一四話⑧
迷宮の出入り口に近い一階層は、必要な資源は採取済み。構造変化でもなければ魔獣が湧く程度の平凡な階層。
「ちょっと待ってくれ。砂と、岩でいいか」
そこらの物を雑に拾い集めては容器に入れて、腰袋へ収める颯。
「一応、名目は古海底迷宮の資源再調査で、建前上仕事はしないといけないだ」
「そういう建前だったんですねっ。再調査で新しい資源が発見されることってあるんですか?」
「ある。昔より魔法の種類は多種多様化していることもあって、思わぬ組み合わせが見つかったりするんだ。ここも暫く再調査はなかった影響、そして吾の偉大さにすんなりと許可が下りた。時二つ受付で座り込んだからな!フハハハハッ」
「…迷惑すぎる、この魔法馬鹿」
「次からはしっかりとした対応をお願いしますね…」
「百々代くんと話しをしてみたかったのだから仕方ない。さあ見せてくれ!さあさあ!」
「わかりました。起動。成形兵装武王」
起動句の終わりと共に鎧武者が現れて太刀を携える。
「全手動なんで、こういう、ことも出来ます」
太刀を置いた武王は身軽な動きで後方宙返りをしたり、一点倒立をしたり、…百々代の運動能力で出来ることはほぼ全て行えるようだ。
「やっぱり余計な機能がないので、思った通りに動かせて楽ですっ」
「動作機能以外をすべて取っ払った原初の成形獣、なるほどなるほど。纏鎧と骸骨兵の隙間は何かで埋めているのか?」
「いえ、纏鎧を分厚くして骨に装備している状態です。試作時の共通する触媒が無い状態では、動作に大きな違和感を生み使えたものではありませんでしたね」
「それで見本となった首魁の大剣を鋳溶かして合金にしたら、上手く動くように生ったと」
「四回目の触媒変更で成功しました」
「…?待て百々代。休暇は一〇日間しか無かったはずだが?」
「はい。一〇日間で造り終えました、正確には七日ですね。えへへ楽しくなっちゃってついつい、工房の一角を貸し切って昼夜を問わずに動かして怒られちゃいましたっ」
「わかる。わかるぞ。ついつい、楽しくなってしまうんだ」
「えへへ、わかってくれますか」
(学舎や迷宮に出ている間は大人しくしている部類なのだな…。偶の帰宅に周囲も甘くなっているのか)
まだまだ知らないことも多いと感じつつ、成形獣離れした動きにも感心をする一帆である。
「吾も動かしたい。いいか?」
「どうぞっ。解除」
三つの魔法莢を取り外し颯に手渡せば、起動句を口にし武王が展開され。…プルプルと生まれたての子鹿のような動きを見せた。
「え、あ、うー、ていっ!んん、こうか!」
全く上手く動かせない様子は自身の成形獣の授業を思い出すようで、なんとなく苦い顔をする百々代。そしてものすごい見慣れた光景に吹き出す一帆。
「ほんっっとうに全手動だ、これぇ!無理無理、解除!」
「実際に自身の身体を動かしてみて、筋肉や骨の動きを魔力で再現すれば良いんですよ」
「????」
「こういう奴なんだ、百々代は。故に一般化した成形獣への適正は皆無。ふふっ授業は見ものだった。では俺も挑戦する、貸してくれ」
「あ、ああ」
さて、こちらは上質な魔力質に加えて、魔力操作も器用な一般的な天才魔法師。起動句を終えて展開された武王は、ぐらりと体躯を揺らすも、ずしんずしんとゆったり歩いていき太刀を二度三度と振るう。
「…解除。…???」
大真面目に首を傾げて再度起動、同じような動きをしては疑問符を頭に浮かべて魔法莢を返す。
「百々代、お前は馬鹿だ」
「ええっ?」
「多分だが…纏鎧の転写が動きの妨げになっている。そんな気がするが、それも考慮して動かしているんだろう?意味がわからない」
「実際に纏鎧を着せた魔導獣を作るとなったら、操作関係は一般的な魔法陣をしようするけれど。そうか、纏鎧を着せた際の動きの齟齬も考えないといけないのか。良い意見だ一帆くん」
