一一話④
郭内の制圧を終え城内へと向かう手前で、宗秋が三人を呼び止める。
「入るにあたって注意事項がある。城内には少なくない数の罠が敷設されているから、気をつけて進まないと痛い目にあうことは必定なんだ。細心の注意を払って進もうか」
「どんな罠があるんですか?」
「多いのは目に見え難い鋼線が張られていて、触れることで壁の穴から矢が飛び出してくるもの、特定の床板を踏むと警報が鳴り骸骨兵が集まってくるもの、足場が崩れて下階に落下する三つの罠が主だね。どれも注意深く見ていれば気がつけるんだけど、戦闘となると意識が敵に向いちゃうから回避し難くなるんだ」
「動かない私たちよりも二人の方が大変そうですね」
「そうなるね。一応のこと注意なんだけど、罠に掛かるのはこちらだけじゃない。骸骨兵の作動させた罠がこちらへ被害を出すこともあるから、壁に穴があったら直線上に立たないよう位置取りをしてね」
「なるほど。そういう事もあるのですね」「気を付けますっ!」
城内を徘徊する骸骨兵を倒しながら進んでいけば、キラリと灯りを反射する鋼線が二本、☓字に交差するよう張られており「これか」と納得する。
「触れずに潜ったり跨いだりは出来そうに有りませんが、どうしましょう?穴っぽいのは通路の先にありますよ」
「こういう場合は障壁で射線を遮って切ってしまうんだ。ということでものは試し、一帆くんは障壁を張って百々代さんが処理してくれるかな?」
「はい」「はーいっ!」
一帆が障壁を展開した事を確認し、百々代は擲槍で狙いを定めて二本同時に鋼線を貫き切れば、発射音と共に矢が飛んできては障壁に当たり床へと転がる。
「いいね。学舎じゃあ教えてくれないけれど、迷宮に携わる場合には必要になる知識だから忘れないように」
二人は頷いて四人で先を進んでいく。
―――
「そろそろ一旦戻らない?閉所用の迷宮遺物に変えたいんだけど」
「うーん、少し早いが今日は終わりでいいか。潜行も順調だし、このままなら明日には最上階に到達できるだろう」
「さんせーい!根詰めてもいいことはないからね」
「閉所用の迷宮遺物とはどんな物なんですか?」
迷宮遺物に興味を示した一帆は訪ねてみる。実際のところ六尺もある長杖は屋内では不便極まりないわけで、彼自身も佩氷のみに絞って使用していた。
「閉所用というか捻杖が使いにくい場所用なんだけど、威力据え置きで連射力を上げられる迷宮遺物だよ。軌道線を描いたり、細かな調整をしたりが難しくなるから、そういうのが必要のない時に使う感じ。『竹の絵巻物』ねー」
「あー、竹の絵巻物。出土の少ない迷宮遺物ですね」
「そーそー、良く知ってるね。珍しい割に使い勝手はそんな良くないから安いんだ」
ふんふん、と納得し一帆は珍しい迷宮遺物の活躍を楽しみに迷宮を出る。
―――
明くる日に竹の絵巻物がどんなものかと一帆と百々代がワクワクとした視線を向ければ、巻物状に束ねられている竹簡を紐解き両手で持ちながら。
「起動。擲槍。発射ー!」
と起動句を口にするやいなや、表面に擲槍の絵が浮かび上がり、ダララララララと目にも止まらぬ連射性能を発揮し、城内と骸骨兵を蜂の巣にした。
「停止。こんな感じだから射線には入らないようにね!」
「肝に銘じます」「はいっ」
「僕はね、これを後ろから浴びたことがあるんだ。在学中にさ」
「「…。」」
「調整が難しくってさー。今は扱いもうまくなってるから、射線にさえ入らなければ大丈夫だから」
(釘槍炸射とか乗せたら近距離に限って、すっごい威力になりそうだなぁ)
「竹の絵巻物って開いてないと使えないんですか?」
「うん、開いていることが条件だね。どれだけ開いているかによって連射性能が変わるんだよ」
「なるほど」
「興味ありな?」
「閉じてても使えるなら、腰に括り付けて釘槍炸射を近距離から撃つことで良い威力になるなぁと」
「またエグいことを…」
「うーん。擲槍でも十分な威力だと思うんだけど」
「連射の速度から考えれば十分なんですが、魔物の魔力耐性、纏鎧のような魔力の鎧、障壁類の魔法に対する攻撃を前提とした守りの術は、小さな攻撃の積み重ねに対して弱いんです。実際に港防の釘槍炸射が正規採用されていることや、それを模倣した氷針乱炸、無数の刃で切り裂く雷鎖鋸剣の二つでも実証してきました」
ならば、竹の絵巻物で以て細かな射撃を無数に行う魔法を乗せた場合は、対魔力耐性に於いて最高性能になるのではないかという考えなのだ。
「実現の有無は兎も角、その理論は有益だね。…となると蘭子の圧縮擲槍も幾つかを同時に一箇所へ当てたほうがいいのか?」
「あそこまで威力が有れば最早関係ないんじゃないでしょうか?」
「ふふーん。でもま、灰の人型魔法みたいな殆どの攻撃が通用しない相手には試してみる価値がありそうだねー」
「活性化で魔物の増える昨今、手数のある魔法は必要かもしれませんね」
「金木犀港に戻ったとき、色々と構成を見直してみるかな」
「さて、お客さんも来ましたし進みましょうかっ!」
主力である蘭子の準備が整うまでの時間を稼ぐため、百々代は床を、壁を蹴り、前に飛び出ては暴れまわる。
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