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九話②

 散秋季さんしゅうき末の試験が終わり、同位点三人をいつもの如く眺める頃。次の試験、年末試験についての補足が行われることとなった。


「一部の人は知っていと思うけども、三年から成績優秀者が学舎外活動に赴くことが多くなり、四年ともなるとまとまって授業を受ける頻度も減ってくる。つまり、大体の勉強は二年までが主だ。そんなわけで年末試験では実技の集団戦試験を行う。形式は三対三、組む相手は自由に決めてくれ」

 雲雀ひばりの言葉に一部の生徒は、「そんなこと聞いたことあるな」と頷き、派閥事で顔を見合わせて三人組を作り上げていく。


「わたくしたちはどうしましょうか?一帆かずほさんと百々代(ももよ)は分けたほうが良いわよね」

「そうですねっ!一帆様と戦いたいです!」

「となると、」

「篠ノ井一帆!」

 甲高い、気になれつつある声に振り向けば火凛かりん派閥と市井出身派閥。


「今忙しいんだ、後にしてくれ」

「ま、待ってくださいっ!重要な話ですわ!対人実技試験、私たちと組みませんか?私とこの庶民と貴方で、西条百々代を倒しましょう」

「お前たちと?こっちで組んだほうが勝算があると思うのだがな」

「そうかしら?庶民も最近は実力をつけてきて、散秋季末の試験では一四位、そして私は篠ノ井一帆と西条百々代とならぶ同位なのです。トントンに分散させてしまうそちらよりも優秀な顔ぶれでなくって?」

「貴族と組むのはしゃくだが、…対西条百々代戦線を張らないか?」

(百々代に手札が割れていない、という利点はあるか。…まあ偶にはいいか、気分転換と考えて)

 百々代が西條家への養子及び一帆との婚約が発表され、彼の心には大きな余裕があった。故に面白い組み合わせも悪くないと考える。


「はぁ、いいだろう。足を引っ張るようなら容赦なく蹴飛ばすぞ」

「へぇ、意外ね。となるとこちらは五人になってしまうわね。どうしたものかしら」

「二年生って入学時の一〇四人から変わっていませんよね?」

「そうだねー」

(三で割ると二人余るし、)

「じゃあ結衣ゆい姉と二人で挑戦したいです」

「は?」

「結衣姉と二人で挑戦したいですっ!一〇四は三で割ると二余るんで」

「そうだけども、あん駿佑しゅんすけさんの方が良いんじゃない?二人で戦うのなら」

「一帆様無しでここを二手に分けるのなら、前衛を張れて中距離を密な連携が取れる杏さん、駿佑さん、莉子さんの三人が一番良い組み合わせなんです」

「あ、余り物ってことね…」

「違いますよっ。結衣姉は迷宮実技等で回復を主としている為、緻密な魔力操作に長けているので前衛を張るわたしの援護をしてほしくて!」

「緻密な魔力操作?」

「成形獣の授業を受けてから、結衣姉の魔法射撃の精度や誘導性魔法の粘度が上がっているんです。これは細かなことを得意としている証左なんだとわたしは思ってまして、年末までの期間で伸ばせば十分一帆様たちと戦えるだけになりますよ」

