第115話 ジレンマ
もりもりさんとの話で、ダンジョンは他にも存在する可能性が見えてきた。
だが、奥多摩以外のダンジョンが見つかったとして、そこでの動画配信は許可されないのだろうか?
この疑問について、もりもりさんに聞いてみる。
「別のダンジョンが秘密なら、当然そこでの動画配信なんて、できませんよね」
「そんなことはありません。不確定要素が多いので他言は控えてほしいですが、もし春菜さんが別のダンジョンに行けたなら、配信自体は構いませんよ」
「そうなのですか?」
「現に春菜さんは地下220階まで配信しましたし、管理協会が秘密にしているのは未知の領域があることですが、それは不確定な情報で一般ハンターを危険に晒さないためです。協会は情報を統制したいわけではなく、確定した事実については公表しています。神王装備も広く知られていましたし、隠してはいませんでした」
「そういえば相場もありましたね」
「それは、亡くなったハンターの遺族に、買い取る形でお金を支払っていたからですね」
「なるほど」
「ダンジョン配信は広く情報を共有するために行われています。だから、春菜さんがそこで知り得た情報を発表するのは何の問題もありません。私から聞いた話ではなく、自分の目で見て体験した情報なら公表しても問題ない、ということです」
「お兄ちゃんは上層で常識を学べと言っていたけれど、それは別のダンジョンへの道を探させないためなのかな?」
「それはないと思いますよ。お兄さんは単純に春菜さんの身を心配されているだけだと思います。歳が離れた妹ですから、冬夜さんは春菜さんを溺愛していますよね。少し嫉妬してしまいます」
「私も、もう中学2年生なんです。とっくに、お兄ちゃん離れしているんですけどね」
「そうなのですか?」
もりもりさんは少しだけ意外そうな顔をしたが、すぐに優しい表情に戻る。
「私も成長しているんですよ。だから、それを証明して、お兄ちゃんに見守り機能を解除してほしいんです」
「私でよければ協力しましょうか?」
「いえ、こうしてお話を伺えるだけで助かっています。見守り機能の解除は、自分でなんとかしないと」
「まあ、そうでしょうけれど、春菜さんが高校生か大学生にでもならないと無理なんじゃないでしょうか。あの人、過保護なところがありますから。しばらくは子供扱いが続くと思います。自分の子供ができたら親バカになりそうですよ」
「ああ、なりそうですね。お兄ちゃんなら」
「ですよね。子供はある程度、自分で考えるように放っておいてやらないと。親がなんでもやってしまうと、自分で考えない子になってしまいますから」
少し母性を覗かせるような、もりもりさんの言葉だった。
「自分で考えない……ですか……」
もりもりさんは私に対して言ったわけではないのだろうが、私は自分のこととして捉えてしまう。
「私に何ができるのでしょう……」
「春菜さんはそのままでいいのではないでしょうか。少しずつ成長していけば」
もりもりさんから見ても、私はまだ子供なのだ。お兄ちゃんからも、もりもりさんからも、そう見えている。
もう中学2年生、来年には3年生になるというのに。
私は腕を組み、天井を見つめながら考え込んでしまう。
「うーん。神王装備を超えるものを手に入れたら、お兄ちゃんに認めてもらえると思ったんですけど」
「あの装備を超えるものを手に入れるのは、さすがに無茶だと思います。でも、もし手に入ったら冬夜さんも認めざるを得ないでしょうね」
「あれを超える装備を探すには見守り機能が邪魔だし、解除してもらうにはお兄ちゃんに認めさせなきゃいけない。ジレンマだなあ」
何らかの突破口が欲しかった。
その時ふと、頭に浮かんだのはミリアだった。
ミリアはハンターでもなければ人間ですらない。
地下218階で出会ったサキュバス・クイーン。
レベル173のモンスターだ。
そういえば、ミリアはどこで何をしているのだろう。
ハンターたちが到達している水準より格段にレベルの高いミリア。
規格外なミリアの助けを得られれば、予想もしないことが起こるんじゃないかと思えた。




