第130話 春菜のダンジョン
今の私の装備は、
【ミスリルの大剣】
【初級用革鎧】
【木のヘルム】
【薄布の小手】
【ぼろ革のブーツ】
となっている。
初級用革鎧はそれなりの見栄えだが、木のヘルムがまったくイケていない。半球のお椀を頭に乗せているような見た目なのだ。
小手とブーツはダンジョン部の部員が取ってきてくれたものだが、正直あまりいい素材ではなかった。ダンジョン部には悪いが、あれは部活動の遊びのようなものだったし、もっといい装備が欲しかった。
そう思ってしまうのは、やはりミスリルの大剣が装飾も豪華で見栄えが良いからだ。
私はこの大剣を振り回し、亡霊たちを薙ぎ払いながらダンジョンを駆け回っていた。
この大剣はかなりの大きさがあるが、非常に軽い。軽いと感じるのはおそらく私のレベルが71もあるからだろう。片手でもらくらく扱えるし、左手にはダンジョンタブレットを持っていた。剣を振るいながら、配信を行うこともできた。
倒された亡霊が黒い霧になって消えていく。私は地面の石を飛ばしながら、駆けずり回っている。
もう少しでこの階層のマッピングが終わる。タブさんの言う通り、脅威となるものはいない。だからこそ、ふと疑問に思った。
「あれ? タブさん。ちょっと聞いていい?」
『――主よ。何でも聞いてくれ』
「今は私ひとりきりだし、モンスターは襲ってこない。守るべき人もいないから武器は必要なかったんじゃない?」
『――武器は必要だ』
「まあ、確かに、このすごい剣でモンスターを倒しながら行くと早いよね。でも、襲ってこないんだし、避ければいいだけだね」
『――次のダンジョンでも必要だろうし、今このダンジョンでも必要だろう』
「次? 次のダンジョンって?」
『――アメリカには行かないのか? 主よ?』
「ロサンゼルスって言っていたっけ? 飛行機で何時間かかるんだろう?」
『――主は飛行機に乗ったことはあるか?』
「ないね。ちょっと楽しみかも」
『――アメリカに行くことを決めているようだな』
「決めたというわけではないけれど、困っているのなら助けてあげたいとは思うよね」
私が見ているタブレット画面の下には視聴者のコメントが流れている。
》ハルナっち、タブレットだけ見て、モンスターはまったく見ずに倒しているな
》テレビを見ながら宿題をやる小学生みたい
》本当にこのダンジョンはハルナっちのダンジョンなんだね
》新しい家にする?
》お兄ちゃんに怒られたら、家出してここに隠れるといいよ
》マッピングはほぼ終わっているね
》95%くらい。残り5%
》向こうに何か見えたね。あれは何?
》おお、見覚えのある
右手だけを動かして、適当に亡霊をあしらっていた。コメントを見て、私はタブレットから顔を上げた。前方に階段が見えた。
階段の入口は積まれた石で四角形に囲まれている。その奥には上へと続く段が見えた。
階段にたどり着いた私はそのまま登っていく。ダンジョンにある普通の階段だった。
》うーん、やっぱり地上ではなさそう
》マッピングアプリの表示は『地下1階』から『地上1階』になった
》でも、あいかわらずダンジョン内だ
上へ登ると、あまり代わり映えしない光景だった。周囲には岩が転がっており薄暗い。どこまでも広がっていて、亡霊がたくさんいる。
亡霊に向けてデバイス解析をしてみる。
――――――――――――――――
やせた亡霊
推定LV 95~110
HP 150
物理攻撃が有効
ドロップアイテム・なし
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「あれ? 下の階層より強くなっている?」
亡霊をよく見ると、ほんの僅かだが、痩せこけていた体格が少しだけマシになっていた。
『――主よ。このダンジョンは反転しているやもしれぬ。上へ行くほどにモンスターは強くなるようだ。いずれはこの亡霊は本来の姿となるはずだ。今はボロ布をまとっているが、どうやら本来の姿は違う姿らしい』
ふう、とため息をつく。
「このダンジョンは地上220階まであるタワー形状かもしれないね。私なら一番上まで行って、ダンジョンから出られるのかもしれないけれど、かなりの時間がかかりそう」
『――瑞稀社長たちを連れて行くのは無理だ。計算上、モンスターは恐ろしいレベルにまで上がるだろう。最上階まではとても無理だ』
「じゃあ、やっぱり下で探すしかないか」
私は下の階層へと戻る。
最初にいた地下1階はマッピング領域が5%ほど残っていた。
『――主よ。階層主を探すのだな?』
「はたして階層主がいるかどうか」
『――そうだな』
》階層主を倒して扉を出現させるってこと?
》そう都合よくいかないかもしれない
》ハルナっちも、それはわかっているようだね
》いろいろとおかしなことが起こっているしな
》もしかしたら地上10階まで上がらないといけないかもしれないし
》まあ、ハルナっちのダンジョンだから普通なわけがない
》とりあえずこの階層で探すのね
》そこに出口があればそれで解決
》なかったら?
私は残りの5%部分を歩いて探索する。未探索の領域は減っていく。しかし、どうしても1%が埋まらなかった。
そこにはとても巨大な岩がそびえていた。
岩といっても長方形をしており、表面は平らで、磨き上げたように滑らかだった。
「岩というか、石の箱かな?」
とても巨大な石の箱だった。
『――この内部になにかがあるようだ。どうやら階層主ではないらしいが……』
珍しくタブさんから出たのは曖昧な言葉だった。高度なAIとはいえ、予測ができないことも当然ある。
》タブさんがこのダンジョンでも武器が必要だと言ったのは、このためじゃない?
視聴者からのコメントが入った。
「この岩を壊せ、ということでしょうか?」
》ミスリルの大剣なら、破壊できるかも
『――主よ。壊すのではなく、開けるのだと思われる』
タブさんの言葉で、岩をよく観察すると、1面だけが違っていた。どうやら扉になっているらしく、端から3cmほどのところに継ぎ目のような筋が入っていた。
「この隙間を狙って岩を斬ることができるかも」
『――中のものを傷つけることなく、扉を開けるのだ』
私はミスリルの大剣を頭上高く持ち上げ、岩に向けて振り下ろした。




