九話④
百々代が前衛で暴れまわり、結衣が隙を突き相手の纏鎧を砕き勝利を重ね四勝無敗。向かい合うのは同じく四勝無敗の一帆たち。
杏たちは初戦で敗北し最終結果は四勝一敗。観覧席から応援にやって来ている。
「なんか…、こうなるんだとは思っていたけれど…大注目ね」
「二年の集大成を示して三年生になりましょうっ!」
「この半年の集大成よ、わたくしからしたら…。まあ、勝つわよ」
「はいっ!全身全霊でぶつかりましょう!」
おー、と和やかに拳を衝き上げる二人に対して三人は言葉一つない真剣な表情で装備を整える。
「気を抜くな、以上だ」
「はい」「了解した」
百々代のおまけと思われていた結衣はここ半年で完璧な連携をし、模擬戦闘の仕上げを務めるまでの実力を得て、数々の生徒を擲槍射撃からの爆破で仕留めてきた。
その姿を幾度と見せられているからこそ、百々代への警戒度が爆発上がりしている。基本的には場を荒らして隙を作るだけの調整手に徹している姿が異様に映ったのだ。
一帆は知っている、二年に上がってから彼女のはったりを用いた厄介な戦法を。自在に擲槍を操る中距離、高速機動と高い耐久を活かした至近距離、演習場という広くない空間に於いては全域が間合いということを。
(あの光の剣は確実に見せつけるだけのはったり。奥の手は隠されているだろうな)
両者が所定の場所に着き、真剣な表情で向かい合えば教師が口を開く。
「模擬戦闘開始!」
開幕と同時に結衣が接触起動で鏃石を乱雑に放ち、三人を守るように空間を開けて多重障壁が展開される。二次条件起動による爆破は戦闘を終了させるだけの魔法だ、爆風を防ぐため空間をも防御に用いるのだ。
然し接触した鏃石は破裂を起こすも威力は皆無で、煙を生み出すばかり。
(視界を奪うか。百々代よく使う戦法だが、来たな)
三人の居場所へ飛んでくるのは細く貫通性を増した擲槍。百々代による攻撃だと一目でわかり、一帆たちは足を動かし移動してく。向こうも視界を遮られているのは同じだと。
「起動。識温視」
(丸見えよ。こちらの居場所は覚えているはずだから、完全な直線上は避けて)
温度を視認化する肉体強化の魔法莢を起動した結衣は、擲槍の軌道線を描いてなるべく四角となるように一本一本打ち込んでいく。同時に複数本の擲槍の射線軌道を変えるまでには至っていないため、一本一本になるのだが。
「篠ノ井、左だ!」
「こっちの居場所を?ぐっ」
「きゃあ!」
障壁を張りつつ移動をし場所を移すも、的確に位置を狙う擲槍による爆破が三人を襲う。
「直上から来ますわ!」
「仕方ない。火凛、煙を吹きとばせ、全力でだ。大吉は飛び込んでくるであろう百々代への警戒を」
「わ、かりましたわ!」
「応!」
幾重にも重ねられた性質の異なる障壁を展開し擲槍爆破を防ぎ、火凛の短い銃形状をした迷宮遺物、文鰩魚落しにて一帯の煙を払うべく爆破の応酬を行う。
「見えた。行くよ」
煙が晴れるとともに三人の視界に入るのは成形獣、大きな角を持つ四足獣で犀と呼ばれる生き物。
「ひっ!」「っ!」
(してやられたかッ)
「来い、霙弓」
心の傷を抉る成形獣を用いた百々代を睨めつけ、金環食に蔵われた迷宮遺物を取り出す。手元に現れたのは長さ三尺半の銃、迫りくる犀へと狙いを定めて引き金を引けば、魔法の凍抓が弾丸となり射出され命中した。
表皮を貫いた弾丸は条件起動のように本来の凍抓を起動させ、無数の鉤爪にて成形獣を内側から破壊する。
(アレが新しい迷宮遺物。装填型っていうやつかな?人体に対する制御機構は設けてある筈だけど)
当たったら拙いね、と百々代は分析をした。
「西条百々代!やっていいことと悪いことがあるでしょうが!」
ごもっとも。鶏冠に来た火凛が叫ぶも気にした風もなく移動し距離を詰め、大吉と肉薄する。
「容赦がないなッ!」
こちらは実剣と実盾。大吉を一帆や火凛の射線に挟み込む様に立ち回り、一歩踏み込む、ふりをして後ろに跳ね退く。
剣を空振った彼の側面には擲槍が命中し爆発、眼の前の厄介な敵に気を取られすぎていた事に臍を噛む。
ギリギリで踏みとどまった大吉を見て、一帆と火凛の視線は結衣へと移される。どちらか確実に潰せる方を潰さなければ、この戦闘に勝機はない、と。
「こっちは任せろ!向こうには行かせないからな!」
「…。」
(爆破の直撃を受けて問題ないだけの装甲。盾で防いだ風もないし、何かしら仕込みがあるっぽいね)
百々代は大吉と至近距離戦闘を繰り広げながら、視界の一隅で奥の様子を伺い続ける。
「あっははっ!わたくし一人に第二第三座のお二人とはッ、豪華なものね!」
肉体強化を起動させ駆け出した結衣は、走りながら鏃石で煙幕を張りつつ擲槍で爆撃を行う。
対人戦闘の師であることは想像に難くない百々代と比べると足は遅く、攻撃の密度も低いが定期的に展開される煙幕と、煙幕越しにも着弾させてくる擲槍と爆発は厄介の一言。
「来い、佩氷。足を止める、乱射でいいから潰せ」
「任せてくださいまし」
「…あっ。まあこうなるわよね、十分に役割は果たせたかしら」
凍った足元を見て迫りくる炎と爆発を察した結衣は、百々代へと手を振り後は任せたと笑顔を見せれば、爆発とともに纏鎧が砕かれ敗北となり退場していく。
「向こうは蹴りが」
ついたようだぞ、と言い切る前に、零距離擲槍で加速した回し蹴りが盾を粉微塵に砕き、大吉ごと吹き飛ばす。こちらは蹴りが入った。
青年大の弾丸が一帆に命中し、縺れるように転がっていく。
「すまない、篠ノ井」
「構わん、早く立て直せ。火凛が浮く」
「そう、いうことかッ!」
二人の視界には文鰩魚落しから乱射される炎と爆発を掠りもせず回避し距離を詰める第一座の姿。
「起動。成形武装。」
「くっ!」
「件の光の剣であれば対処が不可能」と諦めかけた火凛の目に映ったのは目の細かい鎖の一本。それが何かは理解していないが、まだ希望があると後ろに跳ぼうと試みるも、既に足は払われ身体には鎖が巻かれていた。
「悪いね、調整はしてあるから」
「へっ?」
事前に謝りをいれた百々代は鎖を掴み、火凛をぶん回して人間砲弾第二号として二人の許へと投げ届ける。
「なんなのぉぉおお?!」
次いで展開されるのは擲槍。勿論身動きが取れない彼女へと矛先は向いており、絶体絶命の状態だ。
「火凛ッ!」
「来ちゃ駄目ですわ、きっと!」
身体が自然と動き、剣を盾にするよう構え擲槍を受けようとするが、三人は異変に気がつく。鎖が発するバチッバチッ、という音と光。
「成形武装、導雷鎖。」
名前を教えるため百々代は呟くも、雷轟に掻き消され聞き取れる者はいない。
辛うじて障壁を張れた一帆は纏鎧を守れたものの、爆心地たる火凛と前後から攻撃を受けた大吉は纏鎧を粉微塵に砕かれ敗北となった。
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