第100話 オーガの攻略
あまりいい状況ではなかった。
私の前には5人の部員が固まっている。この密集した状態がまずかった。
先にこの場所にいたハンターたちは、6人全員でコボルドの群れを相手にしている。
このままでは、オーガとは私とダンジョン部だけで戦うことになりそうだ。
それだけではない。
部員たちは私のことを守ろうとしてくれているが、根性や正義感で勝てる相手ではない。一箇所に固まっていては、オーガの格好の標的にしかならない。
「守ろうとしてくれるのは、本当にありがたいのですが!!」
叫びながら正面の部長へと跳び、その肩を踏み台にしてさらに高く飛び上がる。ダンジョン部の5人を大きく飛び越す形で、私は高く飛翔した。
すでに棍棒を振りかぶったオーガの、ちょうど胸の高さまで到達する。
私の動きが予想外だったのか、オーガは攻撃の手を止め、たじろいで足を一歩引いた。
「オーガの倒し方を説明します! 聞いてください!!」
声を張り上げながら、コボルドから奪った細い棍棒をオーガの胸に叩きつける。大したダメージにはならないが、その反動を利用して、オーガから離れ、距離を取って着地する。
部員たちとは、90度の角度を維持した位置だ。
「一箇所に固まってはいけません! 一撃たりとも攻撃を受けてはいけない相手です! オーガの攻撃は棍棒と蹴り。棍棒の間合いは、本体を中心に半径1.5mから2m! 今私が胸を突いたように、オーガにも死角や弱点はあります!」
私は走り、部員たちとは反対側へと回る。彼らも私の言葉に従い、散り散りに分かれる。
「そして足元です! 蹴りに注意してください! こちらを蹴り上げようと足を浮かせた時、反対の軸足が弱点となります!」
葛城さんと椎名さんが、オーガから離れた。弓を持つ彼らは、棍棒の届かない間合いまで距離を取った。
「私たちは分散し、的を絞らせないように動き回ってください! 弓は顔を狙ってください。絶対に棍棒の間合いに入らないで。それさえ守れば、飛んでくる石以外は怖くありません! 蹴り上げようと、オーガが足を上げた瞬間がチャンスです。部長、石田さん、九条さんで軸足を斬りつけてください。斬ったらすぐに離脱です!」
「わかった!」
剣を持った3人がオーガの周囲を駆け回る。オーガは狙いを定められず、右往左往し始めた。
「躊躇せず、勇気を持って斬り込んで! 斬ったら反撃を受けないよう、すぐに離れること。わずかな油断が死に直結します! それでも、決して怯まないで!」
私を守ろうと前に立ってくれた部員たちだ。言うまでもなく、覚悟は決まっているだろう。
「囮は必要です。一番動ける私が引き受けます! 皆さんは動きを止めず、攻撃に専念してください!」
指示を飛ばしながら、オーガに向かって駆ける。私を蹴り上げようとして浮いた足の隙間を、スライディングの要領で潜り抜けてオーガの背後を取った。
その隙に、部長、石田さん、九条さんがオーガの軸足を狙っていた。3連撃が叩き込まれ、オーガのアキレス腱を深く切り裂いた。
――ガアアアアッッ
オーガが苦悶の声を上げた。
「油断しないで! 同じ動きを繰り返して、まずは徹底的に足を潰します!」
「とどめはどうするんだ!?」
部長が、大きな声で問いかけてきた。
「焦らないでください! 順番があります! とにかくオーガの足を止めること。奴の機動力を奪うことです!」
私は迫りくるオーガの蹴りをぎりぎりでかわし、棍棒をオーガの足の甲に叩きつけ、その反動で高く跳んだ。
オーガの太ももの上部が視界に入った。
見えるすべてがスローモーションのように感じられる。
脳内で戦闘をシミュレートする。
甲から腿、腕、肩へと階段のように駆け上がり、オーガの顔面へ肉薄することも可能だ。
眼球に一撃を入れてもいいし、頭まで登って頭頂部から棍棒を突き立ててもいい。
私一人でも、おそらくこの魔物を仕留められる。
それほどにオーガの動きは――遅かった。
冷静に思考を巡らせ、そして地面へと着地する。
「足への攻撃を続けて!」
私にとって、オーガなど脅威ではない。
だが、ダンジョン部の部員たちにとっては違う。
彼らは今、必死に戦い、命懸けの攻防を繰り広げている。
私があっさり終わらせてしまうのは、彼らの成長に水を差す行為だ。
部員たちは自力で倒せるだけの潜在力がある。
私はあくまで、囮に徹しよう。
私は走り回って撹乱を続け、やがてオーガの両脚のアキレス腱は完全に断裂した。がくっと膝を折り、巨体がその場に崩れた。
オーガは両膝をつき、左腕で辛うじて体を支えている。右手の棍棒を闇雲に振り回しているが、左側面はがら空きだ。
「こういうことなのですな! 姫!」
石田さんがそのことに気づき、オーガの左側に回る。遅れて、部長と九条さんもそれに続いた。
葛城さんと椎名さんは逆に右側へと回り、目立つ位置で矢を放つ。斬り込む役の部長たちから、オーガの注意をそらすためだ。
「完璧です! 一気に、畳み掛けましょう!」
とどめを刺すのに、もう私の助言は不要だった。部員たちはこれまでの経験から、無意識に最適解を導き出していた。
私のことを守ろうと、部員たちに囲まれてしまった時は肝を冷やした。
あそこで棍棒の一撃を食らっていれば、甚大な被害は免れなかっただろう。
けれど、彼らを責めることなんてできない。命を懸けて私を守ろうとしてくれたのだから。
あとは不測の事態に備えつつ、部員たちがオーガを仕留めるのを見届ける。
オーガが前のめりに伏した。
その首筋へ、部長の剣が深々と突き刺さる。
もはやオーガには抗う術はなかった。完全に絶命したようだ。
ダンジョンデバイスでHPが0になったのを確認し、私たちは集まった。
息を切らせたまま誰も何も言わないが、湧き上がる気持ちを堪えているようだった。強敵であるオーガを自分たちの力で打ち倒したのだ。
コボルドを相手にしていたハンターたちも、戦いを終えたらしい。
安堵した様子でこちらへ歩み寄ってくる。
「君たち、あのオーガを倒したのか……」
6人のハンターに加え、私たちが途中で遭遇した男女のハンターもやってきた。合わせて8人のハンターがこの場に集まっている。
「ありがとう。助かったよ。僕たちのパーティを紹介させてくれ。僕らは……」
この場にいるのは、全部で14人。
1人のハンターが、私たちに向かって握手をしようと手を伸ばす。
部長が代表し、それに応じようと手を出した。
だがその時、死んだはずのオーガが、ゆっくりと巨大な体を持ち上げ始めた。




