第148話 ライバル視するミリアと、仲良くしたいエリ
ミリアの外見は幼く見える。
見た目の年齢は、14歳の春菜より下だ。
一方のエリは、成熟した大人の女性だ。
色気がほとんどないミリアに対し、エリは妖艶な空気を纏っている。
サキュバスは淫魔だ。
普段、エリはその本性を隠していた。
色香を制御することもできるのがサキュバスだ。
男性を惑わす術に長けている一方、淫魔であることを隠し通すことも能力のひとつだった。
エリはサキュバスであることを隠し、人間の中で暮らしていた。男性が多い軍隊という職場を選んだのも、正体を隠しやすくするためだ。女性に対しては能力を発動できないため、見抜かれてしまうリスクがある。サキュバスは男性に対して高い優位性を持つのだが、同性にはめっぽう弱かった。
サキュバスの弱点は女性だ。女性が苦手である以上、同性からは距離を置くしかなかった。あるいはミリアが春菜に従うように、強い女性の庇護下に入ることが必要だった。
エリにとって、もっとも避けたいのは春菜やミリアを敵に回すことだ。
しかし、ミリアは一方的にエリをライバル視している。
ミリアは子供っぽく、下手したら小学生でも通用しそうな外見だ。それに対して、エリは抗いがたい魅力を持つ女性であった。
エリは豊満な胸をさらしで巻いて絞り、肉付きの良い臀部は下着で引き締めている。迷彩服の下はとても蠱惑的だ。
男性に対しては隠し通せても、ミリアの目はごまかせない。ミリアが欲しいものをすべてエリは持っていた。そこに嫉妬の感情がわかないはずもなく、ライバルと断じる理由でもあった。
それを物語るように、ミリアがエリを見る目は厳しかった。
眼光は鋭く、まるで敵を睨みつけるかのような目をしていた。
ミリアは自分の胸元に視線を落とした。
そこにあってほしい膨らみを想像しながら、考えを巡らせる。
モンスターであるミリアは、果たして成長するのだろうか? この胸は膨らむのだろうか? 足元まで見えているこの視界が、みずからの胸でふさがるときは来るのだろうか?
ぺったんこの胸。
それは春菜以上に平らだった。
しかし、エリになくてミリアが持っているものがある。
ミリアは鉛の箱を開け、タブレットを取り出した。
「ミリアはダンジョンタブレットを持っているのです。エリのデバイスは壊れているのです。ミリアの方が有利なのです。絶対に負けないのです」
困惑しながら、エリはミリアに訴えかける。
「ねえ、ほら。女性同士なんだし、協力しようよ。今は宝箱を縛りたいんだよね。ミリアちゃんもサキュバスなんだし、SMで使う縄くらい持っているでしょ? それを使いましょうよ」
ミリアは首を傾げた。初めて聞く『SM』という単語は理解できないが、サキュバスなら縄を持っていて当然なのだろうか?
そんな当たり前のことすら知らないのかと言われた気がして、ミリアは自分の無知さを少しだけ恥じる。その恥じらいを隠すように、苛立ちをぶつけた。
「縄なんてないのです! ミリアは鉄の鎖です! 鉄の鎖を使うのです!」
「て、鉄!? く、鎖!?」
エリは何かを勘違いしたのか、恐れおののくような様子だった。
「鉄の鎖で巻くの? ミリアちゃん……。意外と過激なんだね……」
「たしか、あったはずなのです。ダンジョンタブレットを操作して、アイテムを実体化し……」
ミリアはタブレットを操作しようとしたが、その手つきはおぼつかなく、どこか頼りない。
「初心者用のサポート機能が効かないのです……。ミリア、スマホとかタブレットとか、苦手なのです……。機械オンチなのです……」
「サポート機能は、Wi-Fiでインターネットに繋がっていないと使えないよ」
「ダンジョン内はネットワークに繋がっているはずなのです」
「ほら、放射線の影響で機械が壊れたんだよ。入り口に無線の中継装置があって、それが復旧するまではネットが使えないよ」
「そ、そんな……」
ミリアはうなだれ、その場にガクッと膝を突いた。だが、すぐに気を取り直して顔を上げる。
「そ、そうだ……。ダンジョン配信をして、視聴者に使い方を教わるのです!」
「残念だけど、ダンジョン配信も通信が復活しないことには無理なんだよね……」
「え……。あうぅ……」
この世の終わりと言わんばかりに、ミリアは天井を仰ぎ見た。
「ほら、そういうのはさ。誰かに教えてもらえばいいんだって。ね、目の前に先生がいるじゃない。私がいろいろ教えてあげるから。ミリアちゃんと仲良くしたいんだよ」
優しく微笑みかけるエリに対して、ミリアはさらに表情を険しくする。
「ミリアは先生なんていらないのです! 春菜お姉様がいるのです! 春菜お姉様に教えてもらうのです!」
「でも、ほら。きっと春菜ちゃんが頑張って無線を復旧させてくれるだろうけど、通信が回復するまでは私がいるから。ね、仲良くしようよ」
「サキュバスとなんて、仲良くなんてできないのです! ミリアの敵なのです!」
「いや、ほら、ちょっと待ってよ。同じサキュバス同士じゃない。私も人間界で暮らしていて、女性と接する機会がなかったの。ずっと友達がほしいなって思っていて。男性は魅了の魔法で操れても、女性には正体がバレてしまう可能性があったから、友達が作れなくて……」
「ミリアは、あなたと友達になんてならないのです!」
「あ、いや……。いきなり友達とかじゃなくて、ちょっとくらい仲良くしようってことで……。協力くらいはしましょうよ」
「協力なんていらないのです! ミリアが全部一人でやるのです! 宝箱を鎖で縛って、お姉様に処理してもらえば終わりなのです! エリなんて必要ないのです!」
「そんなこと言わなくても……。私、初めて女の子と話をしたんだよ。ミリアちゃんみたいな可愛い女の子と仲良くなりたかったのに……」
「可愛い……。ミリアが、可愛い……」
一瞬表情を緩めたミリアだったが、すぐに顔を強張らせて気を引き締める。
「ミリアが可愛いのは当然なのです! 可愛くないサキュバスなんて、サキュバス失格なのです!」
「とりあえずさ、私がタブレットの操作を手伝ってあげる。まずはアイテムを実体化させようよ」
「必要ないのです! ミリアは自力でやるのです!」
ミリアは頑なに、エリの協力を拒み続けていた。




