一四話⑦
『鎧も剣も我が金の瞳を前にして砕け散り、なんと無様なことか。あぁ、あぁ、弱い弱い、そろそろ本気を出したらどうだ?』
(早く合体ロボット出さないかな)
瞳を六つ潰され幾多の足を失った二町の龍と、若き星神の加護を受けた鎧に勇者の内から顕現した聖なる剣を失った勇者とその仲間。両者満身創痍ながらも退くことはなく、攻防を繰り返しては幾日を戦い続けていた。
「あの金の瞳は…物質や魔法を破壊する力を持ちますが…、どうやら我々には効果がないようだ…」
「ならデカいだけの大蛇。最後の一滴が枯れ果てるまでの我慢比べだ!」
勇者が手を高く掲げれば数多の光が集約し始め、一振りの剣へと姿を変え巨大化していく。
『その力では無駄だと言ったはずだが。…ああ、そうか緑が失われている。意思が通じていなかったか』「…無駄だ、無駄だぞ勇者。金は健在、故に届かぬ」
「それはどうかな」
「なんだと?」
「ローカローカ、貴様の力は強力だ!だがッ!崩壊するまでには僅かだが時間を有する!」
「だからどうした」
「――幾度壊れようとも加護を防壁に張り直します、何度でも」
どこからともなく、ふわりと女が現れて聖なる剣に多重の護りを付与しては、巨大なる聖剣振り下ろされて。
「これで終わりだッ!悪しき龍よ!!」
(これで終わり、か)
神護により幾重にも張り巡らせられた勇者の刃を自壊させようと試みるも残り僅かな枚数を削りきれずに剣を受けて、星の果てを縄張りとした八眼百足の二町龍ローカローカの首は落とされた。
「…勇者よ、」
「…未だ息があるとはな」
「なぜ、…合体ロボットを…出さな、かった……。」
「は?」
「彼の龍はなんと?」
「合体ロボットを出さなかった?と」
「……?」
「…アニメやドラマの話でしょうか?」
「あー、カラフルな正義の味方の。子供の頃に見たな、なんたら勇者ナンタラジャー、みたいなの」
「ローカローカが化けてたのも子供が沢山いるところじゃなかった?」
「人質にするとばかり思っていたが、そんな素振りもなく正々堂々戦っていた。…まさかな」
「街は解放されましたし、あとは恐怖象徴が失ったことで流れ込んでいく魔獣の処理と、龍の財宝を回収作業ですね。勇者アレックス、大役ご苦労さまでした、これからもお願いします」
「はっ、仰せの通りに。サテーリア様の加勢、助かりました」
アレックスが標とする神サテーリアは、光の粒となり消えていく。
「では住処に向かってみましょうか」
「そうだな」
一行が向かったローカローカの住処には、ヒーロー物の玩具やポスターなどが整然と並んだ部屋が一つのみ。どれもこれも大切に手入れをされていた。
数多の龍を倒して来た勇者ですら困惑したのだとか。
そして勇者アレックスの胸には、「ローカローカが真に悪性の龍であったか」という疑念が突き刺さった。
―――
(…人でない頃、前世の夢…)
正々堂々戦い、勇者に敗北した楽しき夢に小さく微笑む。
(きっとあの勇者を題材とした英雄劇には、わたしが登場するんだろうなっ)
んん~、と伸びをして隣に眠る一帆へと寝具を掛け直し、支度をするべく自室へ戻っていく。さも当然のように同衾をしているが、咎めるものはいない。
(そういえば颯さんは昨日一日中寝てたみたいだけれど、そろそろ起きてるかな?)
戻ってみるも彼女は就寝中。日が落ちた頃に小間使いへと尋ねてみれば、よくあることらしい。寝たい時に寝て、置きたい時に起るのだとか。
手で髪を梳りながら服を着替えて、外套を羽織って宿舎を降りれば食堂に蜜蝋と豆が用意されており初雪が降ったことを悟る。三天魚信仰のお祭り、本日は冬流祭の日になったのだ。
「よっす。外に出る予定ならもっとしっかり着込んだほうが良いと思うよ、なんせ一面銀世界だからね」
「おはよう、百々代ちゃん」
「おはようございますっ。冷えていると思ったら雪が降ったんですね、走り込みをしようと思ってたんですが、…えへへ、諦めます」
早起きなのは良介と史緒里。
「…ふぅ。お茶が温かいです。昨日ってあの後二八まで進んだんでしたっけ、二五階層は難しくなかったんですか?」
「やっぱ蘭子っちの圧縮擲槍は偉大だって話し。それに茜んの障壁に匹敵する一帆んの腕前、デカいだけのお魚さん程度ならよゆーよ」
「やっぱ問題は八魔章魚なんですね」
「魔物化した魔獣じゃなくて元々から魔物だからね」
「魔法耐性がそこそこに手数もある相手ってーのは、基本怠いのよ。一対一で章魚に勝てるのは誇って良いよ、本当に」
「そうですか。じゃあ章魚狩りの百々代を名乗りますねっ」
「…うーん」「イマイチだな」
「あはは、冗談ですよ冗談。…ちょっと部屋に荷物取りに行ってきますね」
「いってらー」「いってらっしゃい」
手隙の時間を用いて魔法莢の手入れをすべく、道具を手に細々とした作業を行いつつ雑談に興じる。
―――
「お気をつけて」
朝餉も終えて一部の面々が迷宮へと潜って行く中、百々代は手入れを継続し終わる頃に。
「おっ、もしかして魔法莢弄りをしていた口か?」
みょんみょんに寝癖の跳ね、眼鏡の傾いた颯が現れては向いに陣取り机に広げられた魔法莢を観察していく。
「お手入れですよ。どれも予備はないので」
「善い心構えだ、手入れは重要だからな。それでどれが何なんだ?」
説明を行いながら分解し、書類とは違う生の魔法陣を見せつつ、触媒の配合等を説明していけば一帆も起床して同席する。
「やはり面白い。纏鎧に魔導獣の動きを転写して動かす発想力は見習わなくては」
「…あー、そうか。纏鎧は自身を起点に魔力動きを感知して座標軸を動かす障壁の一種。成形獣に展開することはできない、出来ても動きが合わないのか」
「そう、現行で使用されている魔法陣様式では、だがな。まあ態々成形獣に鎧なんて着させようと思わないから意識から外れそうになるけれど、原則は起動者にのみ展開される鎧だ」
「これを一般化できれば、前に出す戦闘用の成形獣を更に強くし、後ろの魔法師は安全に戦闘できるか」
「そうだとも!一帆くんも話が分かるではないか!」
「ふっ、百々代ほどではないがそれなりの魔法好きだと自負しているつもりだ」
なんだかんだ似た者同士、意気投合は早く、魔法三馬鹿が誕生することになったわけで。
「問題もあるんですよ、武王は起動者より遠く離れて動かすことができなくって。わたしが至近近距離を主としているので気になりませんが、中遠距離は厳しいかと」
「そうか、そもそも大型成形獣は然程遠くまで動かせない。加えて纏鎧もそうびしているのだ、交戦距離は短くなって然るべき。解決すべき問題の一つが浮かび上がったか」
「因みにどれくらいなんだ?」
「二五間で動かなくなりましたっ」
「百々代なら十分だが」「中々に厳しい」
「とりあえず動かしてみましょうか」
「よろしく頼む。場所は迷宮の一階層を使えるようにも申請してある」
三馬鹿は迷宮へと向かう。
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