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九話①

 休舎となって数日。結衣ゆいは寮の自室にて、治癒魔法の教本に目を通していた。

 彼女に責任などないのだが、上手くやれていれば、実力があれば百々代(ももよ)に傷が残ることもなかっただろうと思わずにはいられないのだ。この思いを伝えた所で「気にしないでください」と微笑まれる事は百も承知なので、心の秘めて学を修める事にした次第だ。


(回復関連の魔法莢まほうきょうって高いのよねぇ、今使ってるのもそれなりのお値段の筈だし。お父様にお願いしても大丈夫かしら)

 回復に必要な魔法莢、その触媒部は希少な迷宮資源を必要とするが故に高価となってしまう。手元にある魔法莢ですら、値段を百々代に伝えれば目を瞬かせるであろう。

(魔法部医務局、進むには今のままじゃ厳しいわよね…。実技云々よりも先ず筆記が問題よ、あそこは学舎でも上澄みでなくては入れないようだし。医院に勤めるって選択肢もあるけれど、どうせなら上を目指して出来ることを増やしたいわ)

「でも勉強って得意じゃないのよねー」

 集中力のない結衣は教本を机の端に追いやり、ぐっと伸びをしていれば侍女が扉を叩く音が聞こえ入室を促す。


「旦那様からのお手紙です」

「ありがと、お茶とお菓子を用意して」

「…お菓子は先程もお食べになられましたよね?お茶だけで我慢してください」

「…。わかったわ」


 渋々と頷き手紙の封を開ければ、「結衣ちゃん元気?お父様も家の皆も元気だよ。休舎中は帰ってこない感じ?そうそう例の安茂里あもり百々代ちゃん、うちの娘として篠ノ井(しののい)家に嫁ぐことになったから。妹としてよろしくね!あっ、公言は暫く待ってて。世界一イケてるお父様より、愛を込めて」(要約)とのこと。

(あら、一帆さん上手くやったようね。というかわたくしたちの中で一番に婚約が決まったの、あの二人なのね…)

 筆と便箋びんせんを手に取り、返しの手紙を認める。返事が無いと同じ内容の手紙が送られてくるからだ。


「お茶をお持ちしました。お手紙は直ぐに書き終わりますか?」

「ええ、そんな長い内容にならないわ。この後、百々代の見舞いにいくわ、準備をしておいて」

「畏まりました」

(どんな感じに婚約を申し込んだのか聞かなくっちゃ!ふふふ、莉子りこあんも呼…べないわね、公言はまだできないし)

 茶を飲み手紙を書き終えた結衣は、ウキウキと百々代の部屋へと足を進める。


―――


「あら西条結衣ではありませんか。貴女も安茂里百々代のお見舞いに来たのかしら?」

 百々代の部屋へとやってきた結衣が見たのは、部屋の主と火凛かりん派閥の一同、市井出身派閥の女子生徒が仲良く茶をしている場面。彼女らを助けたこと知ってはいたが、ここまで懐かれ、…親しくなっていたとは聞かされておらず驚きを隠せないでいた。


「随分と仲良くなられたのですね火凛様と皆様」

「仲良く?いいえ、そんな事はありませんわ、一時的に休戦をしつつお茶をしているだけですのよ」

 「え、そうなの?」と火凛以外は疑問を浮かべているが、本人がそういうのならそうなのだろう。


「結衣さんもどうぞ。いつもは広いお部屋だと思っていたのですが、こうして色んな人が来てくれると狭くなってしまいますねっ」

(これじゃあ詳しいことを聞けないじゃない。まあいいわ、気分転換にゆっくりしていこうかしら)

朝陽あさひさん、少しお願いがあるのだけれど。平田莉子と田沢杏に声を掛けてきてるかしら?」

「承知しました」

「一緒じゃなかったんですね」

「百々代に個人的な話があったのだけど、これじゃあね?」

「あぁ、そうですね。また今度にしましょうか」

(西条家の養子になるんだし、結衣さんの事は結衣姉…は流石に馴れ馴れしすぎるし結衣姉さんって呼んだほうがういいのかな。えへへ、兄三人だから新鮮だっ)

