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九話⑥

 積もり積もった他愛無い話をし笑い合っていれば、結衣ゆいらと火凛かりん大吉だいきちらが姿を見せた。


「探しましたわ西条百々代!」

「どうも火凛様、試験お疲れさまでしたっ!」

「ふん、ご苦労さまですわ。今回、今回は貴女に負けましたが、学舎は残り二年あります!これから追い抜いてあげるから、首を洗って待ってなさい!」

「はい、挑戦お待ちしてますねっ!」

 強者の余裕とでも言うべきか、一帆との時間を摂取して満足気な彼女にはどこ吹く風か、相手にされてないような態度に顔を顰める。


「俺はここまで、だな。努力は続けるつもりだが、なんというかスッキリと燃え尽きてしまったよ」

 肩を竦めて照れ笑いを見せた大吉。ここ半年の猛鍛練等で貴族の子息たちと触れ合う機会も増え、今までの刺々しさは何処かへと消え去り好青年然と成長していた。

「ではまた炎が燻ったら是非競い合いましょう、大吉様」

「ああ」


「そういえばあの砕かれた迷宮遺物はどうなった?」

「残念ながら。安物とはいえ衝撃緩和の効果を持つ盾を蹴りの一つで砕かれるとは思わなんだ、重化と硬化を付与する迷宮遺物も拵えてたのだが意味がなかったし…意味がわからん」

「そういう代物だったんですね。…壊しちゃって、ごめんなさい」

「いいさ、さっきも言ったが安物だ。それに西条百々代と戦うまでは十分に役立ってくれたからな」

 そうですか、と告げれば火凛派閥と市井出身派閥は各々纏まって学舎へと戻っていく。


「百々代ちゃん、おめでとー!」「かっこよかったよ」「おめでとうさん、当たらなかった事をこれ以上ない幸運と思ったよ…」

「ありがとうございますっ!」

 杏たちからお祝いの言葉を受け取りつつ、姉たる結衣へと視線を動かす。


「お疲れさまでした結衣姉!」

「はい、お疲れさまでした。ようやくこれで貴女との鍛錬の日々を終えられるわぁぁ」

 行儀が悪い、衣服が汚れる等ということは気にせずに、結衣は東屋の机に突っ伏して深い深い溜め息を吐き出す。眼を見張るだけの成長には途轍もない苦労が見えるわけで。


「結衣ちゃんもお疲れ、一緒に美味しいお菓子でも食べよっか」

「良いわね、図らずも身体が引き締まったから自棄食いするくらい余裕があるわよ」

「何をしたらあそこまで実力を底上げできるんだ?」

「できるようになるまでやってもらっただけですよ」

「「…。」」

 絶句。

「…良く頑張ったな結衣」

「…ええ、本当に頑張ったわ。本当に」

 思い出せば口から魂が出かねないと、記憶の奥底に蔵い込み年末休暇へと向けて予定を話し始める。


「ところで疑問だったのだが、煙幕の最中に的確な射撃を行ってきたが、あれはどういう仕掛けなんだ?」

「見えてたのよ、体温が。百々代の持ってきた魔法莢の影響でね」

「識温視って魔法ですっ、一応半季前に莢研の報紙にも名前と仕組みを載せてもらったりの、最新魔法なんですよ。視覚で捉え難い対象への対策として、港防省や一部の迷宮で採用するらしくて、使用料が入ってくるみたいです」

「なるほどな、“視覚で捉え難い対象”か」

(外つ国人の使っていた透明化の魔法を考えれば有用性は確か、願ったり叶ったりだろうな港防も)

 実際の順序は逆なのだが、そんな事を知るだけの材料は足りないうえ、知らなくていいことも多くある。莢研の報紙に名が載っている眼の前の少女に感心頻りに、久々に集まった仲間たちと楽しい時間を過ごす。


