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一四話⑨

 対板兜魚(ばんとううお)には蘭子らんこ、対八魔章魚(はちまだこ)には百々代(ももよ)と戦力の増強がなされた結果、すんなりと半分を超えて現在は四九階層までの制圧が終わった。途中に構造変化階もあったが、なにせ頭数が多いのでサクサクと進んでいく。


「さて、五〇階層の大台。厄介な事になってない事を祈るか」

 踏み入れた階層は構造変化こそしているが、今までの階層と変わりなく板兜魚が多く泳いでいる程度。何度も何度も戦闘を経験し感覚を掴んだ蘭子からすれば楽勝の一言である。

 章魚がいなければこといって仕事のない百々代は、障壁を張りながら周囲の索敵をしながら地形的な情報を集めていく。この段階で次の階層への道を見つけられれば、捜索の手間が省けるからだ。


(それっぽいのあったし覚えとこ)

 細々とした魔獣を擲槍で撃ち落とし、飛来する氷の魔法は的確に遮断。近距離だけでなくとも、それなりの戦力になる百々代。

 そうこうしていれば無事に戦闘は終わり次階層への探索が始まる。

「あっちにそれっぽい洞窟があったので見てきますねっ」

「俺もついていこう」

「一応狩り残しがいるかもしれないから警戒は怠るなよ」

「はーいっ!」

「んじゃ一応こっちでも散策してくか、宗秋むねあきはなんか見つけたら成形獣を寄越してくれ」

「ええ、任せてください」

 皆が散策に出始めていくらか、待機していた蘭子と茜、良介は戻ってこない百々代と一帆かずほに疑問を覚えて、向かった方向に移動していくも姿は見られず行方不明となった。迷宮に喰われたのだ。


―――


 岩場にひっそりと空いた穴凹、下に続く洞穴は人工物のように階段となっておりサクサクと進んでいけた。

「少し変わっている構造だと思ったが、…どれ程下った?」

「…。そんなに下った気がしなくもないけど、途轍もない時間を下った気がしなくもないね。…でもなんか懐かしいような」

「懐かしい?」

「前に話したと思うけど前世のわたしには八つの瞳があって、それぞれに異なる力が宿っていたんだ」

「対象を壊す金、細かく遠くまで見渡せる青が現在まで引き継がれた力だな?」

「うん。残る六つには時間感覚を狂わせる瞳もあって、なんとなくそれに近いなって」

「自分にも作用していたのか?」

「だねー。青と同じで常に起動していたってのもあってさ、どれだけの時間を生きていたのかはわたしにもわからないんだよね」

「岩と木だけを食べて長い時間をな、狂ってしまいそうだ」

「人だからそう思うだけかもしれないよ、今のわたしなら無理だし」

「人である証左だな」

「えへへ」


「それにしても…何段下った?」

「流石に…可怪しいね、一旦戻ろうか」

「ああ、そうするべきだ。一応のこともう一度調査に来ることを考慮し、段数は数えておこう」

「うんっ」

 カツンカツン、階段を登り始め、段数を数え始めて二人は疑問を覚える。「今何段目だったか」、現在地までの時間を探ろうとすると思考に妨害作用が起る。

「一帆、時間を数えてみて」

「ああ、一、二、三―――――――今いくつだったか?」

「もっと早くに察するべきだったかもね。…どういう理屈かはわからないけれど持っていた瞳の一つ、若しくはそれに近い力がここには作用してる。早急に戻るべきだよ」

「そんなにか?腹も減ってないし問題ないだろう」

「腹時計みたいな体内時計も狂うんだよ」

「…なるほど。」

 ローカローカの住まう禁足地。何故か足を踏み入れると出てくるまでの時間が毎度違うという。日照りに喘ぐ人が生贄を連れて入った際、出てきたのは五〇日後。助けを求めて人が入った際には、入った直後に出てきたという。

 つまり時狂わせの紫を持つローカローカの周囲は、時を狂わせる異常な空間と化していたのだ。

 幸い、人の形を模倣していた時には眼は二つしかなく、細視遠望の青に化ける銀の組み合わせが主だったため人の街に被害はなかった。


「はぁ…ようやく出口が見えてきた」

「よかった、―――」

 階段の終わり、登りきった先には古海底迷宮はなく、人のいない町並みがただただ広がっており、今まで登ってきた階段は姿形なく失われていた。


―――


 携帯食料を口にしながら顔を顰めた一帆と、気にする風がない百々代は街の中を散策する。綺麗に舗装された道路と手入れがなされている街路樹、家の中を覗いてみるも家具類の一切はなく見掛け倒し。


「時間は、―――――数えられない。つまり、」

「何かしらの作用は働いたままって事だね。ここは迷宮内かな?」

「ぴったし真上から降り注ぐ陽光、そして何もいない不気味な町並み、まあ迷宮だろう。無人町迷宮というところか」

「それっぽいね。こういう迷宮って付近にあったっけ?」

沈丁花じんちょうげ領には詳しくないからな、わからん。金木犀きんもくせい領には無かったはずだ」

「どこか付近の迷宮に繋がったんじゃないかって思ったけど、どうなんだろうね」

「ありえんと言えんのが昨今の迷宮だからな」

「活性化で色々あるみたいだからね。…んん?…そういえば…前に良介さんと史緒里さんと話している時、時間の感覚が狂う迷宮の話をした気がする。場所は聞いてないけれど、大輪さんたちが行った迷宮ならそう遠くないかもしれないよ」

「これは朗報だな。とりあえず何か見つかるまでは動いてみるか」

「離れても大丈夫?同じような家々だから、戻ってくるのは難しくなるよ」

「ここが古海底迷宮の五一階層であるのなら待っているべきなのだが、どうにもな?人のいた痕跡でも見つけられれば防衛官が見回りにくる可能性は高い、そこを中心に活動をしたいんだ」

「了解、ちょっと屋根上から探ってみるねっ!」

 零距離擲槍ブースターで跳ね上がり、青い目を晒して周囲を探る。無限に広がっているようにも思える町並みは円形の終わりがあり、それ以降はなんでもないただの風景が広がっている。

 間違いなく、ここは迷宮内。

 構造物だらけで視認範囲が狭いものの、何かを見つけようと頭を動かしていれば、口を開けて階段を見せている構造物。


「よっとっと、なんか下に続いてるっぽい構造物は見つかったけどどうする?」

「…。とりあえず行ってみるか」

 方角を大体で覚えている百々代が先導し、どれほどか。歩数と歩く速さから計算しようにも、途中で式が崩れて理解が及ばなくなる。なんにせよ移動した二人は、地下へと続いている風な構造物を見つけて頷き合い階段を下る。

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