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一〇話⑨

(上手くいくかはわからないけど段階ギアを上げるよッ!)

 欠陥品たる鋸剣の出力を制限するための杭を引き抜き、回転と雷撃の勢いを強める。放たれる雷は百々代(ももよ)自身の纏鎧てんがいすら砕き、再生効果によってトントンに抑えられてしまう。つまりは鋸剣を使い続ける限り、実質的な再生の無効化されるということ。


(右上臂の炎の剣が消えた、…なら火球のはず。至近距離の手数が無くなった今が)

 好機。

 左腕を引き拳を握っては両足に魔力を集中させ、放たれた火球をギリギリまで引き付けては正面に吹き飛ぶ。一回、ニ回、そして三回、零距離擲槍ブースターの勢いを殺すことなく鷹人の身体を蹴り上がり剣を構えていない肩へと鋸剣を振りかざし、一撃離脱の要領で駆け抜ける。

 対障壁、対生物、つまりは魔力の鎧だろうと魔力耐性だろうと出力さえ足りていればぶった斬れるわけで、駆け抜けざまの一撃ですら挽き肉と骨片の混じり合った飛沫を撒き散らし、腕の一つが自重で落下した。

 とはいえ一二尺(360センチ)を誇る巨人が両の腕に炎剣を構えていることには違いなく、手の内を明かした百々代に対して鷹人は一切の油断なく剣撃を繰り出していく。

 体格の差は膂力の差、肉体強化を以て尚覆し難いのが実情で百々代は防戦に徹しながら機を窺う。


(防戦一方だとッ、鋸剣の自傷がしんどい、ねッ!やっぱり使うべきかな怯え壊す金を)

 前世から残っている金の瞳は私利私欲のために使ってはならないと、金木犀領主篠之井慧悟に誓っている。以前に魔物と外つ国人へ使っているが、学舎を守るという緊急事態であった。

(…。)

 ここで百々代が倒れればこの化け物は三人に合流し、危機的状況を招くのは確実。

(わたしは、護りたいんだ。護れるものを、誰かをッ!怒られたら、えへへ謝ろう)

 自身の力は誰かを護るために残された暴虐の欠片だと、内に潜む暴虐性を奮い立たせては炎剣を振るう鷹人と、宗秋に襲いかかる灰人を視界に捉えて金の瞳に力を込めれば二体はひるおびえた。然しながら自壊を促せるほどの力は無かったようで、隙を作る程度におさまる。


(一帆様が霙弓の魔法莢を…氷雲丹に変えた。……わたしが隙を作る前提の突撃ッ!ごちゃごちゃしてて、灰の人型にだけ狙いを定めるのが難しいんだけどッ!でもやらなくっちゃね!信頼してくれてるんだからッ!!)

 炎剣の連撃を防ぎながら百々代は一帆を援護すべく、灰人に金の瞳を向けて大きな隙を作れば蘭子の一撃で撃破された。

(上手くいった、ならこっちだッ)

「悪いけど、わたしは生まれながらの、生まれる前から暴虐あくなんだッ」

「―――ッ!!!」

 自壊へと誘う怯え壊す金に見つめられ鷹人は暴れ狂い、癇癪を起こした子どものように炎剣を振り回す。その合間を掻い潜るように擲槍移動で駆け抜けて、鋸剣で片足を引き裂く。

 ぐらりと揺れた巨躯、その残った脚を蹴り払い地面に横たわった首を目掛けて鋸剣を突き立て、急ぎ逃げ去る。

 百万雷ひゃくばんらい雷鎖いかづちをとざす鋸剣(のこぎりのつるぎ)が百々代の手から離れると発生する自壊現象の副産物的な魔法に焼き尽くされ、四翼四臂の鷹人は短い生涯を終えた。


―――


「まさか一人で倒しちゃうなんて驚いたよー、よく頑張ったね!」

 わしゃわしゃと蘭子に揉みくちゃにされる百々代は満面の笑みである。

「そちらも大変そうでしたね」

「大変だったぁ、全然魔法効かないんだし。一帆くんも頑張ったね、あれどういう仕組みなの?」

 あれ、とはつまり百々代の瞳なのだが。

「そういう話は後でもいいだろう。百々代さん、怪我はないかい?治癒の魔法莢は持っているけど」

 なにかしら察した宗秋は話しを区切り、百々代の手当を申し出る。蘭子も暢気なもので「それもそうか」と一人納得していた。


「纏鎧が保った大したものはありませんっ」

「そうか。でも上に戻ったときに医務室へ足を運ぶのを忘れないように、いいかい?」

「はいっ」

「然し…なんだコイツは。三種の魔法にこの見た目、四翼四臂の人型魔物など記録にないはずなんけども…」

「活性化の影響でしょうか。方方のこんなのが現れてたら、拙いですね」

「ああ、一帆くんのいうとおりだ。……終わったばかりに言うことでもないのだけど蘭子と話していた事があってね、二人が嫌でないのならこのまま僕たちと行動を共にしないかい?この長くない期間で連携が取れ、相性も悪くない…いや良い」

 急なお誘いに一帆と百々代は顔を合わせて、一度頷く。「是非」「喜んでっ!」と。

「というより、学舎外活動って同じ局員の許で活動するのではないのですか?」

「当人次第。見ての通り少数精鋭でこぢんまりしてるでしょ?ある程度の水準がないと、ちょっとね」

 間近で見て大嵐夫婦の実力が確かなのはよく知っている、故にお荷物が増えると宗秋の負担が大きくなるのも理解ができる。

「なるほど、お眼鏡にかなったということですか。私達は動きやすいので同行します」

「ご一緒したいですっ!」

「ふふっ。なら少しばかり休んだら次の迷宮に向かい、厄介な魔物や首魁を倒してまわろう。よろしく、頼りになる新人くんたち」

 握手を交わし四人は一旦二八階層の拠点を目指す。

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