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一一話⑤

 未草ひつじぐさ街の城郭迷宮を訪れて九日。首魁の再胎へ備えて城内に待機していた四人は、迷宮を大きく揺らす振動を感じ取り最上階へと向かう。


「作戦は昨日確認した通り、僕と百々代(ももよ)さんが前で骸ノ武王(むくろのもののふきみ)を抑え込み、一帆かずほくんが防御を担当し蘭子らんこが詰める。もう馴染みのやり方だ。注意事項としては奥手に太鼓を叩く骸骨がいる場合は優先的に潰すこと、放っていると首魁を強化する厄介な存在だからね。それと百々代さんの目も必要に応じて使ってほしい。仕組みがわからないから判断は任せちゃうけれどいいかな?」

「はいっ!」

「それじゃあ、さっさと蹴りをつけて仕事を終えようか」

「はいよー!」「承知しました」「了解です!」

 先頭の宗秋むねあきふすまを開けば外観からは想像もつかないような大広間、その奥に首魁である骸ノ武王が胡座をかいている。

 ドンドコドンドコ、ポンポンポン。賑やかしい太鼓とつづみの音に視線を向ければ、武王の後方にて演奏を奏でる骸骨が二体。ハズレを引いたな、と宗秋らは察した。


「起動。成形武装。雷鎖いかづちとざす鋸剣( のこぎりのつるぎ)!」

 騒音と閃光の鋸剣を手に百々代は首魁に肉薄しては視線を自身へと向けさせる。零距離擲槍ブースターでの急加速、からの方向転換を交えながら勢いのまま振り下ろすも。武王の片手に構えた片刃の大剣、大太刀おおたちによって防がれ、もう片手の大太刀から反撃が迫り擲槍移動にて間合いから逃げ去っては、死角から成形武装で攻撃する宗秋と足並みを合わせ息をつく隙を与えない連携で足を止めた。

(僕と百々代さんの二人相手を対処しきれるとは、剣豪ってやつかな)

 両手に握られている大太刀を自在に振るい、二対一の状況をものともしない様子だ。


 カチャリ、後方へ太鼓を打ち演奏をする骸骨兵に銃口を向けた一帆は引き金を引いて凍抓とうそうを撃ち出したのだが、魔法弾は命中することはなく透明な壁に阻まれて空中を切り裂くばかり。

(…障壁の類い。ありったけを撃ち込んで突破を試みるか、他を頼るか。首魁に対する強化がどれほどかはわからないが、前衛二人の負担を減らすためにも、俺の方で処理しておきたいのだが…)

「来い。月の涙杖だじょう。起動。そばへ」

(凍結による脆弱化、火力の一点集中。やってやるさ)

 改めて霙弓を構えた彼は戯へで涙杖を浮かべ、自身の氷魔法へと凍結効果を付与、そして自身の氷魔法への適正を高め。

 一発二発三発、火薬を用いる鉄砲とは違い魔法莢を装填する銃型の迷宮遺物には反動というものがない。一点へと連射を行い、無数に繰り出される氷の抓撃は魔力の壁を切り裂き、凍結させ、また抓を立てる。八発撃ち込んだ頃、氷の這う透明だった壁には大きな亀裂が走り裂け目を生み出した。

 空いてしまえばこちらのもの、狙いを定めて骸骨兵を狙い、太鼓共々氷片へと変えていく。


(やるねぇ。それじゃあこっちも準備ができたし、格好いいところ見せちゃおうかな)

「―――発射ァ!」

 太鼓の演奏による強化が失われた時を見計らった圧縮擲槍。起動句を耳にした前衛(宗秋と)二人(百々代)は直ぐ様左右に跳び退いて、次の攻撃へと備えたのだが目の前の光景に言葉を漏らす。

「…うわぁ」

 武王は迫りきた擲槍を大太刀で受け止め真っ二つに切り裂き、カタカタと顎骨を打ち付け笑い音を上げている。そして一度腰を低く構えて、一帆と蘭子の許へと走り出すではないか。脅威の度合いが前衛よりも後衛に傾いたのだから仕方ないといえば仕方ない。


