一四話⑥
「……。んで莢研の学者先生が合流すると」
「ああ、そうだ。纏鎧と障壁を張って身を守ることくらいはできるが、戦闘に於いてはそれしかできん!因みに運動不足だから足も遅い!」
「お荷物じゃねえの…。魔法莢作ってるんなら色んな魔法を使えるんじゃねえのか?」
「一昨年卒業した天糸瓜学舎ではそこそこの成績を収めたが、実戦未経験者なんてどんなものかよく知っているだろう。そもそも魔法を使えるだけで魔法師ではない!」
「自覚できてるだけマシ、か…。とりあえず二〇階層の攻略が終わるまで待っていてくれ」
「ああ、承知した。指示に従うように釘を刺されている」
変なモノ拾ってきやがって、そんな視線を受ける三人が顔を背けたのは翌日のこと。朝一番で管理区画へと颯が乗り込み宿舎に荷物を運び込ませていたのだ。
「おお、百々代くん。出発までの時間で魔法莢を見せてくれ!三つのやつを!」
「はいっ。この三つが成形兵装武王です。成形獣、纏鎧、成形武装を同時に起動して、纏鎧で覆われ大剣を手にした成形獣が展開されます。以前に資料を送った雷鎖鋸剣とは異なり、自壊現象もありませんし複数の魔法莢で一つの魔法とする試みは第一歩かな、と」
「ほほう」
「元々、纏鎧を複数着重ねる事は何故か成功していまして、その要領で成形獣へ纏鎧を被せた簡単な作りですし、組み合わせ回転させる鋸剣とは少し差異はありますがっ」
「吾は日々自分のことを天才だと自負しているが、百々代くんも中々に面白い頭脳をしている。吾は一つの魔法莢に如何に情報を詰め込めるかと考え、六角一二面筒盤と異面触媒を作り出し、実験を多くするため工房を設立したのだ。周囲には後ろ指をさされ笑われたこともあったが、賢き者にはわかってしまうようで魔法省が出資してくれて自由気ままに魔法莢遊びが出来ている。ところで同じ素材を触媒とすることで反発がなくなったと言っていたな」
「はい」
「違う素材の時は反発したのか?」
「反発というよりは噛み合いが悪く、動かすたびにガタガタしてしまいましたね」
「纏鎧同士を複合させる際の触媒は別だったのか?」
「初めての時はそうでした。葉錬鉱の合金触媒と聖星樹の一点触媒です」
「葉錬鉱。たしか…」
「弾性の纏鎧です。推論なのですが葉錬鉱の弾性纏鎧が、隙間を埋めるような形で収まっていたのではないかと考えているんです」
「あぁ、護謨みたいに。ではやはり同じものを使うことで親和性を上げることで」
「はいはい、おしまいおしまい。お前さんら止めないと終わり無く話し続ける類だろう、さっさと二〇階層を片付けて話してくれ」
「はいっ!」
「吾は帰ってくるまで寝ていよう。長旅で疲れているんだ」
颯は管理局の職員に言伝をして自身の部屋へと籠もっていく。
「はぁ…意味のわからない莢研のが増えたから、さっさと終わらせるか」
―――
「なあ百々代」
「なぁに一帆?」
「材料費を負担すると言ったら新しい魔法莢、作ってみたくないか?」
パッと輝く笑顔は非常にわかりやすいもので、言葉を介さずとも返答を得られたのとほぼ同じ。
「どんな魔法にしようかっ!」
「全然思いつかん。今すぐに戦力を増やしたいわけじゃないから、追々の話し合いは必要になると思うがな」
「えへへ、楽しくなりそうだねっ!」
―――
時又隊と大嵐隊合計九名以外にも巡回官が七名集まって中々の大所帯で二〇階層へと向かう。
順当に八魔章魚と戦うには手数で圧し潰すのが一番、それができないならやはり手数を用意して消耗戦に持ち込む他ない。相手の数が多い分、今回は後者だ。
「……章魚はどこ?静かな階層にしか……見えないのだけど?」
「上手い擬態なんで、あそこの岩が少し動きましたっ」
時間がかかるかと思いきやすぐさま発見。存在を知っているのであれば、取っ掛かりを見つけるのは簡単のようだ。
「じゃあ私が鏑矢をして、そっから魔法戦だね!起動。擲槍――」
起動句と圧縮が始まると同時に百々代は不識で敵味方問わず視線を外して移動と隠形を開始、岩場を影に様子を窺い側面から後方へと移動していく。
目的は崩し、味方にすら何をするのか伝えることはなく、誤射をしないための警戒を行わせない独断専行。
(章魚は賢い生き物だ、なんて聞いたことがある。だから人の視線からわたしの場所を割り出す可能性は潰したい。…多少危ないけど、なんとかなるでしょ)
それなりに離れた集団戦で視線を元に目的を割り出すなんてことは如何に賢くともそうそうできないのだが、なんとなく出来そうな者がいるのがよくない。というか前世であれば出来た、八つある瞳が一つ「視線食らう赤」は視線を視る瞳だったのだから。
開戦の火蓋が切られるのを待っていれば、圧縮と起動句を終えた蘭子の放った擲槍が岩場に擬態していた章魚へと飛んでいき一匹に風穴を開けることに成功。擬態し隠れていた残り一一匹が巡回官に対して魔法を放ちながら魔力の壁を張る。
(蘭子さんの擲槍は見て避けれるもんじゃないし、早めに出ちゃいたいな。でも合わせたほうが効果的だろうし……。…。…今、だねッ!)
