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一〇話③

 片栗街の荒原迷宮へ迷宮門を用いて潜行すると、目に映るのはひび割れた大地とそこらかしこに茂る翠鹵草。天高くから見下す日光の位置は一日中変わることはなく、天候も晴天で固定されている不毛と言って差し支えない土地だ。

 所々で防衛官が翠鹵草の採取や、一部では栽培などを行い。地上を駆ける見窄らしい鬣と長い牙持つ犬系の魔獣、鬣牙りょうがを討伐している。


「地上の魔獣ってアレでいいんですか?」

「そう、鬣牙だ。発生頻度がそこそこ高くて、手入れが行き届かなくなると大きな群れを形成して面倒になるんだ。とはいえ防衛官でも十分に対処可能だ、…群れていなければ魔物化した銅鷹あかがねたかもなんだけど」

「なら一頻り潜行が終わってもここ残るんですか?」

「いいや。ここはここでなんとかしてもらうか、防衛官の派遣をしてもらうか、港防に力を借りるかだ。今の巡回官が一処に留まれる暇はないからね」

 どうするかはお上次第、現場職は仕事をするのみ。

 防衛官も魔法師、殆どが学舎で学び卒業した先達だ。しっかりと連携をして対処できている。

 目印を頼りに二階三階と降りていき到達するのは八階層。ここが数日の拠点となるようで、防衛官らが天幕やらを準備しており上と比べると少し賑やかしい。


「準備終わりましたよ、大嵐おおぞれさん。っと、そこのお二人が学舎外活動の生徒さんですか?」

「はい、金木犀魔法学舎から学舎外活動で参じました。篠ノ井一帆(かずほ)と西条百々代(ももよ)です」

「よろしくお願いしますっ!」

「はい、よろしくお願いします。気をつけて進んでくださいね」

 人の好さそうな防衛官に挨拶をし、最低限の装備へと変えて次階へと下る穴凹へ足を踏み入れる。

 とはいえ九階層も風景だけ見れば大きな違いはない。臨戦態勢で一同は足を進めていく。


「地図通りだし、目印もしっかりと残ってる。構造の変化はないようだ、それじゃあちょっとばかし暴れて次の階層へ行こうか。見ての通り身を隠すような構造物も木々もない、敵さんが結構な勢いで襲い来るから」

「危険そうだったら宗秋に押し付けてこっちに戻ってきてね百々代ちゃん」

「了解しましたっ!起動。成形武装。雷鎖いかづちをとざす鋸剣( のこぎりのつるぎ)!」

 一帯に響き渡る騒音を発しながら百々代は駆け出し、鬣牙の群れを次々に雷直火焼きの挽肉へと変えていく。鋭く短い刃を持つ鎖が剣の機構によって回転する鎖鋸チェーンソーに近い仕組みからは想像できない切れ味で、乳酪を熱した刃物で切り分けるが如く切り裂く姿は驚愕の一言。

 対障壁、対生物、対非生物なんでもござれの便利な失敗作だ。


「甘いよッ」

 振り抜いた隙を狙うように鬣牙が踏み込み飛び掛かるも、常に零距離擲槍ブースターの構えは維持されており、足裏で発生した衝撃で膝蹴りをお見舞いし、浮いた隙を刃で真っ二つにすれば絶命。次はどいつだと視線を巡らせる。

(個々での波状攻撃では意味がない、と群れでの同時攻撃の移るつもりかな。…そして上には)

 銅色の禿鷲が何匹もくるくると百々代へ狙いを定めて、円を描くように帆翔を始めているではないか。後方の二人が十全に動けるよう、態と囮となるよう物音と閃光の喧しい鋸剣を使っていたのだから当然といえば当然。

 さて、対人から対魔物魔獣に調整された鋸剣にも欠陥は残っている。そう、使用者が手放すと強烈な放電を伴う放電及び自壊現象だ。鬣牙の群れへと投げつければ、一帯を雷が焼き尽くすわけで。焦げた匂いが鼻孔を擽る。


「うっわぁ、何あれすっごい。一帆くんの彼女ってホントに三年生?」

「去年はアレと対人実技の模擬戦闘で戦ったんですよ」

「うわぁ…。…よーし、銅鷲も集まってきたしお仕事をしないとね。射線に障壁張られると困るから杖で示すから見といてよね」

 一帆は頷き蘭子らんこが手にしている長杖に意識を向けつつ、佩氷はくひょうを手に準備しつつ非攻性の障壁を調整しつつ展開していく。


(長杖なんて嵩張る物を使ってるんだ、迷宮遺物だろうな)

「起動。擲槍てきそう――」

 どういうものなのかと興味の籠もった視線を向けていれば、短めな擲槍が杖の尖端辺りに滞空し始め二つ三つ。空を飛び交う銅鷹の数だけ用意すれば蘭子は口を開き。

「――発射ッ!!」

 …バンッ!衝撃波と共に超音速で発射された擲槍は銅鷹の回避を許す間を与えずに風穴を開けては骸へと変えていく。


(なるほど、活の捩杖じじょうか。魔法の圧縮を行う迷宮遺物だったな、長さに応じて圧縮率が変わるとか聞いたが)

 六尺(180センチ)と使用者である蘭子よりも大きい代物で、如何程の威力強化に繋がるのか、と一帆は考えながら、寄ってくる鬣牙に対して佩氷を振るい障壁へ閉じ込めて氷漬けにしていく。

 四半時《30ふん》も戦闘を行わないうちに空と地上の敵は粗方片付き、四人は合流する。


「この調子で進もうか。百々代さんは疲れたら僕が交代するから遠慮なく言ってね、一帆くんのおかげで動きやすかったよ」

「障壁使うの上手いね!閉じ込めて凍らせてるのなんて驚いちゃったよ」

「ありがとうございます。ただまあ、小型にしか有効足りえませんけどね」

「十分十分。百々代ちゃんも敵の気を引いてくれてありがとうね、意識の外側から攻撃できるのは楽だったー」

「どういたしましてっ!蘭子さんの魔法もすごかったです!着弾より遅れて音が聞こえるなんて初めてですっ」

「だろぉ、屠れない相手なんて殆どいないのだよ、はっはっは!」

「調子に乗ると痛い目にあうぞ。それじゃ目印を頼りに進もう」


―――


「外時は八つ時(16じ)手前か。区切りもいいからこれで戻るとしようか」

「さんせーい。二人のお陰でガンガン進めたねー」

 九階層から始まった探索は現在一二階層に到達している。道中に構造変化が無かったというのもあるのだろうが、十分すぎる進みであろう。

 来た道程を半時(1じかん)弱ほど歩き戻り、拠点の設置されている八階層へと戻っていく。


「一四階層までは終わったが、拠点はまだ八階層のままでいい。二〇階層が空けたらそこに移動してほしい」

「畏まりました。警備等はこちらで行いますので、どうぞお休みください」

 慇懃な態度な防衛官に案内されて、四人は仮宿舎へと行き身体を休める。

 食事を終えて外の様子を眺めて、頂点から照らされる陽光に「時間感覚が狂ってしまうなぁ」と百々代は青い瞳を晒して眇めた。

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