第146話 塞がれた入り口
私が使える魔法はメタル属性だ。
習得している魔法は3つ。
1つ目は、ミスリルの刃を射出するミスリル・カッター。
2つ目は、金属を自在に加工するメタル・トランスフォーメーション。
そして3つ目に、自らの肉体を金属化するメタリック・ボディだ。
これらに加え、覚醒レベルの上昇によりダンジョン・シミュレーターとモンスター召喚も可能になった。
私が放ったミスリル・カッターが気になったのだろう。セルゲイが動いた。
「これ以上、余計な真似はさせん。数万分の1の確率とはいえ、貴様の刃が宝箱に触れる事態は避けるべきだからな」
セルゲイが呪文を唱える。
「現れよ、土の壁。アース・ウォール……」
私へ向けてではなく、セルゲイは自身の背後――ダンジョンの入り口に魔法を放った。
セルゲイの適性は土属性。分厚い土壁が、彼とダンジョンの境界を遮断するようにそそり立つ。
「自分を守るためではなく、入り口を塞いだの……?」
「いずれコンクリートで埋まるのだ。身を守ることに何の意味がある?」
「私のカッターを中へ通さないため。ただ、それだけのために?」
「念には念を、だ。不確定要素は排除しておくに限るからな」
「本当に、それだけ?」
私の問いかけに、セルゲイが顔を歪める。
「何だと?」
「本当の理由は、他にあるのでしょう?」
「どういう意味だ?」
私は足元へ視線を落とす。コンクリートがせり上がる速度が、心なしか速まっている気がした。
「さっきまで、コンクリートがダンジョン側へも流れ込んでいた。粘性があるから入り口を塞ぎはするけれど、ここを完全に埋めるには時間がかかる。でも、あなたが入り口を土壁で塞いだことで、逃げ場を失ったコンクリートがより早くここを埋め尽くすことになる」
「ふ。ははは。その通りだ。貴様のミスリルカッターなど最初から気にも留めていない」
「一刻も早くここを埋め立てたいということですよね。でも、それは私を恐れたから。私がこの状況を変えることを危惧した……。つまり、あなたは私を恐れたんだよ」
「ははは! 念のため、と言ったはずだ。貴様のような小娘を恐れる道理がない」
「でも、あなたが自らの手で入り口を塞いだのは事実。ところでその魔法、すぐに解除できるのですか? できませんよね?」
言葉の真意を測りかねているのか、セルゲイの表情がさらに険しくなる。
「何が言いたい? 何を企んでいる」
「どうやって入り口を塞ごうか考えていたんです。そこでミスリル・カッターが『一石二鳥』かなって思った。あの刃はミリアを呼び戻し、ついでに入り口を塞ぐきっかけも作ってくれた」
「は。わけのわからないことを」
セルゲイが吐き捨てるように言う。
私は彼の足元を指差した。
「足元にガイガーカウンターが落ちています。それで放射線量を測ってみたらどうですか? 今はもう、何の影響もなくなっているはずですよ」
「そんなわけが……」
「あ、土壁で塞がれていて測れませんね。失礼しました。確認ができないですね」
ダンジョンの入り口は完全に閉鎖されていた。すぐに測定ができるような状況ではない。
「口から出まかせの、ハッタリか!」
挑発的な私の言い方に、セルゲイが激昂する。
荒らげる彼の怒声に対し、私は冷静に返した。
「事実ですよ。測定できれば、はっきりすることです。私が懸念していたのは、あなたがダンジョンに入ってしまうことだった。放射線の脅威が消えたダンジョンにあなたが入り、あの宝箱を手に取ること。蓋を開けるだけで私たちを殺せる、強力な自爆装置に変わる。自爆を厭わない人間が、一番恐ろしいですから」
「俺が……思惑通りに動かされていたというのか? そんなはずは……」
セルゲイは憤怒しながらも、複雑な表情を顔に浮かべていた。
ハッタリと言えば、そうなのかもしれない。
だが、ダンジョン・シミュレーターを通じた直感に従って、私は動いている。
確証があるわけではない。しかしこれまでの経験から、根拠が薄くとも確信を持って話せるようになっていた。
これは言わば、戦いにおける心理的なアドバンテージにもなる。
自信を持って言い切ってしまうことで、相手の動揺を誘うことに成功していた。




