第107話 結果発表
そして結果発表となる。
装備品を1品でも持ち帰ることができたら勝者。0品なら敗者だ。
終了5分前までは部員たちの戦闘を実況していた。その時点での獲得者は2名で、3名はまだ0品。だが、ラスト5分間でさらに2名が装備品を確保できたようだ。
ユカリスさんが結果を告げていく。
「それでは獲得アイテムの査定を行うのじゃ。まずは4位、椎名学どのじゃ」
ドロップアイテムは『木のヘルム』。木製の兜だが、どちらかと言えばお椀を逆さにしたような形状だった。
査定額は500DPだ。
ドロップは運も絡むが、やはり討伐数を稼げないことには難しい。
後衛役を担う椎名さんと葛城さんには、少々不利な条件だった。
「続いて、3位。葛城太郎どの」
ドロップアイテムは『薄布の小手』。これも小手というより、長めの手袋といった風情だ。防御力は皆無に等しく、所々が破れかかっている。
お洒落アイテムにすらならない上に、装備として着用する意味もなさそうだ。
強いて意味を見出すなら、武器を握る際の滑り止めになる程度だろうか。
査定額は600DP。
部員たちが持ち帰った装備は、発表されるたびに私が装着していった。
今は『木のヘルム』と『薄布の小手』を身に着けている。最初から装備しているのは初級用革鎧とコボルドの棍棒だ。
「貧相な姿じゃのお……」
憐れむようなユカリスさんの言葉通り、なんだか逆に弱くなったようにすら見える。
「では、続いて2位じゃ。九条颯太どの」
ドロップアイテムは『ぼろ革のブーツ』だった。元は家から履いてきたスニーカーだったから、ありがたい……と言いたいところだが、これも防御力はほとんどない。その上、見た目に華がない。色もくすんだ茶色で、何の装飾もない。いっそステッカーでも貼りたくなるほどだ。
査定額は1,000DP。
「それでは、栄えある1位。石田光朗どのじゃ!」
最後の一品は武器だった。
『ゴブリンソード』
みんなで拍手をして、健闘を称える。
ユカリスさんは完全に苦笑いを浮かべていた。
「まあ、コボルドの棍棒よりはマシと言ったところかの……」
査定額は5,000DP。
どこかで見たようなその形状、そして扱いやすい長さ。
柄を握ってみるとしっくりくる。
頭上高く持ち上げ、ぶん、と振り下ろしてみる。
なかなかいい感じだ。
……。
これって、最初に買ったやつじゃないだろうか。
私がオーガの間の扉に刺して折ってしまった剣と同じモデルだった。
奇しくも、初めて買った剣と同じ物がこうして戻ってきた。
「以上。4位から1位までの発表じゃ。見事、筑紫春菜の装備は揃ったぞ。そして、何も獲得できなかった者……ダンジョン部の部長、高峰康介!」
部長はがっくりと項垂れる。
両手両膝を地面につき、心の底から落ち込んでいるようだった。
「僕だけ、春菜さんの装備を取ってこれなかった……」
まあ、装備が揃ったと言っても、『初級用革鎧』に『木のヘルム』、『薄布の小手』、『ぼろ革のブーツ』、そして『ゴブリンソード』だ。
なんだか、それこそゴブリンかコボルドに見えそうな貧弱さがある。
お洒落な女子中学生という像からは、ますます遠ざかってしまっていた。
そして罰ゲーム。
装備品に相当するドロップがなかったのは部長だけだった。
「では、今から筑紫春菜には褒美のキス顔を披露してもらうのじゃ。敗者の高峰康介は罰ゲームとして、これを見ることができぬ」
地面に伏して落ち込んでいる部長。それは装備を取れなかったことによるものか、それとも私のキス顔を拝めないことへの絶望なのか。
部員たちが彼を慰める。
ユカリスさんはすっかり興味が削がれた様子で、つまらなそうに言った。
「思ったより面白くなかったのお。イマイチ盛り上がりに欠けておった。面白くなったのは筑紫春菜の格好だけじゃ」
確かにユカリスさんの言う通り、木のお椀を被っているようなこの姿はハンターらしくない。というか、お寺の小僧のような感じにも見える。
「それでは、褒美の時間じゃ。皆のもの、筑紫春菜のキス顔を堪能せよ」
そして部長の背後にまわり、ユカリスさんは両手で彼の目をふさいだ。
「お主は見れぬ。だが、妄想することだけは許す。頭の中で最高のキス顔を思い浮かべるのじゃ」
みんなの視線が私に集まる。
「それでは、筑紫春菜のキス顔なのじゃ」
私は少し緊張する。
「い、いきます!」
練習していたのは、投げキッスバージョンと、通常のキスバージョンだ。
投げキッスはどこか小賢しく思えたし、奇をてらうよりは無難に乗り切るべきだと考えた。人は特別なことをしようとして失敗するものだ。
ごく普通の、ありふれたキス顔でいい。
それでよかった。
私は静かに目を閉じ、いつか訪れるであろう、その時を想像し……
両手をぐっと握り……
そしてキス顔を作った。
直後、ユカリスさんが素っ頓狂な声をあげた。
「ちょ、ちょ! 筑紫春菜! 何をしておるのじゃ!!」
部員たちも、同様に驚愕の声を漏らした。
「な!? 姫!?」
「は!?」
「ぐは!!」
「ぼほっ!!!!」
ん?
私は何かやらかしただろうか。
目を開けてデバイス画面を見ると、猛烈な勢いでコメントが流れている。
》ぐおおお……
》ダメージ1万……
》き、きつい……
》これは……
》ハルナっち、いくら未経験とはいっても、それは……
》ぐ、ぐわあ……
》やってもうた……やってもうたぞ……
なんだかコメント欄がおかしい。しばらく待って、ようやく落ち着き出す。
》こ、これが……渾身のキス顔?
》……ない……。これは、ない……
》……百年の恋も……醒める……
》朝ドラ女優は……見送り……だね……
》すぐにチャンネルを……変えられるレベル……
そして、私のキス顔について、あれこれ指摘してくる視聴者もいた。
》目が半開きって、絶対だめなやつ
》半開きっていうか、白目になってたぞ
》顔に力が入りすぎだね
》なお、口はそんな形にはしない
》どうしてその口の形でキスをすると思った?
》キス顔を直してやりたくなるって、なかなかない
》私、いま見始めたけど、顔芸してるの?
》変顔のコーナーだった?
》私も今ちょうど見始めたのだけれど、どうして目が半開きの白目なの?
「筑紫春菜……。ユカちんが、悪かったのじゃ。本当にゴメンなのじゃ」
ユカリスさんが申し訳なさそうに謝ってくる。こんなに深く頭を下げる彼女は初めて見た。
「せ、拙者も謝罪するでござる。ご、ごめんでござる」
なぜか石田さんにまで謝られてしまう。
他の部員たちも同情混じりの謝罪を口にする。
部長だけが一人困惑していた。
「え? みんな、どうしたの? なぜ謝っているの? 春菜さんのキス顔が、いったいどうしたのさ?」
ユカリスさんに目隠しをされたまま、部長は何が起こっているのかわからず、うろたえていた。
》飲んでいたコーヒーを噴き出したぞ、パソコンにぶちまけた。弁償してくれ
》今までで一番おもしろかった
》笑わせてくれたわ
》ハルナっちの口の形が面白すぎた
》放送事故
》よくAIがモザイクを入れなかったな
》まあ、本番前の予行練習だと思えば……
》事故を未然に回避したと考えよう
》十分に事故だと思うが……
》チャンネル登録者数を爆下げさせた、伝説のキス顔となるだろうな……




