第129話 新しい武器
「ここから出るための方法がわかったのか?」
グレゴリーが私に問いかける。
「まだわかりませんが、私だけは亡霊に襲われません。だから、私一人でこの階層を走り回って、まずは全領域をマッピングしようと思います」
「わかった。我々はそれまでなんとか耐えよう。ここは地下1階だ。必ず出口の階段があるはずだ」
グレゴリーの言葉に少し気になることがあった。
ここは、本当に地下1階なのだろうか? 本当に出口の階段があるのだろうか?
奥多摩のダンジョンは入ってすぐが地下1階だ。マッピングアプリの表記も地下1階となっている。
だけど、嫌な予感があった。
「どのくらいの時間なら防衛できそうですか?」
「弾の減り方からいって、2時間から3時間ほどで尽きるだろうな」
「最悪のケースも考えなければなりません。私が呼び出したのは地下220階なのですが、マッピングアプリの表記は地下1階となっています。もしもここが地下220階に相当するとしたら……」
「それは最悪だな。220階分を登らないとダンジョンから出られない、と?」
「はい」
「もしそうなら、絶望的でもあるな」
「そうでもないですよ」
私は軽く微笑んでみせる。
「なに?」
「まずはこの階層の探索をします。走り回ってマッピングをしてきます。状況を把握して、対策はそれからでしょう」
「わかった。だが、筑紫春菜さん。あなたの推測がもし正しいとしたら、我々は出し惜しみをしている場合ではないでしょう。少しでもあなたに協力しなければ」
グレゴリーはダンジョンデバイスを操作して、アイテムを実体化した。
一本の大剣が現れた。
刀身は20cmを超える太さだ。長さも私の身長の3分の2ほどあるかもしれない。かなり大ぶりの剣だった。
柄の豪華な装飾に、刀身は鈍い金色をしている。
ひと目で高価だとわかる剣だった。
「これはミスリルの大剣だ。これを使ってくれ」
グレゴリーは剣の柄を私の方へ差し出した。
「我々の世界には存在しないミスリルと呼ばれる金属で作られている。アメリカ軍ダンジョン探査秘密部隊が所有するもっとも強力な武器だ」
「こんな高価な剣を?」
「今は筑紫春菜さんに協力することが最善の策だ」
「ありがとうございます」
私は頭を下げる。
「礼には及ばない」
「ちょっと使ってみてもいいですか?」
「もちろんだ」
ミスリルの大剣を手に取り、亡霊の元へ走った。軽く剣を振ると、まるで紙でも切るかのように敵を斬り裂いてしまう。
「すごい……」
瞬く間に、20体ほどを倒した。離れたところにはまだ亡霊がいるが、周囲のモンスターはいなくなった。グレゴリーと瑞稀社長が近寄ってきた。
「もしも日本の市場に出したとしたら、ステータスからいって10億円といったところか。神王の長剣には少し劣るな」
「そんないいものを。ありがとうございます。大事に使います」
私は剣を胸に抱えながら、心からのお礼を言った。
私を見て、グレゴリーは誰の目にも明らかなほど動揺していた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。差し上げるわけではないぞ。ここを出たら返し……」
そのグレゴリーの口を瑞稀社長が手で塞いだ。
「むぐ……」
「買い取り費用はデバイスリンク・テクノロジーズ社が出すわ。だから、春菜ちゃんの物にして」
口を塞がれた手を、グレゴリーは振りほどきながら言った。
「いや、待ってくれ。100億だって譲るわけにはいかない」
「じゃあ、200億。これで決めて」
「馬鹿な。戦闘機より高価ということになるじゃないか」
「今このダンジョンにおいて、その剣の価値は高いわ。物というのは時と場所で値段が変わるものよ」
「なぜだ? なぜ、買い取る必要なんてある? ここから出たらもう必要はないじゃないか?」
「そうかしら? 借り物の剣と自分の剣。モチベーションが全く変わるものよ。従業員に100万円のパソコンを使わせる時、『それはあなたの物、自由に使っていいのよ』と伝えたらどうなったと思う? 目の輝きがまったく違った」
「しかし……」
「協力するんでしょ? 違うの? 支払い先を教えなさい。ダンジョンポイントの支払いでも構わない?」
交渉は瑞稀社長のペースで進んだ。グレゴリーは渋々といった様子ではあったが、瑞稀社長から200億円分のダンジョンポイントを受け取っていた。
「さあ、春菜ちゃん。思いっきりいってらっしゃい。私たちはここで待っているわ。春菜ちゃんは何かをやってくれるような気がする。なぜだか期待してしまうのよ。これでも、人を見る目は自信あるの」
瑞稀社長は明るい顔で笑顔を向けた。
私はゴブリンソードをダンジョンタブレットに格納し、ミスリルの大剣を垂直に掲げた。
「ありがとうございます。社長……。じゃなくて瑞稀ちゃん。強い武器があると安心感があります。きっとみなさんをここから出しますので。待っていてください」
ミリアはここに残らせて、瑞稀社長と秘密部隊のメンバーを守ってもらうことにする。
私は一人でこの階層の探索に出る。
『――我が主よ、行こう。ここは主のダンジョンである。主を脅かすものは何もないであろう』
ダンジョンタブレットが私を鼓舞してくれた。
「タブレットさんの言う通りだったね。すでに武器はあるって」
私が武器が欲しいと呟いた時、ダンジョンタブレットは『――武器はすでにある。このダンジョンに持ち込まれている』と言っていたのだ。
「タブレットさんってなんだか言いにくいな。タブさんでいい?」
『――もちろんだ。主の好きなように呼んでくれてかまわない』
「じゃあ、タブさん。行こう。出口を見つけに」




