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一六話①

 清夏季せいかきの上旬。正式に迷宮管理局員となった篠ノ井(しののい)百々代(ももよ)は夫の一帆かずほと共に細かな研修を終えて、巡回官に必須たるいくつかの品を受け取ってから迷宮管理局金木犀(きんもくせい)所を後にする。

 卒業と同時に乗り込んであちこちの迷宮を回ろうと考えていた二人だったが、行方不明のような事件がまた起こっては色々と不都合だと、篠ノ井家と西条にしじょう家に捕まり成婚させられていた。

 本人同士が嫌というわけでもなく反対もなかったのですんなりと、元々準備が進められていたかのような手際で行われ今に至る。話を聞いた領外から足を伸ばしていた知人は、帰郷の時期をズラしてまで参加していた。

 ちなみに実父の千璃せんりは兎も角、関わりのそこまで長くない養父の嘉人よしひとまで号泣し結衣ゆいに引かれていた。


はやてさんと合流しようかっ」

「ああ、なんて宿屋だったか」

白樺しらかば山彦やまびこ亭だね、場所はわかってるし大丈夫だよ」

「然し…出立が遅れたな」

「あはは、いきなりで驚いたよねっ」

「まさか不在の間にも帰ってくると想定して準備しているとは思わなんだ…」

「どっちも目が本気だったね…」

 のんびりと思い出話をしつつ、馬車を捕まえては颯一行の待つ宿屋へと向かっていき、到着となる。


「来たか。こちらは十分な休暇が取れて満足しているが、二人はどうだ?」

「明日にでも出立出来ますよっ!」

「そうか!ハッハッハ、そうだと思っていたぞ!それで何処に行く?」

「便利な船があるのだから、南西の梔子くちなし港か北東の蝋梅ろうばい港の向かいたいと思っているのだが、どうだろう?」

「それであれば航路を心得ている蝋梅の方が私は助かります」

「ならば決定だ!出立は明日で良いのか?」

「問題ない」「準備万端ですっ!」

「良し!ならばこちらも準備をするぞ、虎丞こすけ真由まゆ!」

「はいはい」「承知しました」

「ああ、そうだそうだ。いくつかの図面を郵送屋へ持ち込まなくては」

「これから帰るだけなんで私達が持っていきましょうか?」

「助かる。宛先は黒姫くろひめ家で頼む、ちょっと待っててくれ持ってくるから」

 パタパタと忙しそうに颯一行は自室へと戻っていき、賑やかにしては宿屋の主に怒られていた。


―――


 明くる日。日差しの眩しい出立日和に莢動力船きょうどうりょくせんに乗り込んだ一行は、見送りに来ていた家族へ手を振り天糸瓜へちま島北東部の蝋梅領蝋梅港へと旅立つ。

 ぐるりと大回りしないといけない北西の天糸瓜港と比べれば近いもの、二日の行程で到着し長期停泊許可を取り付け宿に荷物を置く。


「俺と百々代は迷宮管理局に行って、領内の迷宮を浚って来るが颯はどうする?」

「港の散策にでもでるかな」

「了解した。行くぞ百々代」

「うんっ」

 ひらひら手を振り百々代は一帆の後を追い、向かうは迷宮管理局蝋梅所。

 足を踏み入れて迷宮の場所と、活性化の有無、首魁の周期を確認しては何処に向かうべきかと二人で話し込んでいく。


笹野ささの街の多雨たう迷宮は首魁がそこそこ先だな、脅威度が高くないから良さ気なんだが…」

「なら周囲で回れる場所を見繕う?それとも首魁の時期が合わなくても、魔物魔獣の駆除は防衛官さんたちの役に立てるし行ってみるとか」

「どこも人手不足だしな」

 机に資料を広げて唸っていれば、二人の顔を見て寄ってくる者が。


「後輩ちゃんたちじゃないか久しいな」

柿平かきだいら先輩と出馬いずんま先輩!お久しぶりです!」

「うんうん、元気そうでなにより」

 百々代より二つ上の先輩。柿平(けい)と出馬(こう)それと見慣れない仲間が二人。簡単に紹介を受けると、仲間の二人は天糸瓜魔法学舎の卒業生で同年代ということで組んでいるらしい。気が合うのだとか。


「資料を浚っている所を見るに、巡回官になったのだな」

「はいっ!笹野街の多雨迷宮が少し先に首魁が現れそうなんで、近場にいい所がないかなって」

「笹野かぁ、確か笹野はもう一つ迷宮を抱えているからそっちにいくのもありじゃない?えーっと、ほらここ」

 笹野街の幽谷ゆうこく迷宮、開かれた頁にはそう書かれている。

「ちと面倒な鹿が出るけど、一年の時に甲熊こうゆうを倒してたなら余裕でしょ」

「どうする?」

「有りだな。情報をありがとうございます先輩方」

「おう。頑張れよ、後輩ちゃんたち」

 二つの迷宮の詳細を写し、篠ノ井夫妻は宿屋へと戻っていく。


―――


 甘酸っぱいタレの掛かった焼き魚を食みながら百々代と一帆は蝋梅港を目的もなく歩いていく。

 食べ歩きなんてはしたないと怒られてしまいそうだが、注意をする人がいないので市井流の街歩きである。


「この先に大衆劇場があるから行ってみないか?時間にも余裕があるはずだ」

「いいねっ、大衆劇場なんて何時ぶりかなぁ」

「行ったことあるのか?」

「小さいときにね、演目はなんだったかな。兄たちが好きそうな、英雄譚的な話だった気がする」

 歩いていけばすんなりと辿り着き、演目を確認していく。直ぐに見れそうな演劇は笑劇とのこと。


「どうする?みたいのがあればわたしは待つけど」

「手頃に見れるこれでいいだろう」

「わかった、入場券買ってくるね」

 受付へ向い購入した入場券を一帆ともぎりに手渡して、半券を受け取っては会場へと進んでいく。

「待て百々代。初めての会場なら物売りから何か買わなくては」

「?」

「そういう決まりと沈丁花で聞いてな」

「あー…、そういう決まりはないんだよね。なんというか、」

「カモにされたのか、俺は…」

 百々代は笑い飛ばしながら、物売りから果実水を二人分購入して一帆へと手渡す。

「良い勉強になったね、あはは」

「本当にな」

 笑劇の前から笑った百々代だが、観劇でも散々笑わされたとか。


「すっごい面白かったねっ、あの役者さんの演技ったらもう、あははは思い出しただけで笑えちゃうよ」

「ああ、楽しかったな。台本が購入できないか交渉してみるか」

 一帆の台本蒐集に物売りは裏まで走らされた。

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