零距離擲槍の轟音が章魚らの後方で鳴り響き、意識を向けるも姿は既になく…いや不識で追うことは出来ず、群れの内で呼吸をするとともに着地をしていた姿をみてようやく動き出す。
「遅いッ!」
殴り上げと共に起動する零距離擲槍で、一匹が打ち上げられれば待ってましたと言わんばかりに霙弓から放たれた凍抓が命中、氷片へと変わって降り注ぐ。言葉が合図がなくとも通じ合う以心伝心な二人。
「起動。成形武装。雷鎖鋸剣ッ!――これは百万雷、お土産だよッ!!…。」
章魚は賢い生き物だ、味方同士で誤射をしないために脚での攻撃を試みようと思い至る僅かな隙を着いて、百々代は鋸剣を起動。いつもながらの賑やかさで迫りくる脚を斬り落とし視線を集めては、自壊作用からの大放電を目眩ましに逃げ去っていく。
「――発射ァ!!つまみにしてやるよ!」
真に厄介な相手を忘れてはいけない。超超威力の音速超えの擲槍は残る一〇匹の内、八匹を仕留め戦局を一瞬で傾けた。
そこからは多勢に無勢、魔法の雨霰で圧し潰し被害を出すことなく二〇階層を踏破することができた。
―――
案外にあっけなく終わった魔法戦に、やる気を持て余してた一部の者らはそのまま二一階層以降も進めるようで、残ったもので章魚の回収作業を行うようだ。
「こりゃ久々に八魔章魚が市井にまで回ることになりそうだ」
「珍しいことなんですか?」
「そもそもこんなに出てくる魔物じゃねえからな。活性化してるってのもあるんだろうが、丁寧に五階層区切りで手のかかる階層があるから、魔獣の魔物化に加えて異質化もしていると見るべきだ」
「異質化、厄介ですね。僕たちも色々回ってきましたが奇っ怪なのもありましたし」
「異質化っていうのは、…どういう現象なんでしょうか?」
「どう説明したらいいんだろうか」
「迷宮が狂うっていうか」
「…迷宮に新しい法則が加わる、…そう思うと楽。…この迷宮では五階層ごとに高難易度階が展開、他だと…迷宮自体に時間の感覚が狂う迷宮なんてのもあった」
「あったなぁ、入って出たらいつの間にか八日も経ってて驚いた」
「…次に入って迷宮内でおよそ五日過ごしたら……二時間だった」
「驚いたよ本当にね」
「そんな迷宮もあるんですね、活性化って不思議なことだらけですっ。…よいしょっと、それじゃあ戻りましょうか」
「おうよ」
良介と真二、大嵐夫妻、一帆と巡回官二名は潜行組で、残りの面々で章魚を担ぎつつ上の階層を目指して歩いていく。
「そういえば百々代ちゃんも潜らなくてよかったのかい?」
「アレだけの戦力なら十分だと思いますよ。それに人数が増えると分前が減っちゃいますし」
「なんだ簡単な階層だからって気を使ってんのか、へへっ潜れる時に潜っとく癖を付けとかないと懐が寂しくなっちまうぞ。今は活性化騒ぎでどこも忙しいが、何時まで続くかわからないからな」
「そういうものですか?」
「「「そういうもの」」」
「勉強になりますっ!」
活性化してからの迷宮しか知らない百々代は、納得しながら足を進める。
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