を介さない意思疎通。
そして、もりもりさんが静かに口を開いた。
「ようやく、帰れますね……。地上に……」
もりもりさんは自分のデバイスをこちらに向けた。
私たちはエンシェント・ヴァンパイアを倒した。
もりもりさんのデバイスには、獲得したアイテムの一覧が表示されている。
その一番上に表示されていたURアイテム……。




