第136話 ダンジョン配信します
大和総理はもちろん、瑞稀社長もアメリカへは行かない。
私とミリア、そして同行する12人の軍人でアメリカへ向かうことになる。
ヘリコプターで夜の長瀞を飛び立ち、私たちは羽田空港に到着した。
ここからアメリカ軍の軍用機に乗り換え、現地へと出発することになる。
私もミリアも、手には瑞稀社長から提供されたタブレットを持っている。ダンジョンデバイスの代わりとなる「ダンジョンタブレット」だ。高度なAIが搭載されており、戦いを的確にサポートしてくれる。
そのほかに、2人の右耳にはWebカメラが装着してある。これも瑞稀社長から提供を受けたもので、ハンズフリーで配信を行うことができる優れものだ。
さらには、カメラに内蔵されたマイクを通してタブレットに指令を伝えることもできる。画面を見る必要がなければ、タブレットを手に持たずとも操作が可能だ。
軍用機はいつでも離陸できる態勢を整えていた。
夜間のため機体の色は判然としないが、薄いグレーのような塗装がされている。旅客機とは違って、ずんぐりとした武骨な姿だ。機体にはAIR FORCEの文字がプリントされていた。
「ねえねえ、グレゴリーさん」
「なんだろうか?」
「ダンジョン配信、してもいいかな?」
私の言葉に、グレゴリーさんは露骨に渋い顔をする。
「できれば、ご遠慮願いたいのだが……」
「大和総理も言っていたけれど、もし陰謀なんかがあったら、絶対にライブ配信しておいたほうがいいと思うんだよね。監視の目があるってことだからさ。グレゴリーさんも上層部から聞かされていないことがあるんでしょ? 配信していれば、悪い人も動きにくいと思うよ」
「確かに一理あるのだが、ロサンゼルス・ダンジョンの場所が特定されてしまうのは避けたい」
「そこはAIを使って、外部の風景を除外すればいいんじゃないかな? 入り口の場所さえわからなければいいんでしょ?」
しばらく黙り込んでいたが、最後は渋々といった様子で配信を了承してくれた。
「くれぐれも、ダンジョンの場所だけは特定されないように」
私が配信を始めると、すぐにコメントが流れ始める。
》おお、ライブ配信が始まった!
》待ってました!
》デバイスの前で、正座して待機してたぜ
》何ヶ月もハルナっちの顔を見てなかった気がする。懐かしい
》相変わらず可愛いハルナっち
》ミリアちゃんもいる!
》おお、ミリアああああぁぁぁ
》俺の天使!
》ごめん、ハルナっち。今日だけ浮気させてくれ。俺の嫁はミリアだ。
》で、状況がいまいちわからないのだけれど? なぜに、US ARMYなん?
》知ったかぶり、乙。AIR FORCEやで。陸と空の区別もつかないのかよ。
》いやいや、どっちでもなくて、合同部隊かもしれんし。特殊部隊かもしれんやん。
視聴者が好き勝手に発言する中、瑞稀社長と大和総理からのコメントも届いた。
》【藤井瑞稀】くれぐれも、怪我がないように
》【大和昇一郎】私からも、よろしく頼むよ
耳に装着しているカメラは、自分の姿を映すことができない。
私のカメラはミリアを映し、ミリアのカメラは私を映している。
私はミリアのカメラに向かって手を振った。
「瑞稀ちゃん、大和君。コメントありがとうございますぅ~」
瑞稀社長が総理のことを『大和君』と呼んでいたので、つい、私も同じように呼んでしまった。
「あ、すいません。大和君は失礼でしたね」
私は慌てて頭を下げた。
》【大和昇一郎】大和君でかまわないよ
総理からはすぐに返答が入った。
》え!? デバイスリンク・テクノロジーズの社長!?
》総理大臣!?
》いやいや、違うでしょ
》君づけ、ちゃんづけで呼んでいたから、友達だろ?
》同姓同名の?
》友達なんだろ? たまたま、同じ名前の。
》さすがのハルナっちでも、総理大臣や大企業の社長と友達なわけない
》だよな
》びびったぜ
》ハルナっちが大物とつながりができたなんて、まだ早いよな
》実は本物だったり?
》いやいやいや、ないでしょ。あったら100万スパチャするぜ
》お前、以前もそんなことを言ってなかったか?
》ハルナっちが社長と総理の目の前で、『瑞稀ちゃん、大和君』と呼んだらスパチャする
》その前に、フレイムドラゴンとリビングデッドの100万はどうなった? 合計で200万だぞ
》ごめん、まだだ
》ほんとにスパチャする気あるんか? 金なんて持ってねえんだろ?
》するって、本当に社長と総理と知り合いだったらな
》本当か?
》ああ、合わせて300万スパチャするぜ




