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一〇話④

 迷宮を潜り始めて三日目。視界の端で宗秋むねあきが成形武装の剣を構えた姿を見て、百々代(ももよ)零距離擲槍ブースターで高く跳ね上がり、広範囲を薙ぎ払う駆刃くじんを躱せば鬣牙りょうがの群れは両断されていく。

 くるりと空中で宙返りしては片足を高く持ち上げて、自重落下の勢いとともに振り下ろしては残党に踵落しを命中させて頭蓋を砕く。


(よく見ている。合図を掛ける前に跳んでいるとは。そろそろ来るかな)

「――発射ッ!!!あっ」

 上空で狙いを定めていた銅鷹あかがねたか蘭子らんこ擲槍てきそうで貫かれて辺りに死骸を散らしてく。のだが、一つだけ命中を逃れて火球を百々代目掛けて撃ち下ろす。

「…。」

 左手を魔法莢まほうきょうに添えつつ火球を躱しては擲槍を用意し、撃ち上げるも低所から高所への魔法射撃は重力に引っ張られて威力減衰が起こり、自由に空を舞う銅鷹に命中することはない。

「偶にはこういうこともあるか。百々代さん、僕が崩しますので練った擲槍を頼む」

「大丈夫だと思いますよっ、さっきので動きが制限されたんで、ほら」

 一線の魔法が銅鷹に命中し凍抓とうそうが発生し切り刻む。霙弓えいきゅうを構えた一帆かずほへと笑みを向け、手を降っては地上の制圧に百々代は戻る。


(三日間見て思ったけども、この二人、というか百々代さんの連携力は異常だね、視野が広すぎるというか。ただ暴れているだけじゃなくて、後方を意識して徹底的な射線管理と位置調整をしている、…攻撃手と調整手を兼任している感じか)

 魔法射撃を基本とする一帆と連携することを大前提にした戦闘手法だが、大方誰と組んでも上手くやれるのが彼女の強みであろう。結衣との半年が活きたのだ。

 感心頻りな宗秋は左手で魔法莢に触れ、魔法射撃にて群れる鬣牙を散らしながら周囲へ目を配り戦場が広がらないよう百々代を引き戻したり指示を出してく。敵の動きを見て陣形の調整を行うのは、流石に彼のほうが長けるというもの。


「宗秋さんから見て、右斜め前方…一町《100メートル》先に見慣れない人型が岩陰からッ」

 シュルシュルと長い舌を出し入れする鱗で覆われた人型の生き物。蜥蜴人とかげびととでもいうべき存在が姿を見せていた。

錆色鱗族さびいろのうろこびとか!アレは魔物だ、一匹いれば…まあいるか。一帆くんの障壁内まで下がるよ」

「はいッ!」

 六尺七寸(2メートル)の背丈をした錆色鱗族と呼ばれた魔物は百々代らを見つけると大声を上げて、岩陰から仲間を呼び出す。

「巣穴持ちなのも確定と、面倒な。蘭子、」

「――発射ッ!!!」

 一本の擲槍で三頭に貫通するも、既に相手は一〇匹を優に超える数へと変わっており、成形武装のような魔法で大盾を作り出しては全面に構えて走り出した。

「一帆くんは障壁で足止めを」

「承知しました」

 そばへで浮かせていた佩氷をくるりくるりと回しては地面に敷き詰め、進行の妨げとなる壁を設置し防御を固める。


「蘭子さん射線曲げられます?発射までの溜めと弾速、一帆様の妨害込みで障壁を迂回して着弾できる軌道線を描きますが」

「お願い!」

「お任せを!………それじゃあ―――」

 視線を合わせるため後ろに立ち顔を並べた百々代は細視遠望さいしえんぼうの青で距離を測り、射線を曲げて撃ち込む事を前提に張られた障壁を越えられる軌道線を描いて発射角と入曲角を告げていく。

「起動。擲槍――――発射ッ!!」

 浮かび上がった魔法の槍に錆色鱗族らは大盾を構えようとするも、時既に遅く発射音が耳に届く頃には屈強な体躯には風穴が空いて、二匹を残して地面に血液を撒き散らしていた。

「百々代さん!一帆くん!」

「了解、ですッ!」「ああ、わかりました」

 地面に敷かれていた障壁が消え去ると同時に宗秋と百々代の二人が分かれてに飛び出す。


「起動。成形武装ッ」

 雷の閃光する鎖を手に連続使用の擲槍移動で距離を詰めつつ、鎖が絡まるように後ろへと回り込んでは手を離し、零距離擲槍パイルバンカー蜥蜴とかげを吹き飛ばす。彼女の手から離れた雷鎖は自壊し、強烈な雷撃爆発を引き起こす。

 つまりは蜥蜴の丸焼き、…にはならない。魔物は原初の魔法を扱う種族なので魔法に耐性を持っている、蘭子の圧縮擲槍射撃や霙弓で強化された凍抓のような高高威力の魔法射撃であれば耐性など貫通するのだが、雷鎖程度では鱗越しに火傷を負わせる程度。

 大盾と鉾を構え向かい来る蜥蜴の攻撃を躱して、擲槍移動で距離を取り角度を調整してく。高高威力の魔法射撃を行えるように。

 百々代に気を取られて一帆に背を向けたのが運の尽き。

(知能は蜥蜴並か)

 背の鱗を突き破り肉へと進んだ魔法弾は衝突を条件に、相手の内側から引き裂くように氷の抓でやたらめったらに引き裂いていく。模擬戦闘で使っていたような肉体への損傷を行わないような制限などない、凍った肉片を周囲に散らせる凶悪な魔法の一つ。

 こちらが終わったから、と宗秋の方へと視線を向ければ、盾を持った腕を切り落とされ圧縮擲槍が命中した銅色鱗族が宙を舞い血濡れの襤褸ぼろ雑巾へと変わっていく。


「よしっ!蘭子、岩陰に巣穴がある筈だ、潰してくれ。百々代さんは撤退、一帆くんは衝撃に備えて障壁を」

「まっかせてー!起動。飛岩ひがん――」

 高くに杖を掲げぐるりと一周回せば、直径二間(4メートル)程の岩が作り出され。

「――発ッ射ァ!!!」

 真上に高く撃ち上がったかと思えば、隕石が如く勢いで落下し強烈な衝撃波と共に砂埃の大波を引き起こして、巣穴の有ったと思われる場所を大きな凹地へと変えた。

「「わぁ…」」

「けほっ…。凄いだろう、僕の妻は。星落としの大嵐おおぞれなんて呼ぶ人もいるんだ」

「納得の魔法ですね…」

「二つ名っていうのですよね?!かっこいいですっ!!」

「あはっはっはっは、もっともっと褒めてくれていいよ!うえぇ、口の中に砂入っちゃった、ぺっぺっ」

「…一旦戻ろうか。迷宮外まで」

「さんせーい。砂だらけでお風呂に入りたいよー」

「はーいっ」「…そうですね」

「それじゃあ、…素材の回収をしたいけど…残ってるか?」

「「「……。」」」

 一同は遠い目をして惨状を見つめた。

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