表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/241

一〇話①

 三年生に上がり暫く、散秋季さんしゅうきの始まりに早期で試験を終えた一帆かずほと百々ももよ。二人は荷物をまとめ金木犀きんもくせい片栗街(かたくりまち)までやって来ていた。

 二日に一度走る乗合馬車で時四つ(8じかん)、馬屋で馬を交換し時折休憩が入り進むこと二〇と半里(80キロメートル)。山間の長閑のどかな町並みへと到着する。


「帰りにもこれに乗るのか…」

「巡回の局員になれば多く乗るんじゃないですか?」

「弾性の纏鎧を俺の分も用意してくれるか?」

「戻り次第用意しますねっ」

 ぐったりとした一帆に対して百々代は元気そのもの、弾性の纏鎧のみを起動し緩衝材として乗心地の悪さを解決していたかが差だろう。

 さて、こうして二人のみで移動していたのには理由がある。本来であれば巡回の迷宮管理局員、巡回官と同行し迷宮の探索を行うのが学舎外活動の習わしなのだが、当の局員が迷宮の活性化によって急ぎ片栗街へと向かってしまった為に後追いとなったのだ。


「然し…迷宮の活性化ですか。前の秋桜こすもすがいみたくなってないと良いんですけどね」

「見た感じは大丈夫そうだがな」

 見渡す限り騒ぎなど無く長閑そのものの。

 さて迷宮の活性化とは。魔獣の魔物化や迷宮そのものの異質化など、プレギエラの工作員から取得した情報を素に、迷宮管理局から一般公開された情報だ。

 彼の国、いや大陸ではそれなりの起る事象のようだが、百港ひゃっこう国ではここ最近頻繁に発生するようになったが故に「迷宮に伝染する病なのではないか」と、情報の出処を知るものは考えている。


「とりあえず食事にしませんか?お腹減っちゃって」

「そうだな、良い食事処が有るといいのだが」

「それじゃあ聞いてきますねっ。すみませーん、ちょっといいですかー?」

 目についた小父さんへと手を振りつつ近寄っていく。


「片栗街に初めてきたんですが、この辺に美味しい食事処のお勧めってありますか?」

「美味い食事屋か。今ぁ、七つの時(14じ)頃だしやってるかはわからんが、ころも亭の揚げ鶏が絶品だぞ、かりっじゅわって食感に翠鹵草すいろそうで味付けされてて、初めて寄ったんならまずは行くべきだ。場所は―――」

「ありがとうございますっ!」

「やってなかったら、裏口の扉を叩いてみろ」

「はーい、それでは」

「おう、じゃあなー」

 パタパタと走り一帆の許へと戻っていき、到着すると同時に夜の部が開店し二人は腹拵えを終える。


―――


 徒歩で時一つ(2じかん)弱の山道を登っていけば、中腹のなだらかな土地に二間(4メートル)の壁に覆われた迷宮管理区画が現れる。

「ようやく、着いたか。はぁ、はぁ、荷物をありがとう百々代」

「お安い御用ですっ。まさか定時の乗合馬車が一日二往復しかしてないとは思いませんでしたね」

「ああ、街に下りる時は考えて行動しないとな」

 荷物を手渡し門扉に向かえば受付職員が顔を見せ首を傾げる。


「金木犀魔法学舎の学舎外活動者です。大嵐おおぞれさんが先にこちらへ来てると思うのですが」

「あぁあぁ、大嵐さんのね。篠ノ井(しののい)さんと西条にしじょうさんでいいかな?」

「はい、私が篠ノ井一帆で、こっちが西条百々代です」

「よろしくおねがいしますっ!」

「今鍵を開けるね。いやぁ乗合馬車が行ったあとにお客さんが来ることなんてないからさ、驚いたよ」

 ガチャリと鍵と扉が開かれ、職員が笑顔で迎え入れる。


「それじゃあ、これが立ち入り許可証。ここは資源迷宮だから許可証を無くしちゃうと出入りに手続きが必要なるから気をつけてね」

 人社会に於いて有用とされる資源が得られる迷宮は、資源迷宮と呼ばれるわけで。

「ここは翠鹵草の迷宮なんですよねっ?」

「そうそう、勉強してきたんだね」

「はいっ!麓で食べた揚げ鶏にも使われてて、非常に美味しかったです」

「もしかして、ころも亭?美味しいよね、ここの食事にも使われてるんだよ。…よし、大嵐さんは…何処にいるかわからないから、宿舎で荷物を下ろしてから管理署にいくといい」

「承知しました」「はーいっ」


―――


 管理署に向かっている最中、噴水の様な構造物である迷宮門を見つけ視線を向けていれば、二人組の男女が現れ目が合う。いや…出てきた男の方は糸目であり、目が合ったか定かではない。

「あっもしかして君たちが学舎からの活動者かな?」

 女性の方、活発そうな方が手を振りながら寄ってきてはバツの悪そうな表情を見せる。

「いやぁごめんね、置いてっちゃって!片栗街の荒原迷宮が活性化したって連絡が来て、ついついね」

「もしかして大嵐巡回官ですか?」

「自己紹介をしてないぞ。僕は宗秋むねあき、こっちのそそっかしいのが妻であり小狸藻こたぬきも男爵の大嵐蘭子(らんこ)です。片栗街は僕の実家があってさ、氾濫なんかが起きちゃったら困るから先に行かせてもらったんだ」

 糸目な男はのんびりと歩きながら自身と妻の紹介を行う。


「よろしくね!…ところで、宗秋って妹いたっけ?」

「失礼だろ、眼が細いからって。ごめんね、こういう奴なんだ」

「よろしくお願いします。私が篠ノ井一帆で」

「西条百々代ですっ!」

「よろしく。確か…西条百々代さんが第一座で篠ノ井一帆くんが第二座だっけ?将来有望な子たちを預かっちゃったなぁ」

「とりあえず夕餉でも交えながら現状の話をしようよ。お腹へっちゃって」

「三日も潜っていたしな」

 四人は移動することにした。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