第33話 マッド・スライムを倒す
私の剣が背中に刺さったまま、マッド・エイプは視界から消えていった。
「うわああああ……! お兄ちゃんに怒られるう……!」
両手で頭を抱えながら、天井を仰ぐ。
私の心は絶望に沈んでいた。
この配信のことは、すでにお兄ちゃんに知られてしまっている。
いままで怒ったことのない優しいお兄ちゃんだけれど、さすがにこれはまずい。
結婚が決まったお兄ちゃんに、少し嫉妬して持ち出した装備だ。ちょっと困らせようと思っただけだった。
超高額装備だなんて知らなかったのだ。
「なんとしても、神王の長剣を取り返さなければなりません!」
》【ぽんた】そんで、あのモンスター、表示は何色だったん?
「紫……です……」
》【ぽんた】強敵やのお。お嬢ちゃん、がんばりやあ
「くそお! くそお!」
私は八つ当たりで泥を踏みまくる。
分裂して弱体化しているであろうマッド・スライムは、私の敵ではなかった。
司令塔がいなくなり、統率が取れていないのだ。
あれほどの力を発揮していたのは連携のおかげであって、今のマッド・スライムはただの弱いスライムだ。
ピロン、ピロン、とデバイスからは経験値獲得の通知音。
同レベル前後の敵を倒した扱いらしく、たいした数値ではない。
それでも、再び司令塔が戻ってきて連携されては厄介だ。
私はできるだけ多くのマッド・スライムを踏み潰していった。
足元はマッド・スライムと泥が混ざり合っている。
泥は飛び散り、私の装備に跳ねかかってくる。
》【ぽんた】お嬢ちゃん、泥だらけやでぇ。金色の装備がだいなしや。顔にも泥はねてるで
「わかってますけど、敵を倒すのが優先です!」
私は懸命に泥の上で足踏みを繰り返す。
これでようやく、ほとんどのマッド・スライムの討伐が終わった。
「よし、マッド・スライムめ。私の強さがわかりましたか!」
》徹底しているな……
》初心者がよくやる雑魚いじめ?
》まあ、倒しておくのは戦略的に正しいけれど
なんだか、身体が気持ち悪い。鎧の中がぬるぬるしていた。
泥が装備の隙間から入り込んでいたのだ。
「うわああああ。泥が鎧の中にいいいい」
気持ち悪い感触に、思わず身悶えしてしまう。
》そりゃ入るよな
》鎧、脱ぎなあ
》その下って中学校の制服だっけ?
》洗ったほうがいいんじゃないの?
》大丈夫、俺たち、目つぶっとくよ
「脱ぎません!」
私は叫び、ダンジョンデバイスのレンズに飛んだ泥を指で拭った。
とりあえず、マッド・スライム。討伐完了です!