(締まりの無い顔ね、一帆さんに婚約を申し込まれて恋心でも芽生えたのかしら。…気になるわ、さっさと帰ってくれないかしら、この人たち)


「西条結衣は金木犀港に屋敷があるのに、寮に残っていますのね」

「ええ。百々代の容態が気になった、というのもありますが、少しばかり勉学に勤しみたいと思いましたので」

「自主的に残ってお勉強をなさるなんて感心しますわ。貴女たちも見習いなさいな」

「「え、あっはい」」

 流れ弾を食らった取り巻きたちは厳しい顔を見せている。

「というか貴女と平田莉子は入学から成績を上げているようだけど、なにか秘訣はありますの?この子たちに教えてあげて欲しいのです」

「「うぐっ!」」

(この二人もわたくしと同類の匂いがするわね…)

「授業後の時間に六人で集まって勉強会をしていますわ、…毎日毎日。継続すれば身に付く、という厳しい先生が二人もいましてね…」

 覚えられるまで、理解できるようになるまで反復を繰り返せば身に付く。上位座の二人(百々代と杏)が懇切丁寧に理解できるまで教えてくれるため、否が応でも成績は上向いていた。せめてもの救いは残りの二人(一帆と駿佑)が覚え方のコツ等をさり気なく伝えてくれることだろう。


「なるほ――」

「いやぁ参考になりました、西条様!!」「参考にさせてもらいますね!!」

 これ以上、勉強を積まれては困ると火凛の言葉を遮り自分たちで道を模索するかのような態度で話題を終わらせていく。

(がんばってくださいお二人共…)


