表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/241

一四話①

百々代(ももよ)さん、元気になったみたいだね)

沈丁花こっちにも友達がいたようで良かったよー。一帆かずほくんも頑張ってたみたいだし!)

 失うものもあったが得るものもあった一件は過ぎ去り、四人は沈丁花じんちょうげ港の外れに位置する迷宮管理区画まで馬車で向かう。周期的に首魁が再胎するのは盛春(せいか)季の頭から中頃、つまりは最後に向かう予定だった場所なのだが、迷宮管理局沈丁花所からのご指名で応援を求められれば行かない選択肢など無い。

 賑わいのある迷宮管理区画、ここは沈丁花港の古海底こかいてい迷宮。天糸瓜へちま島でも屈指の資源迷宮の一つであり、沈丁花領の収入源が一つだ。ともなると入場には手間がかかるもので、迷宮管理局からの要請であろうと手荷物やら人相やらをつぶさに調べられる。

 四半時(30ぷん)もしてようやく足を踏み入れれば人々々の人集り、多くの局員職員が詰めてた。

 御者台に座る百々代本人の顔は案外に知られていないため、物珍し気な瞳を向けられている。この迷宮に入れるのは大半が決まった者のみで構成されており、殆どが顔見知りな状態だからだ。馬車を停めて職員に馬の世話を任せては荷物を下ろし、宿舎へと向かっていけば「ああ、大嵐の連れか」と納得する面々。簡単な挨拶を済ませて荷物を置く。


「やーやー皆の衆、元気そうだね―!」

「よう、星落としと宗秋むねあき。お前さんらが来てくれるとは心強い」

「お久しぶりです。迷管から参加の要請が下りましたが、活性化でも始まりましたか?」

「その通りだ。ただでさえ面倒な迷宮なのに魚共が魔法を使ってきやがるようになったんだ、もう最悪なもんで余力のある巡回官総出の大戦よ」

「それはそれは…」

「んで、そこの見慣れないお二人さんは?」

「学舎外活動で同行している生徒の二人だよ!篠ノ井(しののい)一帆くんと西条(にしじょう)百々代ちゃん」

「はじめまして、大嵐おおぞれ夫妻の許で迷宮での活動を行っている、金木犀きんもくせい伯爵家の篠ノ井一帆と」

「同じく活動者の白秋桜しろこすもす子爵家の西条百々代ですっ!」

「あぁーあの、噂は聞いているぞ新人たち。俺は陸蓮根おくら伯爵家の時又ときまた大輪たいりん、っと…今はいねえし仲間はおいおいでいいか、よろしくな!」

「よろしくお願いしますっ!」「よろしくお願いします」

 来る最中に通り過ぎた秋蓮根領の現領主の弟さんである。一帆なんかは名前を聞けば、一度見かけたことが有ったな、と思い出しているのだが大輪は忘れてしまっているようだ。


「とりあえず管理署に行こうぜ」

「そうだね」

 沈丁花港の古海底迷宮は直近の情報では全八七階層。魔物魔獣の強さから脅威度は高く、本来であれば学舎外活動者の入れる余地のない迷宮だ。先に大輪が魚と称していた通り、現れる敵は軒並み魚類で宙を泳いでは潜行者を見つけては襲いかかってくる。


「魔物化したのはよりにもよって板兜魚で、発現させた魔法は重化と氷矢に近い魔法。距離をおいての氷矢ひょうしは兎も角、接近された際の重化を加えた噛みつきは並の纏鎧てんがい障壁しょうへきじゃあ一撃で砕かれちまう。生身なら即死だな」

「なるほど、こっちにも要請がきた理由がわかったよ。いつも以上に蘭子らんこが主戦力になるんだね」

「そういうことだ。渡りに船だわ本当にさ」

「おっ!大嵐んちじゃーん!」「やあやあ久しぶり」「…ようやく休める…」「流石にまだまだ休めないだろう」

 賑やかしく姿を見せたのは大輪のお仲間四人、切石きりいし良介りょうすけ川路かわじ真二しんじ駄科だしなあかね毛賀けが史緒里しおり。皆、陸蓮根領出身。駄科茜が防御手固定で他が必要に応じて役割を持つようだ。

 一帆と百々代の紹介をすれば大なり小なり反応を見せるあたり、既にそれなりの有名人。ニ年生末の模擬戦闘の衝撃が大きかったのだろう、すごい生徒がいたと噂が広がっていたのだと。


「んで話しは戻すが、活性化が始まり防衛官が撤収し巡回官が集まってから一〇と何日かして、攻略が終わったのが一四階層まで」

「随分進んでないんだね」

「結構な人数がいるように見えるけれど、そんなに厄介な状況なんでしょうか?」

「クソ厄介だ、なんせ一五階層目の攻略に六日も使ってるんだから。どうにも五区切りで板兜魚ばんとううおが多い階層が配置されているみたいでな、…うじゃうじゃいやがる。序でに八魔章魚はちまだこまで出てきて」

 八魔章魚は八本の脚で八つの魔法を使う章魚の魔物。この迷宮に現れる最難関とも。

「…入っては戻っての…繰り返しなんだ」

 疲労が瞳に渦巻いている茜は、ボソボソと章魚への恨み辛みを呪詛の如く吐き出している。


「八魔章魚はどんな魔法を使うんですか?前に資料で読んだ際には、その時々で異なるとのことでしたが。それとお肉は美味しいとも書いてありましたっ」

「味は…知らんが」

「前二本に障壁、あとは左から煙幕えんまく飛岩ひがん、火球、氷矢、落雷、罠草わなくさだったよ。味は…食べてみたいね」

 男装の似合いそうな史緒里は笑顔で答えた。

「攻防がしっかりした構成ですね。ふむ。障壁の硬度がどれくらいかわかりますか?」

「うーん…説明が難しいね」

「なら…傍陽一二号より硬いですか?」

 傍陽そえひ一二号は一帆が主に使っている障壁。傍陽工房最近の障壁魔法である。


「そこまでは硬くないとおもうよ。ただ二本あるが故に起動が速くて、本体にも魔物特有の魔法耐性を備えているから、想像以上には堅い守りだよ」

(傍陽一二号より硬くないなら雷鎖鋸剣いかづちのこで突破は可能だし、蘭子さんの圧縮擲槍でも抜けるはず。…だけど板兜魚がうじゃうじゃいるって話だから、そっちに戦力を回したいだろうし障壁相手に慣れてるわたしが回ろうかな)

「章魚はわたしが担当します。機動力と障壁破壊には自信がありますので」

「ええぇ?大丈夫なのか?」

「百々代ちゃんがそっち担当してくれるなら、私も魚の相手だけできるから楽かも。気をつけてね!」

「はいっ!」

「本気か?八魔章魚は初めてなんだろう??」

「今のうちの主戦力だったりするんですよ…」

「そ、そうか」「危なかったら戻ってくるんよ?」「…気を付けて」

「お任せをっ!」

 ふんすと闘志を燃やして魔物の対処を受け持っていく。


「一帆くんには茜さんと協力して防衛を頼むよ」

「承知しました。章魚の魔法を除けば、飛来するのは氷矢と魚そのものだけですか?」

「今のところは。なんせ八七階層もあって活性化しちまっているからな、次に一五階層にいったら別の相手が増えてても不思議じゃない」

「駄科さんは防衛手との――」

 防衛手同士話しを詰めていき、他も他で板兜魚の対処の話し合いを進める。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