第10話 わたしの生息域が侵食されつつあります
寝てる間に視聴者数が爆上がり。
この生活をいつまでも続けていたいというのも本音としてないわけじゃないけれど、どうもそういうわけにはいかないらしい。
とりあえず食糧(低級ブレッド)と水(低級ポーション)は2日分ほど確保できている。じっくり作戦を練りたいところだが、フレイムドラゴン・ロードはそんな時間を与えてくれそうにない。
安全地帯から出て調査をしてみると、そこらじゅうをマグマが侵食しているのだ。フレイムドラゴン・ロードがいた場所は広大な窪地になっており、そこにはマグマが大量に溜まっている。
ドラゴンはマグマの海に浸っているようなものだ。そしてこれはあくまでも推測の域を出ないのだが、ドラゴンはマグマを口に含み、階層のなるべく高い場所から注ぎ込んでいるようなのだ。
まずはモンスターの出現ポイントに近い場所から、そしてなるべく私の行動範囲を狭くするように動いていると思われた。
幸いなのは、ドラゴンが一度に口に含めるマグマがそれほど多くないことだ。
つまり、今ならまだ十分に動き回れるだけの範囲は確保できている。すなわち、いち早く行動を開始しないと手遅れになってしまう可能性があった。
「……ということで、今日がドラゴンを討伐する記念すべき日となります」
私の言葉にコメント欄が勢いづく。とんでもない速さでコメントが流れ、スパチャが投げ込まれる。
ほとんどが小銭だが、たまに1,000DPや10,000DPが混ざる。
「えっと、みなさん、お金は大事に。それは私がドラゴンを討伐するまで取っておいてください」
いつ死んでしまうかわからない身なのだ。みんなのスパチャが無駄になる可能性は高い。それは申し訳ない。
「それでは、みなさん。ドラゴンの討伐にあたり、大事なことをお伝えします」
私の言葉に反応して、コメントがぴたりと止まる。
「昨日一日、ぐっすりと眠って、私の体調は万全です。きっと、どんな作戦でも見事に遂行することができると思います。そして私には数万という頭脳が味方になってくれています。私はみなさんが一生懸命に考えてくれた作戦で、見事にドラゴンを討伐しようと思っています。私が寝ている間にチャンネル登録者数が超・超・爆上がりして、今は8万ともなり、10万人を目前としています。本当にありがとうございます」
一度言葉を止め、ぺこりとお辞儀をした。
私はここで、すうっと息を吸い込む。
「みなさん、徹夜で作戦を考えてくださり、ありがとうございます! さぞや素晴らしい作戦を考えてくれたことでしょう! 私には何万もの頭脳が味方についてくれています。きっと期待に応え、その素晴らしい作戦を見事に遂行し……って……、あれ? なんで減っていってるの? おーい。チャンネル登録者数が……。登録者が減っております。ああ。おーい。みなさーーーんーーー」
私はダンジョンデバイスにかじりつくように顔を近づけた。
》無理だな
》数日中に死ぬな
》いつ死ぬか賭けるか
》これがハルナっち
》チャンネル登録者数の下がり方がエグい
》逆に閲覧数は増えてる
》すぐ死ぬなら、チャンネル登録しなくてもいいしな
》とりあえず、ドラゴンだけ見せて
「ふ、ふふふ……。ふふふ……」
私は静かに笑う。
》ハルナっちがおかしくなった
》壊れた?
「私に協力してくれる人だけが残ればよいのです。それ以外は雑音なのです!」
》開き直った
》踏んでも倒れない雑草のようだ
》俺はハルナっちを見捨てない
「すべては作戦通りです! このチャンネル登録者数の減少も!」
予想以上のチャンネル登録者数の減り方に、心底びびりはしたが、本当のところはどうでもいい。ドラゴンを倒し、この状況を脱することだけに関心を向ける。
「それで、まあ、本題に移ります。いきなりドラゴン討伐は無理ですよ。武器がないので。まずは神王の長剣を取り返します。ちゃんと作戦はあります。考えてあります」
私の発言にさまざまなコメントが流れる。その中には本当に使えそうな作戦もあった。実際に昨日寝ないで、徹夜で作戦を考えてくれていた人が何人もいたのだ。
そして、私が考えていた作戦と彼らの作戦を組み合わせていく。ダンジョンデバイスを通して、視聴者のみんなと作戦を詰める。
まだドラゴン討伐の目処は立っていない。それでも剣だけはなんとしても取り返す。まずは剣の奪還からだ。
そして、ほぼほぼ作戦は固まった。うまくいくかどうかはわからない。あとは出たとこ勝負で、臨機応変に対応するしかないだろう。
「では、私の生息域を脅かすドラゴンに、一矢報いてやりましょうか」
これまでにモンスターから取得したアイテムを実体化していく。これらを使ってドラゴンに一泡吹かせてやろう。
初めて作った生活用品の大鏡で身だしなみを整える。
きっとたくさんの視聴者が見るだろう。
自撮り棒は背中に装着し、その先にはダンジョンデバイスが取り付けてある。私の頭上から撮影する方式だ。