「へ、へぇ、ちょっと頑張って見ようかしら」

 熱量に絆されて結衣は満更でもない表情を見せる。


「人数不利だろうと容赦はしないぞ?」

「戦力不足の相手でも容赦しませんよ?」

「「ッ!」」

 火凛と大吉は戦力不足と言われた気がし百々代を睨めつけるも、今この場で二対一を挑んでも勝てるとは思えない以上、彼女の言葉に偽りがなく切歯した。

「というわけで一帆様、これから年末試験までは別行動をしましょう!手の内を知られ、知っては楽しみが減ってしまいますっ!」

「え?」

「えへへ、結衣姉っ、作戦会議です!行きましょう!」

「ちょっと、まだ四季(半年)もあるのよーっ!?」

 西条姉妹は二人何処かへと消えていく。


「おい」

「えええ、えーっと、申し訳ございません」

「すまない、二人を邪魔したいという意図があったわけではないんだ」

 この日を境に一帆様の眉間に皺が寄った。


―――


「というわけで結衣姉には魔法の形状変化を全力で学んでもらいます」

 演習場まで連れてこられた結衣は、頭を疑問符で埋め尽くして首を傾げる。

「作戦会議、と言ってた気がするのだけど?」

「よく考えたら四季間も先なんで、基礎を鍛えてもらおうかと。こちらは水の魔法莢なんですが、こんな風に自由自在な形状変化をできるようになってください」

 手元で水を浮かべ、自由自在に、それこそ文字を形作る程の形状変化を見せて結衣も真似をする。が、形状変化はおろか、浮かべることすらかなわない状況に改めて首を傾げた。

「…これ、水生成の魔法莢よね。安茂里工房って書かれているから、市井向けの」

「はい、そうですよ?」

「そういう目的の魔法莢じゃないわよね?!」

「否定はしませんが、出来るんで!」

「百々代くらいよ!」

「よしみ先生もできてましたし、形状変化は覚えてて腐らないんでやってみませんか?」

「仕方ないわね…」

 この時の結衣は知らない。これからの四季間で百々代の一〇年を叩き込まれるとは。


―――


「「…。」」

 不機嫌極まりない暴君を前に火凛と大吉は縮みあがる。

「もう一度いうが足を引っ張るようなら蹴飛ばすからな。先ずは百々代についての情報を共有しよう。知っての通り擲槍を攻撃にも移動にも使用する変わり者だが、ある程度の実戦にも耐えうる実力者でもある」

「昨年に思い知らされましたわ…」

「あの時に使っていた擲槍てきそうは学舎の貸出品だろ。今使用しているのは港防の一世代前の軍用品で、記憶が正しければ軌道線を曲げる以外にも滞空させ時間差で発射してたりもしていたな」

「厄介な。細く形状変化をさせて障壁を貫いたり、あんたを強く意識した戦術も見られたが」

「こと魔法の於いては俺より俺のことを知ってる、というより百々代は目が良いのだ。実技の授業で他人の使っている魔法なんかにも意識を向けている筈」

「おなじ演習場で学んでいる私たちも」

「大なり小なり知識は溜め込んでいるだろうな、見れていない部分もあるだろうが。これから四季間、お前たちには俺の足元程度の実力になるまで鍛えてもらうからな」

「あ、ああ」「はい」

「先ずは…迷宮遺物でも用意するか。どれくらいまで金子きんすを使える?」


―――


 渋い扉を押して埃っぽい店内を歩いて進む百々代は、暇そうにふんぞり返って何かしらを読んでいる店番の許による。

「あー、いらっしゃい、言われたもんは全部揃ってるぞ。動像どうぞう鎧飾がいしょく痺貝しびれがいの一〇〇年殻、発条はつじょう心臓機しんぞうき、高価な迷宮資源を養子に買い与えるとは…西条家ってのは凄いのな」

「わたしも驚いちゃったよっ、まだ気が引けてるんだけど贈り物だと受け取ろうかなって」

 机に並べられるのはお目にかかるのですら難しい希少な迷宮資源の数々。散秋季末の試験にて総ての教科を満点で修めている彼女に対して嘉人がご褒美と欲しい物を尋ねた結果、今に至る。

 とはいえ西条家は商会を持っているわけでもなく、揃うには何時になるのかと考えていた時、試しに雑貨屋に足を運んだところ店長が仕入れてきたのだ。


「贈り物といえば…匿名からだが赫角犀あかつのさい肋骨あばらぼねがここ経由で届いているぞ。どうにも曰く付きらしいが、知り物か?」

「うーん、学舎を襲撃した魔獣かな。詳しくは知らないんだよね、どうなったかとか」

「へぇ」

 金子は前払いで渡してあるので、今回は品物を受け取るのみ。紙袋に詰める店番を横目に商品を眺めていれば、ギィと音を立てる扉。


「あらあら百々代じゃなーい。久しぶりですね」

「店長久しぶりっ!」

 太っちょのオッサンが可愛らしい仕草で扉を閉めて、ほのほのと微笑みながら自身の背を越している百々代を見上げていた。

「貴女の彫ってくれた魔法莢便利でしたよ、温度を見る魔法。かくれんぼをして遊ぶときに役立ちました」

「かくれんぼですか、お子さんととか?」

「うふふ、そんなところですよ。そうそう、あの魔法莢ね、知り合いにいる莢研の人が興味を持ってたから、百々代の名前で預けておきましたので、今度連絡が来るかもしれません」

