九話⑤
「すまん、後は任せた」
「ちかちかしますわ…」
「良くやったさ」
退場する二人を見送り、一帆は霙弓に成形武装で刃を展開し銃剣とし。
(合流しなかったのは、大吉が足止め出来ていると思わせて意識を逸らすため。…どこまでも厄介な。やるしかない、か。やってみせろ篠ノ井一帆)
「来い、月の涙杖。起動。戯へ」
左手に持った佩氷と月の涙杖を手放せば宙に浮き、一帆の意思通りに振られていく。
「起動。成形武装。雷鎖鋸剣。…すぅ、はぁ…」
閃光と騒音の剣で左手を隠すように前傾姿勢で構えて深呼吸をする、
(三人には悪いが)(雑音が消えたっ)
喧しい騒音と共に百々代が跳ね飛べば対応するため、佩氷を宙で振るい攻性障壁を地面に空中に射線上に、数多展開しては銃剣の狙いを百々代へ向け引き金を引く。空中にいれば避けれない、などという常識は通用しない相手、足場など無くとも零距離擲槍の勢いで方向転換を行っては地上を走り、擲槍射撃にて反撃を行う。
細く極限まで引き絞り細くされた擲槍を五つ、別々の軌道線を描いて一帆を狙うも、角度を調整し受け流すように張られた障壁に阻まれ凍結し砕かれて、百々代は両の瞳を開き笑みを見せる。
(張り巡らされた凍結の攻性障壁。近付けば狙いの的。あはっ)
「要塞だッ」
迫りくる凍抓の弾丸を鋸剣で受け止めれば、回転する雷鎖が轟音を吐き散らしながら砕き喰らう。鎖の一つ一つが属性を付与された成形武装、強度は射撃魔法のそれを大きく上回り貫通させまいと回り続ける為に効果はない。
くるり、涙杖が回転すれば氷針乱炸の半球が浮かび上がり、佩氷が左右に振れて百々代の退路を塞ぐよう障壁が展開される。
(前には抜けられるよッ)
(抜けようとするだろうが、もう遅いッ)
(発射までの展開時間が短縮されている、形状を小さくすることで早く撃てるように変化されてるんだ。浮かせた杖でそんなこともできるなんて驚きだ)
周囲の障壁を砕くでもなく、限界まで下がって距離を置き氷の針が迫りくるその瞬間を待ち、…鋸剣を振るう。時間差で着弾し纏鎧を効果的に砕けるように陣を彫り込んだのは紛れもなく百々代自身。身をもってその効果を味わっては、擲槍移動の勢いを以て囲いから飛び出していく。
(効いていない?…いや、再生しているのか纏鎧が)
(貰っててよかったよ、魔物化した赫角犀の肋)
試しに、と制作した赫角犀の肋骨を用いた纏鎧は再生力を持っており、動像の鎧飾を混ぜ込み強度を増幅させた品、彼女自身への反動を有する零距離擲槍を効果的に扱える物が完成していた。多少の損害であれば時間経過で元に戻る、この纏鎧を砕かれた方の負けという戦闘に於いて反則級の品をだ。
迷宮遺物だろうと自作魔法莢だろうと、生徒そのものへの安全がある程度確保される調整さえ出来ているのであれば許可の下りる何でもあり、異を唱える者はいないだろう。
(ならば一撃で砕くまでッ!)
(やってみなよッ!)