―――


 休舎期間が終わる手前。医官から問題ないと太鼓判をされた百々代(ももよ)は、身体を動かしがてらあんと模擬戦闘をしている真っ只中である。

 とはいえ、内容はじゃれ合いの様な内容でありヒリつくような戦闘ではない。

 盾を片手に成形武装の剣を構えて、百々代の繰り出す徒手空拳を防ぎながら反撃を試みる。


「…っ!っと、ふーちょっと休憩!…百々代ちゃんの蹴り重いねー、肉体強化って何使ってるの?」

「迷宮管理局の方から貰った品なんで、傍陽二改そえひのふたつあらただと思います。実剣を用いるために重く調整されてるって話ですよ」

「非売品の調整版かぁ、ちょっと借りてもいい?試してみたくって」

「いいですよっ、起動句は「起動。強化」で出来ます」

「わーい、ありがと百々代ちゃん!」

 帯革から魔法莢まほうきょうを取り外し渡せば、手早く取り付けて起動句を口にする。


「これ、基礎的な筋力がないと、しんどいね…。解除」

「発条みたいな感覚なんで、押し込めるだけの力があればかなりの爆発力があるんです。良くも悪くも実戦用ですね」

「はい、ありがと。自分に合った肉体強化って探すの難しくて困っちゃう」

「杏さんは肉体強化の必要な路を進むんですか?」

「港防の警務局に行こうかなって、田沢うちは港防の家系だし。肉体強化を使う役職に就くかはわからないけど、理解があるにこしたことはないでしょ」

「港防は港防で支給の魔法莢があるんじゃないんですか?」

「うーんとね、支給品にもいくつかの種類があるし、申請すれば多少の自由は効く感じ」

「なるほど、それで色々と探してるんですね。…うーん、手頃なやつに身体を慣らせば良いのでは?」

「やっぱそうなるよねー、そっちの方向でいいかな」

 合うものがないのなら自分の方から適用すればいい、簡単な話だ。

「それじゃあもう一回!」

「はいっ!」


―――


 西条家の馬車に乗り、結衣と百々代が向かう先は西条の屋敷。形式上の養子を行う為の顔合わせだ。

「緊張しなくても大丈夫よ。百々代なら直ぐに受け入れてもらえるわ」

「はいっ!頑張ります!」

 使用人に世話を焼かれ、身体を綺麗に磨かれ真新しい衣装に着替えた百々代は西条家の一同が待つ広間へと踏み込む。


「本日はお招きいただきありがとうございます。安茂里工房の安茂里百々代です」

「良く来たね。さあ席に着いてくれ」

「はいっ」

 結衣他には両親と兄、弟と妹が興味津々といった視線を向けている。並んでいなくとも血の繋がりを確かに感じる一同だ。

「先ずは自己紹介といこうか。私が西条家の長をしている、西条嘉人(よしひと)。妻のかなえ――」

 長子の修宏のぶひろ、三子の健人けんと、四子の愛美あみ。と紹介がされて、薄っすらと持ち上げられた目蓋から覗く青い瞳で記憶していく。


「今までの活躍、成績、素行、様々加味した上で、伝えておくことがある」

「はい」

「西条の名を名乗り好きに動くといい。西条家の名を借りるのであれば、こうしなければならない、こんな事をしたら迷惑になる、そんな事は気にせず、一帆かずほくんと共に自由に歩きなさい。必要であれば手綱でも付けるつもりでいたが、君のような駿馬しゅんめに必要ないであろう。ただし!家族となるのだから定期的に顔を見せに来るように!困り事があったら相談にくるように!いいかね!!」

「はいっ!!」

「よろしい。では歓談と食事を楽しもう」

 並べられる食事に舌鼓を打っていると、末っ子の愛美が百々代顔を覗き込む。


「百々代お姉様はお目が悪いのですか?」

「目は良いですよ。他人と変わった目をしているので隠しているのです、興味ありますか?」

「はい」

 今までの記憶で気持ち悪がる者はいなかった両の瞳を晒し微笑みを見せれば、愛美は小さく声を上げてじっくりと見つけている。

「おー。右と左で違うのですね、驚きました。わたしはカッコイイと思うのですけど、どうやったらそうなるのですか?」

「生まれつきですね」

「そうですか残念です」

 変わっている事に憧れるおませさんなのだろう。異色虹彩を羨ましそうに見つめては、嘉人顔を向けて首を横に振られている。


「百々代ちゃんが大きいとは聞いていたけれど、本当に大きいのねぇ。お服が間に合ってよかったわ」

「用意していただきありがとうございますっ」

「そんなにかしこまらなくていいわ。二人目のお母さんとして甘えてくれていいのよ。そうそう、学舎の制服も用意させているから、少しの間待っててね」

「助かりますっ」

「ねえ結衣ちゃん。百々代ちゃんにはどんな衣装が似合うかしらね?」

「やはり高い背丈とスラッと引き締まった体型を活かし、落ち着いてて流麗な衣装なんて良いと思うわ!」

「やっぱそうなわわよね。なら――」

 あれやこれやと賑やかな食事会に、徐々に馴染んでいき素直に家族とは言えないながらも良好な関係を築いていく。

 寮への帰り際、嘉人に呼び止められ張り出しで二人会話をすることとなり。


「君の詳しいことは慧悟様から聞いている。“過去”のこと“瞳”のことを知り、君の今までの行動を聞き、私は家族として迎え入れ、西条の名を貸そうと考えた。信じる路を進み給え」

「はいっ!」

「安茂里のご両親にもよろしく伝えておいてくれ、どこかで食事をしようとも。ああ、それと秋桜街での行動には感謝している、街のため民のため立ち上がってくれてありがとう。そうそう、結衣の――」

 言いたいことが後からどんどん湧き上がってくるようで、遅いと呼びに来た結衣に嘉人は叱られたのだった。


―――


「ねえ百々代、ちょっと聞きたいのだけど…一帆さんはどんな風に貴女へ婚約を申し出たの?差し障りのない程度に教えて頂戴」

「責任を取りたいと。わたしなんかで良いのか尋ねたら、共に歩むのはお前が良いと言ってくださったので、よろしくおねがいしますってお伝えしました」

「あらあら。あらあらあら。どう、言われたときの感想は、きゅんきゅんしたとか心の内が熱くなったとか!」

「心が熱く燃え上がり、その晩は寝付くのに苦労しましたっ。ここまで言ってもらえるとは、なんて誇らしいのかと」

「…?誇らしい?」

「はいっ!まだまだ未熟な身ですが、共に歩みたいと認められた事、わたしは誇らしく思います。これからは一帆様に幻滅されないよう日々努力を怠らず、魔物だろうが魔獣だろうが外つ…突撃粉砕出来るよう研鑽を積みます!」