「どうも」
「…人の身体は難しい動きをしてますから、追求への有無が原因ですかね」
「人以外の動きを熟知し比較しているかのような口ぶりだが」
「え。あー、綱蛇の成形獣は得意なんでっ!」
「ふぅん。それじゃあ他の魔法もみせてくれ、風変わりな物が多いから楽しそうだ」
「はいっ!わかりました!では一帆様、障壁をお願いしますねっ!」
「ああ」
後は雷鎖鋸剣と零距離擲槍、一触二重纏鎧を見せていく。
「そういえば飛手甲はどうしたんだ?」
「範囲魔法は雷鎖鋸剣で良くなりましたし、武王が三つも場所を使うのでお休みですね。浪漫があって良いのですが、交戦距離的に自爆不可避ですし…」
「…そういえば使用する度、かなりの確率で自爆していたな…」
半ば自爆攻撃を二度も受けている一帆だからこそ、ストンと納得する。
飛手甲とはなんなのか、という質問に答えつつ。あれやこれやと話をしていれば、颯は考え込み首を傾げた。
「百々代くん、君の発想はどこを根源としている?賢い部類だし面白い考え方をしているのは認める、だが腑に落ちないのだ」
「…。」
「例えば雷鎖鋸剣。これを鋸と称したが、鋸とはギザギザした刃を前後に動かして木材を切る道具だ。鎖に刃を付けて回転させる物は見たことない」
「例えば零距離擲槍。機動力を上げるために魔法を使用したいという考えは大いに理解できる。だが、自傷覚悟で擲槍の衝撃を用いるなんて発想が一番に浮かぶとは思えない。風の噴射や、衝撃を利用するにしても爆発で良い。例えば飛手甲。いやもういいか」
眼鏡の奥に収まった眼球は百々代へと視線を縫い付けて、ジッと返答を待つ。
「少し事情があるんだ。俺的には昨日今日知り合った颯、お前に話すだけの義理はないと思っているのだがな」
「婚約者は知っていると。別に吾は秘密を握ってどうこうしたいなんてわけじゃない、ただ疑問を口にして納得できるだけの回答がほしいだけ。無料が嫌なら対価を支払おう、なにかいいか」
「えっとぉ、もうちょっと仲良くなってからというのはどうでしょう?」
「それでは寝覚めが悪い、吾の健やかな睡眠には疑問は少なくしておきたいのだよ。…とんでもなく重大な秘密をおしえてやる、使い所次第では黒姫家を手中に収められるほどの秘密だ。これでどうだ?」
「まあいいか、そこまでいうのなら教えてやろう。案外に大した秘密でもないし信じるとも限らん、…物騒は秘密はいらんからな」
人目につかず聞き耳を立てられない場所へと移動し、百々代の口から真実を聞いた颯は楽しそうに相好を崩していく。
「これですっきり眠れそうだ。まあ声高らかに触れ回っていれば、阿呆臭いと無視したが変わった魔法を考えれば納得もいく。…それに迷宮遺物なんて代物があるのだから、異なる世界があることはさして不思議でもなんでもない…生まれ変わりは大不思議だが!吾が生まれ変わるのなら、異なる世界でも魔法を学びたい。魔法は楽しいからな」
うっとりと自身の腰に佩いた魔法莢を撫でては甘い吐息を漏らす。
「じゃあ吾の秘密だがな」
「そんなもんいらんが?」
「まあこっちも大したものではない、よくある話だ」
「はぁ…」
(話すのか…)
黒姫颯という女性は既に他界しており、今の颯は替え玉だという簡単なお話。実年齢が一八歳と違法にニ年早く入学卒業しているので、公表されれば痛い脛を晒すことになるのだとか。
「わたしと同じ市井出身の方だったんですね」
「そうだ。金子にも困らず好き勝手に魔法弄りできるから感謝頻りだ、黒姫家には。ちなみに吾の本名は、またいつかでいいか」
こうして三人は秘密を共有しあう、魔法大好き三人組になったのだった。
「にしても百々代は隠し事に向かんな」
「恥ずかしながら、です」
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