第114話 神王装備の入手経緯
まだ、本題に入っていなかった。
もりもりさんを呼び出したのは、神王装備について詳しく聞きたかったからだ。
お兄ちゃんがどうやって、あれほど強力な装備を手に入れたのか。もりもりさんは、どこまで事情を知っているのだろうか。
「もりもりさんにお尋ねしたかったのは、神王装備についてです。7点セットをどうやって入手したのか、その経緯を知りたいんです。それを知れば、あの装備を超えるものを手に入れるヒントになると思いました」
神王装備の話題に移ると、もりもりさんの表情が急に真剣なものへと変わった。
「春菜さんは、あれを超えるものを手に入れようとなさっているのですか?」
「はい。私が短期間でレベル71になれたのは神王装備のおかげですし、これからお兄ちゃんを超えようと思っても、今の装備では限界があります。既存の装備で経験値を稼いでお兄ちゃんに追いつくには、5年や10年では足りないはずですから」
「だから、神王装備を超えるものを手に入れる必要があると。そう考えたわけですね」
「はい」
もりもりさんは少し考え込んでから、静かに口を開いた。
「あなたのお兄さんが、7つすべてを一人で入手したわけではありません。お兄さんが自ら獲得したものもありますし、仲間がお兄さんに託したものもあります」
「託した……?」
私は、もりもりさんの言葉を繰り返す。
「高ランクのハンターたちは、パーティを組んで探索を行うのが常です。そのなかで深い絆が生まれることもあります。自分たちに万が一のことがあったとき、所持していたアイテムやポイントを仲間に託すことがあります。あなたのお兄さんは、それだけ人望が厚かったとも言えますね」
もりもりさんは穏やかに語っているが、これは亡くなったハンターたちの話だ。死と隣り合わせのダンジョンで、自分の死後のことを考えないわけがない。
自分が積み上げたものを遺すなら、最も信頼できる人物に託したいと願うのは当然のことだろう。
「お兄さんが仲間から受け継いだものを含め、手元にあったのは3点です。【神王の長剣】【神王の盾】【神王の小手】ですね。私も詳細までは聞いていませんが、ご自身で獲得されたのは【神王の長剣】だけで、残りは別のハンターから受け継いだもののはずです」
もりもりさんは断言を避けているが、過去に2人のハンターが命を落としているということなのだろう。
「残りの4点はどうしたのですか?」
「その前に、別の3点についてお話しします。【神王の兜】と【神王の鎧】と【神王のブーツ】です。これらも同様に、別のハンターから受け継いで所持していた人物がいました」
「お兄ちゃんと、もう一人のハンターが、3点ずつ持っていたということですね」
「ええ」
もりもりさんは、私の目をまっすぐに見つめてくる。私は直感的に、彼女が伝えようとしていることを察した。
「お兄ちゃんの恋人は、その人なのですね。だから神王装備が6点揃った……」
「そういうことですね」
もりもりさんは、小さく微笑んだ。
「あとは最後の1点ですね。【神王のネックレス】です」
「実は、単体でドロップする神王装備は6点で全部なんです。【神王のネックレス】は、6点を揃えたときに得られるボーナスのようなものなのですよ」
「なるほど、そういう仕組みだったのですね」
「2人は結婚の約束を交わし、それで神王装備がすべて揃うことになりました」
それを私が勝手に持ち出し、ダンジョンに潜ってしまったのだ。
神王装備はお兄ちゃんと婚約者の、2人の絆の象徴だったのだろう。それを無断で持ち出したのだから、これ以上ないほど結婚の邪魔をしてしまったことになる。
無事に帰還し、装備をお兄ちゃんに返すことができて、本当に良かった。
しかし、肝心なことがまだ聞けていなかった。
それは、神王装備をどこで手に入れたのか、ということだ。
具体的に、どの階層で、どのモンスターから、あるいはどの宝箱から得たのか。
人類の公的な到達域は、地下165階ということになっている。
もちろん、すべての情報がダンジョン管理協会によって公開されているわけではない。
けれど、165階からそれほど離れているとも考えにくい。
そして、私が到達した地下220階であっても、神王装備ほどの品が入手できるとは到底思えなかった。
神王装備は、どこか毛色の違う装備だと感じていたからだ。
それは〝あの〟ダンジョンには、どこか似つかわしくないと言えばいいのだろうか。
私が潜った、奥多摩にある、現時点において世界で唯一の〝あの〟ダンジョンだ。
ダンジョン管理協会が秘匿している情報が、ほかにも何かあるのではないだろうか。
そしてそれは、私が覚醒レベルの上昇によって知った情報――ダンジョンブレイクや人類領域侵攻計画に、何か関係があるのではないか。
そんな私の思惑を見透かしたように、もりもりさんが語りだす。
もりもりさんもまた、覚醒レベルの上がっているハンターだった。
覚醒者同士、互いに通じ合うものがあった。
「神王装備を実際に扱った春菜さんなら、あるいは気づいているかもしれません。あの装備は、奥多摩のダンジョンで入手したものではありません。いえ……ありませんと、断言していいものかどうか……」
もりもりさんは言葉を選びながらも、話を続ける。
「これは協会と、一部のハンターだけが知る極秘情報です。決して他言しないでください。私たちが神王装備を入手した場所は、当初、隠しダンジョンか裏ダンジョンのようなものだと考えられていました」
「考えられていた……ということは、実際は違ったのですか?」
「いえ、はっきりと判明しているわけではありません。春菜さんは『プリミティブデバイス』のことをご存じですか?」
「ダンジョンが発見されて間もなく、内部で見つかったデバイスのことですね。現在のダンジョンデバイスの原型になったと聞いています」
「ええ。現在のデバイスは、それを元に作られています。ですが、プリミティブデバイスの全機能が再現されているわけではありません。未だ人類には解明できていない、未知の機能も多いのです。そのなかに、未来の予言とも取れる記述がありました。しかしそれは予言ではなく、予定――すなわち『計画』なのではないかと……」
「計画……ですか?」
「はい」
「それは……一体どんな?」
「私たちが神王装備を手に入れた場所は、現在のダンジョンと繋がった『別のダンジョン』だったと推測されています。今はまだ存在していない、もう一つのダンジョンです。そして遠くない未来、奥多摩とは別のダンジョンが地上に出現する。私たちは、そこへ繋がっていたのではないか……あくまで仮説ですが、そう考えられています」
つまり、別のダンジョンへ通じる道があり、お兄ちゃんたちはそこで神王装備を入手していた。
今はまだ眠っているダンジョンへと至る経路があった、ということなのだろう。
「この世界には、多くのダンジョンが眠っており、これから世界各地に入口が出現することになるかもしれません。今の奥多摩のダンジョンは、いわばその予行演習のようなものなのでしょう」
現在は、世界中から奥多摩へとハンターが集まっている。
だが、その状況も、いつかは変わるのかもしれない。
世界中のあちこちに、ダンジョンの入口が点在するような世界に。
「それがいつになるかは分かりません。1年後かもしれませんし、100年後かもしれません。ダンジョンの多発的な出現こそが、〝ダンジョンブレイク〟の正体ではないかと私は考えています。ダンジョン攻略率が0%なのも、無数にあるダンジョンのうち、1つですら攻略できていないからだと思っています」