(愛美の方が恋愛に詳しそうね…。まあいいわ、何れ恋心でも芽生えるでしょう)


「公表は少し先との事でしたが、結衣さんの事はなんと呼べば良いのでしょうか。結衣お姉様?」

「なんかむず痒いわ…。百々代にはお兄様が居るのよね?なんと呼んでるの」

「十兄、正兄、穣兄です」

「ふぅん、それじゃあ呼び方を変えたいのなら結衣姉でいいんじゃない。というか変えたいの?」

「兄三人なんでお姉ちゃんって憧れてるんですっ!」

「好きにしていいわよ。大きな妹ね、ホント」


―――


 島政省とうせいしょう詳報局しょうほうきょく金木犀所きんもくせいしょから正式に発表された金木犀魔法学舎襲撃事件の主犯は、さそりの巣という犯罪者集団に濡れ衣を着せる内容となっていた。

 一部の当事者からすれば偽装とわかる内容なのだが、領主等の政務官達による決定事項だ。あれこれ異を唱える者はいない。

 報紙を折りたたみ片付けて席を立ち、百々代(ももよ)は学舎へと向かう。

 寮を歩いていると自然と視線は彼女へと向けられる、何故かといえば。


「あら、案外に似合っているわね。おはよう」

「おはようございますっ!」

「わー、男装の百々代ちゃんだー!キリッとした顔してみて」

「…。どうでしょうっ」

「いいねー!」

「かっこいいとおもうよ」

「口を開いた途端に鍍金めっきが剥がれるわね…」


 制服が駄目になった百々代は、学舎から貸し出された身体に合う男子生徒用の制服を身に着けている。女子生徒用だと少しばかり丈が足りなく、仕方なくという形でだが。

 スラッとした体型に高い身長と男装するとそれなりに合うのだが、話し始めるとただの百々代となるので、不思議な感情を結衣は露わにしていた。


「百々代おは、…よう。存外に似合っているな」

「両手に花の麗人さんの登場だ」

「お二人共おはようございますっ!」

「ああ、安心した」

「うん、安心するね、これ」

 朗らかな、安堵するように二人は百々代たちと合流し、やや久々の授業へと足を運ぶ。


―――


「一帆様っ、氷針乱炸ひょうしんらんさくの使い勝手は如何でした?」

「そういえば預かったままだったな。あれは完全に涙杖を使うことを前提に調整してただろ、障壁を効果的に削れる良い魔法だと感じたな。手数で効果範囲を広げつつ、意図的に発射をズラし一度の起動で凍結後の箇所へ追撃を仕掛けるとは、…良く考えたな」

「えへへ、港防で使われている釘槍炸射って魔法を模倣し、涙杖との併用を考えて組み立てたんですっ。いきなりの実戦でしたが、上手くいって良かったです」

「港防の魔法か。よくそんなの知ってたな」

「年末休暇の時に港防の軍人さんからお誘いがありまして、その際に手合わせをしていただき学びましたっ!」

「…。なんというかまあ、うん…何も言わんよ。でだ、これ氷針乱炸を買いたいのだが、幾らになる?」

「材料費が一〇〇〇()なので同値でいいですよっ!」

「手間賃がなくなっているではないか、…二五〇〇支払おう。安売りは身を滅ぼすからしないように」

「はいっ!細かな調整は任せてくださいね」

 金子きんすを持ち歩いていないので、後日に約束をし一帆は魔法莢を買い取ることになった。


「というか俺の為に作って良かったのか?」

「属性付与の陣を試したかったのが主なんで問題ありませんよ。工房で取り扱ってる日常魔法にも属性は付与されていますが、事故を防ぐために多くの制限が張られていますから、学ぶための魔法莢と魔法陣でした」

「今後も、将来的にも自作していくつもりか?」

「そうしようかなー、とは思ってます。魔法莢弄りは楽しいんで」

「なら世話になるかもしれないな、お抱えの職人として」

「ご期待に添えられるよう頑張りますねっ」

 百々代の手元を覗き、組み立てられつつある魔法陣目にしたところで一帆にわかる部分などなく首を傾げるばかり。


―――


(なんか変わった風は…ないわね。てっきり一帆さんは百々代に懸想けそうするくらいしてるのではないかと期待してたのに)