「させないよッ!!」

 制御機構を引き抜き性能を引き上げた百々代は、擲槍移動で武王を追い越しながら鋸剣の前後を返し、地面に剣先を押し付け回転の勢いで振りを大きく加速させた一撃を叩き込む。

 とはいえ二人を相手に遅れを取らなかった剣豪だ、この程度の一撃を防ぐことに苦労するはずもなく、自慢の大太刀で受け止めた。

 接触時の勢いこそ十分ではあったのだが回転が手前から上に回っていく都合上、鍔迫り合いことは難しい。一度振り抜いては前後を戻し、斬り上げで大太刀の破壊を試みた。

 雷撃と火花が瞳を焼かん鍔迫り合い。優れない視界の中で金の瞳で武王を捉えて力を込める。ガタガタガタガタ、全身の骨が震え喧しい音色を奏で始めれば、今までのそれとは異なる膂力で大太刀が振られ百々代は吹き飛ばされた。


「カタカタカタカタっはっはっはっはっは!!!悪鬼もののけだ悪鬼が出たぞ!!出合え出合え!!!」

 顎骨が打ち付けられる骨鳴り音ではなく、肉声が武王から響き渡ると太鼓などが有った後方の襖が開かれて、無数の骸骨兵が姿を現すではないか。

「くくく、ははははっはっはっはっは!!!」

 哄笑する武王は金属製の仮面、面頬めんぽおを取り外してみせれば、そこに骸骨は無く鼻髭が立派な男の顔が存在している。形態の変化、ととるべきか。

は鬼討ちの落燕らくえん大口魚井之護位たらいのもり。異彩の悪鬼よ、汝の名を聞こう!!」

「…。…白秋桜しろこすもす子爵ししゃく家、西条にしじょう百々代です」

 困惑しながらも向けられている視線は自身へのもの、仕方なしに名乗りを上げる。

「その名、お主の首を以て我に刻む。死合おうぞ死合おうぞ!!」

 面頬を改めて付け直した武王、いや落燕は一振りの大太刀を床に突き刺し、一本のみを両手で構えて百々代へと迫った。


「数が多い…、蘭子!一帆くん!よくわからないけど百々代さんの事は任せるよ!僕は雑魚を全て受け持つから!起動。多重障壁」

 三人で落燕へと当たれるよう、宗秋は障壁で自身と無数の骸骨兵を閉じ込めて成形武装を振るう。

(心配だけど向こうが乱戦になるのは避けないと。まあ、やってくれるでしょ)


 魔法を使ってくるわけではないが、剣術と巨躯から繰り出される鋭く重い連撃を受け流すのがやっとこさ。怯え壊す金で睨めつければ全身を震わし獣の如く咆哮を上げるも、小さな隙を作るのが精々で効果的とは言い難い。ならばと大太刀へと対象を変えたのだが、高速の剣技を常に追い続けることも難しいわけで、精々が剣筋を歪める程度の効果しか望めていない。

(人に、生まれ変わってからッ、力が弱まっているよね!これ!)

 事故防止のために本能が制限を設けているのかと考えていた百々代だが、形振り構っていられない状況ですら思ったように壊せない状況を鑑みて、自身の持っていた力が非常に弱々しいものになっていることを察した。なまじ細視遠望の青は十全に使えているだけに気が付けなかったのだろう。

(今の、人としての力でどうにかしろって、ことだよねッ!)

 前世離れするべき時なんだ、と覚悟を新たに鋸剣を握る右手に力を込めて大太刀を振り払い、擲槍移動で脇を抜けがてら百万雷で目眩ましをし床に突き立てられた大太刀を引き抜く。

 刃渡り四尺(120センチ)、柄長一尺(30センチ)、艶美な反りの片刃の大太刀を両手で構えては、まっすぐと落燕を見据える。

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