「そうなんだ、りょーかいっ。…あの魔法莢って触媒何使ってたの?」

鐘々蘭(しょうじょうらん)の根だったはずですよ。えっとー、この辺に…」

「あー、…ここだよ。俺に任せっきりだからすぐわかんなくなる」

「あら、たすかりました。ふふっしっかりと店番をしているのですね」

「…はぁ。値段は四〇〇賈だ」

「鐘々蘭かぁ。眼を重点に肉体強化に類する魔法だし、触媒は…柔水晶じゅうすいしょうって置いてる?」

「あー…有ったっけなぁ?ちと待ってろ」

「私も手伝いますよ」


 奥に入っていきガサゴソと漁る二人を待っていれば、埃塗れで帰ってくるその手に青色の水晶が握られていた。

「青色柔水晶でもいいか?安物になっちまうが」

「うん、大丈夫!」

 金子を渡して購入しては紙袋へと放り込む。

「然し…百々代はここの上客ですね、初めて合った時は変わった女の子くらいにしか思っていませんでしたが、うふふ。これからも贔屓にしてください」

「うんっ!また来るねー!」

「はーい、毎度ありがとうございます」

「あー、まいどあり」

 パタパタと店を去る百々代を見送って、店長は腰を下ろし一息つく。


「元気で何よりです」

「あー…まあなんだ、ああいうお気楽な顔を見ると落ち着く。んで今日はなんの用?」

「百々代の様子を見に来ただけですよ。赫角犀の肋骨はどうでした?」

「よくわかんねえって。大丈夫だろ、今までも情報は漏れてないし気を使ってるみたいだ、…あーアイツ自身なんか隠し事あんだろ」

「みたいですね。件の話を口にしない限り私たちは雑貨屋とお客さんの関係でいられますから、口が硬いことを願うばかりです」

 店番の淹れた茶を飲み、店長は立ち上がっては何処かへと去っていく。


―――


「届いたぞ、迷宮遺物」

 小間使いに運ばせていた木箱を並べさせ一帆は、火凛と大吉へ視線を向ける。

「冬季休暇中に手に入れられるなんて、本当に優先権があるのですね。驚きましたわ」

「ああ、驚いた…」

「迷管からそれなりに贔屓にされているからな」

「ふぅん、…これが砲杖。杖にはみえませんが、区分は杖でいいのですね」

 金属と木材の組み合わせで作られた筒状の杖。銃や砲と呼ばれるそれを手にとって、火凛は規定の大きさをした魔法莢を装填する。

「使用する時には引き金を引け、接触起動だと思えば理解も出来るだろう。形状等の変化を行えなくなる変わりに、装填された魔法を強化して撃ち出す迷宮遺物、文鰩魚とびうお落し。丁級品だが模擬戦闘であれば十分だろう」

 的に狙いを定めて引き金を引けば、小指の先程の大きさの炎が飛び出し、的に命中すると共に爆発を起こす。威力は十分、そういえるだけの光景だ。


「問題はないな。まあ最大の問題はお前たちの実力なのだが」

「おほほほ、休暇の期間中にしっかりと実技の勉強をしてきましたわ!」

「ある程度は鍛錬を積んだつもりだが、同じかそれ以上の積み重ねを西条百々代しているのだろうな」

「間違いなくな。俺が鍛えてやるから、しっかりとしがみついてこい」

「任せてくださいませ。優秀な成績を修めてますから余裕ですわ」

「ああ、わかった。…西条百々代への対策は練らなくて良いのか?」

「そんなの後でもいい。というか後ろに西条家が付いている以上、今までの魔法莢のままとは考えられない。無駄になる可能性もあるのだから、お前たちの地力を上げておくべきだ」

「それも、そうだな」

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