「結衣ちゃん最近難しい顔してるけど、…悩み事?」

 おずおずと言葉をかけてくるのは莉子。一帆と百々代の関係が一切変わってない事を疑問に、うんうん悩んでいた所を見られていたのだろう。


「あの二人、早くくっついてくれないかなぁって思ってただけよ。いつも近くにいるのになんの変化もないじゃない?」

「…?休舎開けから結構変わってるよ」

「え?!どこが!?」

「距離感と、一帆様からも百々代ちゃんの方に寄ってってるところとか。前よりも優し気な雰囲気だったり」

「なんというかわかりやすいよね、一帆。百々代ちゃんの危機に自身の感情がって感じだったり」

 微笑ましく見つめる莉子と、ニヤニヤと笑みを浮かべる駿佑には、違いがわかっているようで結衣は目を凝らしてから首を傾げる。

(わたくしの目って節穴なの?!)

「まあただ…指が触れ合ったりしても、当然の如く気にかけていないのは二人らしいけどね」

 微笑み合う隣の二人を見て。

(いつの間にっ?!)

 と驚く結衣であった。


―――


 魔法省迷宮(めいきゅう)管理局かんりきょく天糸瓜所。賢多朗けんたろうが局長室に足を踏み入れれば、美髯びぜんの老人が待っていたと言わんばかりに眉を上げ、仕事の手を止める。


「届きましたよ、金木犀領と諜問局からの調書が」

「魔法学舎襲撃の、か」

「ええ、そうです。目的は破壊工作を用いて国民感情を刺激し、プレギエラとの開戦を望んでいたみたいですね。正直、これに関してはこちらに関係ないのでどうでもいいのですが」

「どうでもいいわけなかろうが、戦争となれば魔法省から港防省へ戦力を貸し出さねばならん。現状、関係ないのはたしかだがな。それで魔獣の魔物化に関しては?」

「どうにも魔物化した魔獣はプレギエラから持ち込まれたものらしく、こちらの迷宮に関与して得たものでは無いとのこと」

「ふむ、であれば昨今の迷宮の大時化と連動しているように思える魔獣の魔物化は関係ないと」

「はい。プレギエラ“は”関係ありません」

「続け給え」

「どうやら大陸ではこの現象は、稀に群発する現象のようで、百港語に翻訳すると「迷宮の活性化」などと呼称されているようです。原因と経路は不明ですが、こちらに伝播、感染したのでしょうね」

「なるほど、なるほどな。…ふぅむ、彼奴らがある程度片付いた今日明日に何かが変わることもなしと」

「ええ、面倒ですが」

「とりあえずは…天糸瓜大魔宮への警戒を強化するとしようか」

「そうですね。あれが活性化した日には、…困ったことになりそうです」

「困ったで済むかいな」

 手元の資料を燃した賢多朗は、局長の机に置かれていた菓子を食み一息つく。


「魔物化の魔法に関しましては何もありませんでしたよ。未だ解析中か、公開の予定はないのか」

「いつもの事だろう」

「ですね」


「件の娘は無事なのか、重症を負ったという話ではないか」

「私が目を掛けている、ということで優先的に治療が行われて事なきを得たようですよ。重症者も多くなかったようですし」

「それは良かった。…然し鬼人を一方的に狩ったのは兎も角、赫角犀あかつのさいを窒息死させるとはどういう芸当なんだ?…えーっと、主力は擲槍、補助に擲槍…?ふむ、そして自作の爆破魔法…、無理だろう?」

「諜問官が紛れ込んで彼奴らを始末していたが、アレらが使う魔法は」

裂門れつもんじゃあ無理だろうに、最も向いてない。名前こそ伏せられていたが、先日に先行して一部公開された熱観測の魔法莢にも一枚噛んでいるようだ、何かしら持っているのだろう」

「くくっ、いやあ楽しみですね」

 菓子を追加で食んでは賢多朗は部屋を後にした。

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