―――


 今年も試験日程が全て終わり順位が公開される中。張り出された掲示板を見て硬直する少女が一人、茶臼山火凛だ。

 今試験の一位は西条百々代、二位は篠ノ井一帆、三位に彼女。そう順位で敗北したのである。

 筆記の点数は満点であり、つまりは実技の模擬戦闘でこの結果を迎えたことになったのだ。当然と言えば当然だのだが、百々代相手にあれだけ頑張ったのだから満点だろうと自己採点をしていた。


「おや、百々代に順位が負けた時、何かをする筈だったが…さて、なんだったか?」

 ニヤニヤと悪い笑みを浮かべた一帆が声を掛け、振り返れば試験一位の姿がそこにはある。ハクハクと鯉のように口を開閉させては、顔を顰め拳を握る。


「西条百々代!あ、貴女の事を、お、お友達として認めてあげますわ!」

「え、ありがとうございますっ!」

「貴女もしかして…忘れていたのでなくって?!」

「そんなこと全然ないですよっ」

 目が泳いでいる、かは不明だが冷や汗を流している所をみれば忘れていたのだろう。

「まあいいです、これからもよろしくお願いしますわ」

「はい!よろしくお願いしますっ!」

 こうして賑やかしい二年目は終わりを告げる。


―――


「ただいまーっ!」

 元気一杯に安茂里工房の扉を開け放ち帰宅を知らせれば、見知った面々が「おかえり」と挨拶を返す。家名こそ西条に変わり養子として迎え入れられたものの、実家と縁を切らなくていいという当初の口約はしっかりと果たされており、百々代は気兼ねなく工房へと帰る。


「今井の小父様もどうぞ。父さーん、ちょっと話したいことあるんだけど、今井の小父様も交えて」

「失礼しますね」

「どうもどうも、応接室に向かいましょうか」

「はーい」

 三人は移動し応接室へ。


「それで話ってなんだい?」

「実はわたしが陣を組んで作った魔法莢が有って、それが港防省で採用されることになったんだよね」

「うん?」

「実はわた」

「いや、内容は聞こえていた。え?」

「魔法省の魔法莢研究局に資料を送ったところ、どうやら有用性が認められ港防省の一部局で採用される運びになったようなのですよ」

「はぁ、そういうこともあるんですね」

「それで、生産をする工房をこっちで決める権利を貰えてね、今井の小父様と相談して安茂里工房うちでも生産できそうならって。どう?」

 机に並べられたのは組み上げられた魔法陣。雑貨屋で組んだ時の簡易品でなく、結衣使用した精緻に計算され書き直された完成形。どうせならしっかりした方を、と送りつけた結果は報紙に名が乗る程である。


「安茂里工房も軌道に乗り規模を拡大するいい機会かと僕も思っていましてね、港防との取引であれば食いっぱぐれることはないでしょう。最初こそ忙しくなりますが、消耗するような品ではありませんので嵐を漕ぎ抜ければ安定しますよ」

「…なるほど。十夜とうやと相談しても宜しいでしょうか?」

「構いませんよ」

京子けいこ、十夜を呼んできてくれるか?」

 はいよー、と声が響き千璃は一息つく。


「然し…魔法莢弄りでここまでとは驚いたぞ百々代~!」

 デレッデレ顔になった彼は百々代を褒めちぎり喜ぶ。娘が成功しているのだ、親として嬉しいに決まっている。

「えへへ、学舎でも成績一番なんだよっ!」

いわしから勇魚くじらが生じるとはこのことだなぁ」

 沁沁と頷いていれば十夜が姿を見せて、斯々然々と説明が行われた。


「へぇえ、いいじゃんやろう。今井様が言うとおり工房を大きくしてこうぜ」

「そうか!よし、それじゃあ今井様、こちらの仕事を請け負いたいと思いますので仲介の方、お願いします」

「お任せください、それでは失礼しますね。話しを早く進めたいので」

「ありがとうございます!」「どーもー」「ありがとうございますっ!」

 達吾朗たつごろうを見送り、安茂里工房は慌ただしくなっていく。

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