第215話 戦闘が始まる
視聴者のコメントはAIが音声として変換している。
コメントが次々と流れる中、湊ちゃんは恥ずかしそうに顔を隠していた。顔が見えないように、兜の装飾と手で覆っている。
「ライブ配信を許可したことを、ちょっとだけ後悔しています、私……」
代わりに春日井君が周囲を警戒するように見回していた。
「それにしても、暗くてよく見えない。南波、なにか見える? 気配は感じる?」
「なんにも……。ボスに突然襲われるのは避けたいよね。ここのボスって……」
地下100階のボスはアイスゴーレム・ジャイアントだ。
ジャイアントアイスゴーレムではなく、アイスゴーレム・ジャイアント。
何が違うかと言うと、アイスゴーレムは上層階でも出現する。人間の身長ほどの大きさで、氷で作られたゴーレムだ。それがそのまま大きくなったのであれば、ジャイアントアイスゴーレムという名称になる。
だがアイスゴーレム・ジャイアントはゴーレムではなく、巨人族に分類される。もともとは巨人なのだ。巨人がアイスゴーレムの能力を獲得したと考えればわかりやすい。
「気をつけろ。巨大な姿だから、身を隠すのは難しいはずだけど、この部屋の広さだと見落とす可能性がある」
ボス部屋はとても広く、周囲は氷の塊が散乱している。非常に大きな立方体の氷がごろごろ転がっていた。地面だけでなく、天井も含め、氷のブロックが集まって部屋ができているようなものだった。
「デバイスではボスの正確な位置まではわからないんだね」
「ボス部屋がモンスターの探知を阻害しているんだ」
「蟻部屋とは違って、ここはボス以外はいないんだよね?」
「いないはずだよ」
「じゃあ、まずはこの広い部屋からボスの居場所を特定することからだね。適当に矢を打ってみようか」
「こちらの居場所を知らせるだけだよ。俺たちも気配を殺しながら探すしかない」
2人はゆっくりと歩き出す。
春日井君の踏み出した足が氷を踏んだようで、カリッと小さな音がした。
続いて湊ちゃんも同じように氷をパリンと踏んだ。
「危ない!」
春日井君が叫び、湊ちゃんに飛びついた。
50センチ四方はあると思われる氷のブロックが勢いよく飛んできて、背後の壁に大きな音を立ててぶつかった。
湊ちゃんは背中から地面に倒れ、その上に春日井君が覆いかぶさっている。
春日井君の両手は湊ちゃんの顔の横で地面についている。湊ちゃんを跨ぐように膝をついていた。
》ぐわあああ
》さっそく、やりやがったあああ
》イチャラブ発動……
》だから……だから……離れていなきゃ駄目なんだって
》離れろって言っただろ
》俺たちはなあ、決して適当に言っているんじゃねえんだ。そうやって散っていったカップルを散々見てきているんだ
》真面目にアドバイスすると、そんなものを避けられないのならボスに挑む資格はない
》その通り。互いに助け合うとかじゃねえんだ。2人で戦うなら、距離を取って離れなきゃいけないんだよ
》そうして1人は囮、もう1人は死角からの攻撃を狙うんだ。それがセオリー
》つまり、2人いるアドバンテージを使わないといけない。固まっていたら利点がなくなっちまうんだよ
コメントが流れていく最中も、今度は別方向から氷のブロックが飛んでくる。ボスは移動していると思われた。
春日井君はすでに立ち上がり、スチールシールドを手にしていた。これはAIが判断して自動的に装備させた盾だ。
「南波は俺の後ろに隠れて。なんとか盾でガードするから。そのあいだに作戦通りに」
「わかった」
湊ちゃんは春日井君の背中に寄り添うようにぴったりとくっついた。
》だから、離れろってーーー
》くっつくんじゃねえーー
「うー。やっぱり、春日井君の後ろで隠れている作戦でいいのかな? 敵の位置を捕捉するためとはいえ、みんなが離れろって言うし……」
》いや、これでいいかも
》つまり相手の目を欺く作戦なんだよね?
》そうか、俺たちは知らされていない作戦を想像しながらアドバイスをしなければならないのか
》なかなか難易度が高い注文だな
》まずは敵の正確な位置を突き止める、それからマーキング、そのあとで挟み撃ち
「正解です。相手もまだこちらのことを正確に捕捉できているわけではありません。まずはこちらが単独だと思わせます」
氷が飛んでくる間隔がだんだん短くなり、精度も上がっている。徐々にこちらへと近づいてきているようだった。
》氷が飛んでくる角度から位置を割り出す
》AIで敵の移動速度を計算
》位置を割り出すためには相手に攻撃させ続けたほうがいい
》つまり、意図的にこちらの場所を教えて攻撃させていたのか……
「みなさん、アドバイスありがとうございます。まずは敵の位置の捕捉、それができてからアドバイス通りに挟み撃ちにします」
湊ちゃんは春日井君から離れないように、背中側から肩に手を置いていた。
春日井君が前を向いたまま、小さな声で伝えてきた。
「少し気になることがある。初撃がやたら正確だったのに、2発目以降の精度が落ちている」
》この少年の言う通りだと思う
》どういうことだ?
》AIで解析中……
》向こうも馬鹿じゃない、モンスターなりに工夫しているんだ
》AIで位置が割り出せない。ということは、氷のブロックをぶつけて反射させたり、出どころをわからないようにしている
春日井君はコメントの声に頷く。
「ありがとうございます。じゃあ、南波。敵の位置が割り出せなかった場合の作戦に移行する」
「わかった、春日井君」
湊ちゃんは神王装備のスキルを発動し、高速で別の場所へと移動した。
映像には春日井君の背中だけが残される。
》き……消えた?
》スキルで移動したんだよ




