第118話 ミリアの元へと向かう
視聴者と一緒に、ミリアの居場所を探し当てようと試みる。
話しているうちに気づいたのだが、ミリアは私の電話番号を数字ではなく絵として認識していた。文字も一部しか読めない。
「あのねえ、ミリアねえ、ひらがなは読めるよ。数字も0と6と8と9は覚えているよ」
誰にも教わっていないのに覚えてしまったそうだ。自分で頭が良いと言っていたが、あながち嘘でもないらしい。
なんとか会話を通じて指示を出し、誘拐犯のスマホを操作させてビデオ通話に繋ぐことができた。
これできっとミリアの現在地がわかるはずだ。
周囲の状況を映してもらってもいいし、地図アプリを起動して現在地を調べてもいい。
》とりあえず周囲の景色を映してもらおう
視聴者のコメントに従って、ミリアにスマホを動かしてもらう。ビデオ通話の映像がミリアの顔から切り替わった。
「こんな感じ。木ばっかりなの」
ミリアが窓の外にスマホを向けた。ミリアは森の中と言っていたが、実際は雑木林のようで、農機具などを置く小屋の中にいるらしい。
窓の外で何かが光ったように見えた。どうやら金属に光が反射したようだ。
》太陽の光が反射したね
》なんだろう?
》誰かがいる?
》ダンジョンハンターっぽい……
》管理協会か事務局の監視だろうね
》どっちだろう? どっちの組織だ?
》どっちかは重要じゃないだろう。監視がいることが問題
》何人くらいいるのかな?
》複数いるだろうね。ミリアを見失わないようにするために
ミリアは監視対象になっている。監視しているハンターの姿は目視できないが、どこかに潜んでいるのは間違いなかった。
ミリアの居場所を確認しようと地図アプリを起動してもらったのだが、現在位置が取得できない。
》おそらくGPSの信号を妨害しているんじゃないかな
》何かを警戒している?
》そういえば、陰謀論とかあったね
》ミリアを兵器に利用するとか?
》各国の諜報員が国内に入り込んで、ミリアを狙っている……
》ミリアを自分たちの国に連れ去ろうと……
》デマだと思うけれど
》とにかくGPSが潰されているのは事実
》今は通話を妨害されていないけれど、急ごう
》会話を傍受される可能性も気にしておこう
》早く居場所を特定しないと
私は安易に考えていたが、想像以上にミリアの置かれている環境はシビアなものなのかもしれない。
「ミリア、あなたのところに行きたいの。だから、なんとか場所を突き止めたいのだけど。何か覚えていることはない? どうやってそこに連れて行かれたの?」
「車だよ」
》地図アプリに途中までの移動経路が残っているかもしれない
》ミリアに出会うところまでか
》よし、少しでもミリアに近づこう
地図アプリの履歴を確認すると、移動経路が残っていた。GPSの信号が途切れているのは埼玉の長瀞駅近郊だ。
ミリアはこんなところまで連れてこられていた。都内にいると思い込んで探していたら、見つけるのは難しかっただろう。
さっそく行動を開始しようと、路線を調べる。
「私は急いで長瀞駅に向かいます。何線だろう……」
》秩父本線
「うわあ、時間がかかりそうだな……」
ネットで乗り換え経路を調べたが、何度か乗り換えが必要なうえに、電車の待ち時間も長かった。
面倒だし時間もかかるなと頭を抱えていると、新たなコメントが入った。
》ハルナっち、今どこにいるの? 新宿が近いならヘリを出すよ
「え!? 遠くはないですけど……」
なんと、ヘリコプターを出してくれるという提案だった。
》金持ちキター!
》やめろ、やめるんだ!
》どうせIT企業の社長とかだろ、俺達の敵だ!
》くそー、ヘリでナンパしやがって
》ハルナっち、やめてくれー。イケメンと二人でヘリに乗るなんて
》金に釣られるハルナっちなんて、見たくないよー
》うわあ、俺もヘリさえあれば!
否定的な視聴者たちを余所に、ヘリの提供を申し出てくれた本人からコメントが入る。
》おい! お前ら! 妄想が激しい。あたし女だし。なんなら40過ぎのオバサンだし。新宿のDDビルわかる? 入口の受付に話を通しとくから
私は喜んでこの提案を受け入れることにした。
DDビルはダンジョンデバイスの開発を行っている会社の所有するビルだ。ハードウェアからソフトウェアの開発までを担っている大手のIT企業である。
「ありがとうございます! すぐに向かいます!」
私は急いで電車に乗り、新宿へ向かった。デバイスはずっとビデオ通話のままにしておいた。
「ねえ、ハルナお姉様」
ミリアに話しかけられた。
「なあに? 住所とかわかったの?」
「ううん。そうじゃなくて。ミリアがそっちに行ってもいいんじゃない?」
少し不安はあるが、話を聞いてみる。
「どこかで待ち合わせをするとか?」
「ううん。そうじゃなくて」
「どうするの? ミリア?」
「ミリアねえ、犬なの。すごい嗅覚なの。匂いをくんくん嗅いでお姉様のところへ行きますです」
「そんなことができるの!?」
少し驚きながら尋ねる。
「はい。お姉様に、ちょっとおならをしてもらえば、それでもうばっちり、たどり着けるのです、はい」
「…………」
おならの匂いをたどる……だと……。
「春菜お姉様?」
私はすうっと軽く息を吸い込む。
周囲の乗客に聞こえないよう、できる限りの小声で返した。
「ミリア。覚えておいて。美少女はおならをしないの」
でもまあ、最終手段としては考えておいても悪くはないだろう。
犬が飼い主の匂いを覚えているように、きっとミリアは私やもりもりさんの匂いを覚えているのだ。
万が一、どうにも手段がない場合は仕方がない。
その時は、もりもりさんにでもお願いすることにしよう。




