第116話 ダンジョンの外でのライブ配信
もりもりさんは、いつでも私の力になってくれると言ってくれた。
その後、しばらく話をしてから喫茶店を出た。
もりもりさんと別れた後、私は歩きながらダンジョンデバイスを取り出した。
電源を入れ、動画配信のスタートボタンを押す。
ダンジョンの外でライブ配信をするのは、これが初めてかもしれない。
「えー、みなさん。私は今、家の近所をぶらぶら歩いています。プライバシーの関係で、背景はぼかしていますのでご了承ください」
デバイスのAI機能により、私の背後はいい具合にぼやけて表示されている。
「さっきまで、もりもりさんと話をしていました。神王装備に匹敵するような装備を手に入れれば、お兄ちゃんに認められると思っていたのですが、そのためにはまず見守り機能を解除してもらわないと難しそうで、ジレンマに陥っています」
告知もなく突然始めたライブ配信だったので、視聴者は最初こそ少なかったが、徐々に人数が増えてコメントも流れ始めた。
》私服のハルナっちだ
》ハンターのプライベート映像?
》ついに、ファンサービスを始めたか?
「いえいえ、ファンサービスというわけではありません。思いつきで回しているだけです。実はみなさんに相談したいことがありまして。見守り機能の制限がかかったまま、お兄ちゃんに認めてもらうにはどうすればいいか悩んでいるんです。制限の内容は、配信が1日3時間、1ヶ月のDPが5万ポイント、そして地下50階以下への立ち入り禁止です」
》最後の制限がやっかいだね
》下の階層へ行かないと強い装備は得られないよ
》レベルも上がらないしねえ
「それで、ちょっと思ったのですが、みなさんはミリアを覚えていますか? ダンジョンの地下218階で出会ったサキュバスです」
》もちろん
》ネットでも有名になっているよ
》もしかしたらハルナっちより人気かも
》ファンクラブもできている
》とてつもなく防御力が高いのに、攻撃力が皆無ってのも、庇護欲をかき立てられるのかな?
「そのミリアの助けを借りたらどうなのかな、って思いまして」
》ミリアに下の階層へ行って、すごい装備を取ってきてもらうの?
》それもありなのかな?
》ちょっと、ずるいような気もするけれど
》まあ、見守り機能を解除してもらうことを第一に考えるとそうなるかな
「確かにミリアに装備を取ってきてもらう手もあるかもしれませんが、それだと私は何もしないことになってしまいます。それではきっと、お兄ちゃんは認めてくれないと思うんです。それよりも、ミリアの存在自体が、まだ誰も知らないダンジョンの秘密そのものだと思うんですね。彼女と一緒に、未知の謎を解き明かせば、それはすごい実績になると思いませんか?」
》なるほど、そういうことか
》新規情報を取引材料とするわけね
》ハルナっち、マジ賢いわ
》確かに、情報は価値を生むな
「そして、あわよくば、神王装備を超える装備を手に入れる……と!!」
私は気合を入れるように、拳を握りしめて突き上げた。
》それはちょっと難しいんじゃ?
》さすがにねえ
》まあ、このお気楽な感じがハルナっちのいいところ
「ただ、この作戦には一つ大きな問題がありまして……」
》問題?
》なんだろう?
「ミリアが今どこにいるのか、わからないのです。実はライブ配信を始めたのはこれが理由でした。みなさんの中で、ミリアの情報を持っている人はいませんでしょうか?」
》なるほどおー
》ミリアについての情報を得たいのね
》俺は何も知らないな
》私もわからないですね
》わいも知らんなあ
》原宿で見たって友人はいた
》他にも新宿での目撃情報もあったな
》掲示板の書き込みにもちらほら情報があったよ。主に都心だね
》どうも関係筋の情報によると、ダンジョン管理協会とハンター事務局が合同で監視下に置いているらしいよ
》一応、モンスターだからね。ダンジョンの外に出た初のモンスター
》以前に魔物石を使ったテロが起こったことがあるから、厳密には初ではないね
視聴者から、次々と情報が書き込まれていく。
それらを整理すると、ミリアは現在、東京のどこかで自由に行動しているようだ。
ダンジョン管理協会とハンター事務局はミリアを監視しつつ、あえて自由にさせているらしい。人間に危害を加える存在かを確認したいようだが、強すぎて迂闊に手を出せないという事情もあるようだ。現実的にミリアの拘束は不可能に近いほど困難だろうし、これといった実害もないため、強硬手段には踏み切れないのかもしれない。
》そういえば、テレビの街頭インタビューで映っていたこともあった
》地上波デビューもしているのか
》ハルナっちは先を越されたね
》芸能事務所がバナナを餌にスカウトしたという噂も聞いた
》それは多分、ただの噂
》ネットには動画とか写真がいっぱいあるね
》ダンジョンチューブにも動画があった。渋谷のスクランブル交差点
》勝手に写真集を作って販売している人もいるよ
》スキルを使わずとも、たくさんの男どもが魅了されている
》さすが、サキュバス・クイーン
とりあえず都内にいるようなので、探せば見つかる可能性は高そうだ。
ミリアにダンジョンデバイスを持たせるのは、やはり問題なのだろうか。フレンド登録してお互いの位置情報を共有できれば、いつでも会うことができる。
そういえば、もりもりさんとはフレンド登録こそしたが、位置情報は共有していない。まだそれほどの仲ではないのだから、当然といえば当然である。