迫りくる魔法射撃と障壁を掻い潜り、粉砕し、駆け回りながら擲槍を撃ち出しては集中を切らせる戦闘が続く。
観覧者らは唖然。宙に浮かべた二本の迷宮遺物と手に持った物を含めた全てを同時に扱う一帆の姿。意味不明な魔法を用いて地を駆け宙を跳びながら、弾幕を去なし反撃も行っている百々代の姿の双方に。はっきり言って学舎二年生の域を優に超えた戦闘をしているのだから当然だ。
聞けば百々代は西条家に養子として迎えられているが、元は庶民で貴族の血など一滴も入ってないというのだから。とんでもないものが入っているのだが、それを知るものは少ないが故の驚き。嫁にもらえる篠ノ井家と養子に迎えられた西条家は良い拾い物をしたと羨んでいく。
(……。)(……。)
「この時間が終わっちゃうのは勿体ないねっ」
「ああ、…全くだ。俺と百々代だけの時間と会場、ここまで冷静に燃えられるのは後にも先にももう無いと確信できる」
互いに疲労と損傷が蓄積し、ぶつかりあえば終わってしまう寂しさを覚えながら、好敵手に勝ちたいをいう欲求を握りしめ動き出す。
「百万雷ッ!!」
口頭起動、ではなくあくまで必殺技を叫んだだけ。振りかざした鋸剣を手放して投擲すれば、雷の力が強まっていき眩い閃光と共に数多の雷を撒き散らす癇癪を起こし、一帯を破壊し尽くす。
無作為に引き起こされる雷の嵐を潜り抜けて迫りくるのは百々代なわけで、光に顔を顰めつつも狙いを定めて凍抓を撃ち出す。
「ッ」
右手に命中したそれは外側を覆う纏鎧をズタズタに引き裂いては、涙杖の効果で右腕に展開された纏鎧を凍結させていく。
(これで殴りによる攻撃を封じたが、脚はまだ残っている、見定めて――)
左腕は引いて拳を構えて零距離擲槍の構え。左足を踏み込んだ事を確認した一帆は右側面を中心に障壁を展開する。
「悪いね、飛手甲ッ!」
「それか。擲槍かと思っ――」
引いていた左腕で一帆を殴りつけての口頭起動、零距離飛手甲。躱せるはずもなく防御も間に合わず両者は爆発と共に吹き飛んでいく。
―――
砂埃が会場を覆い、ざわめく観覧者。飛手甲の爆発を最後に両者に動きはなく静まり返っているのみで、監督をする教師すら困惑顔だ。
風が吹き砂埃が払われれば、腕部の纏鎧こそ破損しているものの他を維持したまま立っている一人の少女。そして地面に横たわり清々しい表情で晴天を見つめる、纏鎧が砕かれた少年。
(あーあ、届かなかったな。まあいいか…楽しかったし)
「勝者、西条結衣及び西条百々代!」
「うおおおぉおおおお!!」
歓声を全身に受けた百々代は、観覧者に大きく手を振って笑顔を振りまいては一帆の許へと駆け寄っていく。
「一帆様、大丈夫ですかっ」
「…あの爆破を至近距離で行うのなら威力は調整してほしかったよ」
「すみません、こういう使い方をする予定はなくって。よいしょ、それじゃあ医務室まで運びますねっ!」
「…?待て、この恰好でか?おい!」
お姫様抱っこをされた一帆は文句を言い頻りだが、戦闘の反動で暴れることすら出来なく、恥ずかしい姿を学舎に晒しながら百々代に運ばれていく。
「え、えっと…皆様、御高覧ありがとうございました―――」
いなくなった勝者の代わりに、姉である結衣が周囲への挨拶をする。
―――
「つまりあの成形武装は発条の心臓機を触媒にした機巧を内蔵した剣と、痺貝の一〇〇年殻を触媒とした雷の属性を付与した鎖の二種類を起動と同時に組み合わせて作られていると」
「はい、そうなります。ただ…まだまだ未完成と言いますか、雷鎖鋸剣は失敗作でして手元から離れると崩壊を始めてやったらめったらに雷を放つ様になってしまうんです。元々雷の炸裂を目的に制作していたのですが、成形魔法に属性を付与することが上手くいかなくて」
「成形魔法の属性化ですか、そういえば成果が少し前に上がっていましたね」
「報紙で拝見しまして自分なりに考えて作ってみたのですが、とんでもないじゃじゃ馬に仕上がってしまい苦心するばかりなんですっ。導銀を幾つも無駄にしてしまいましたし」
医務室で魔法省魔法莢研究局員と大盛りあがりなのは百々代なわけで、「元気だなコイツ」と一部からは呆れられている。
「天糸瓜港にお越しの際には是非とも莢研にお寄りください」
「はいっ!」
百々代は特別魔法莢研究局員という立ち位置なため、必要以上の勧誘を受けることはないが是非是非と声が掛かるのは事実。仕方ないかと一帆は様子を眺めていた。
「治療も終わったし戻るか」
「はいっ!あっ、ちょっとだけ寄り道しませんか?東屋あたりに」
「別に構わないが、何かあるのか?」
「四季間も別行動してたんで、二人でお喋りしたいなって」
にへっ、と口元を綻ばせ百々代は軽い足取り一帆を導いていく。飼い主が帰ってきた大型犬のように。
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