九話③
百々代と別行動が始まり、迎える年末試験。今回の実技は対人模擬戦闘試験のみ。魔法莢と迷宮遺物の持ち込み有りの実力戦となる。
三人組が三四組、二人組が一組、使用可能な演習場を全て使い行われるのだが、見慣れない大人がちらほらと足を運び模擬戦闘の様子を眺めていた。彼らは港防省や魔法省の者で、優秀そうな人材に目星を付けていくために足を運んでいる。
「あっ!秀人さんっ!久しぶり〜」
「よお、元気そうだな」
「港防の軍人さんとして来てる感じ?」
「そんなところだ。軍務から誘う気はないが、どんだけ一年で学んだか、その成果楽しみにしてるぜ」
「えへへ、魔法莢も新調したし、しっかりみっちり鍛えたから楽しみにしててよ。それじゃあね!」
「おう、気をつけてな」
(そこそこ人のいる中でよくもまあ見つけてきたもんだ)
「さっき話してた方はお知り合い?」
「よしみ先生の甥で秀人さん、港防勤める軍人さんだそうです。昨年末に知り合いまして」
「そうなの、港防からもお声がかかっているのね」
「はいっ、前にお断りして以来、勧誘はないので物見序でに足を運んでくれたんでしょうね」
「人気者は大変ね。さて、それじゃあ初戦がんばるわよ!わたくしの、…大変な鍛錬の成果を見せてあげないと」
ふんす、と息を立てて結衣は模擬戦闘の相手へ視線を向ける。
この試験は戦勝数が同じく組がくじを引き対戦相手を決めていき、全五戦行って成績をつけられる。故に初戦は全三五組の中から無作為に選ばれるため、あまり関わりのない生徒となっていた。
相手からすれば入学時実技首位、現第一座とそのおまけ。三対一に近い状況であれば勝ちを拾えるのではないかと意気揚々と鼓舞しあっている状況だ。
「わたしたちもああいうのやりましょう、結衣姉!頑張るぞ、おー!って」
「仕方ないわね、それじゃあっ頑張るわよ!!」
「おーっ!」
少しばかり照れながら拳を衝き上げる結衣に、元気一杯で小さく跳ねながら拳を衝き上げる百々代。観覧者たちは両組の微笑ましい光景を見つめながら見定める。
「援護、お任せしますね」
「好きに暴れなさい」
「起動!強化、一触二重纏鎧」
「起動。纏鎧」
一般的な全身を覆う魔力の層を纏鎧とし防御を固めた結衣と比較し、百々代の姿は奇抜一言。全身を覆っている事には変わりないのだが、手足に対してもう一層、鱗状に構成された魔力を鎧として纏っているのだから。
硬質な、形状化させた纏鎧というのは珍しいとは言い難い。然しながら態々二重に作り出すだけの意味がないと、一部の観覧者たちは首を傾げていく。
(形状が変わっているな。魔法莢を新調したか)
一帆たちも姿を現して情報収集に努める。
「戦闘開始!」
監督の教師が掛け声をあげれば、零距離擲槍にて百々代が駆け出す。
学舎の二年生あれば有名な技。対策は行われているようで三人は一処に集まり、亀のように障壁を張り、識別結界で覆っては守りを固め、小さな隙間から魔法射撃にて反撃を行う。
誘導性を付与された魔法射撃を右腕で振り払いながら、無数の擲槍を隙間にねじ込ませて中の生徒たちを狙うも、流石に斜線が絞られていれば対策は容易い。小さく強度を高めた障壁で防がれてしまう。
「なるほど。」
(ここで障壁に対する札を見せておけば、刺さりも良くなりそうだし)
ちらりと視界の端に捉えた三人の確かめ、百々代は口を開く。
「起動。成形武装。雷鎖鋸剣」
ギィィン、バチバチバチ、とけたたましい騒音を鳴らしながら光と振動を撒き散らす剣のような何かが、百々代の右手に握られている。
「なん、だ」「あれは」
血の気の引いた三人は急ぎ多重に障壁を張り出すのだが、口端を持ち上げた彼女はお構いなしに振りかざす。
回転する鎖が電撃を撒き散らしながら接触し。障壁は無惨にも、そして軽々と木っ端微塵に穴をぶち空けられ、その隙間を狙った結衣の擲槍が三人に衝突、二次条件を満たし爆発を引き起こしては纏鎧を砕き模擬戦闘を終わらせた。
「なあ篠ノ井、あの光る剣?…剣のような何かはなんなんだ?」
「いや、わからん」
今は解除され見ることの出来ない成形武装に演習場の一同は驚きを隠さない。派手さは言うまでもなく、三人で展開した多重障壁を意ともせず斬り砕く威力には言葉の一つも浮かばない。百々代が自作の魔法莢を使うことは広く知れ渡りつつある事実だが、ここまでとは誰も思っていなかったのだ。
視線の全てを自身に向けるよう、手を振りながら結衣と共に会場から移動していく。
「使ってよかったの?あの奇抜な成形武装」
「はいっ、以降の模擬戦闘では障壁による足止めをし難くなると思いますので、戦いやすくなればと。えへへ、結衣姉の擲槍射撃、綺麗で精密で素晴らしい一撃でしたよ、練習の成果が活きましたね!」
「ありがとう、本番であの隙間を通せたのならこれからも戦えそうね。…百々代に視線は集中してしまったけれど」
「わたしに視線が向いている方が仕留め易くなりますので、次からもお願いしますね、援護をっ!」
「任せなさい!」
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