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八話⑤

 凍った男を砕き止めを刺そう、と拳を握った瞬間。視界の端から一帆かずほへと向かって飛来する魔法を捉え、百々代(ももよ)零距離擲槍ブースターで吹き飛び彼を庇う形で押し倒し、その身で受ける。纏鎧を砕き脇腹を引き裂いた魔法は彼へ到達すること無く、護ることには成功した。


「ぐッ!」

「なっ?!百々代っ!!」

 男の脇に透明化を解除し現れたのは、異国感のある女。先の魔法を放った張本人だ。

(この状況はまずい、押し倒された影響で杖の二本も手を離れて、身動きも)


『はぁ、面倒なのから追われて合流してみれば…無様ね、マッシミリアーノ』

『…。うる、さい、ですね。…そこの女は百港で魔物を操る魔法と、透明化した私を感知出来るのです。生きたまま回収してください』

『無理よ、貴方を捨て置いても良いなら回収するけれど、お荷物は一つまで』

『…タイスマリーがそういうのであれば仕方ありませんね、撤退しましょう』

 外套の女、タイスマリーはマッシミリアーノを回収すると、一帆と百々代を一瞥して姿を消す。


(見逃された?なら)

「ッ!百々代、百々代ッ!生きているか?!」

 姿を消したことを確認した一帆は百々代の下から這い出て、状況を確かめる。青褪めた苦しそうな表情をしてるものの、意識は健在で傷口を上向きに手で覆っている。

「話せないほどの痛みなのか!?」

「…こういう時って、無理をするな、黙ってろ…って、いわれる場面かと…思いまして」

「縁起でもない事をいうな。傷口を塞いで、医務室へと連れて行かねば」

「あぐっ!!」

 制服を脱ぎ傷口を塞ぐ為に縛り上げれば、百々代が悲鳴を上げた。どうやら彼女は殴られた際に肋骨を折っていたらしく、縛られた圧により激痛が走ったのだ。


「これでは連れて行くにも一苦労ではないか…。多少の激痛は我慢しろ、こんな所で死ぬことは許さないからな!」

「…はいっ」

 肩を貸し立ち上がらせては、負担をかけないよう最大限注意をはらいながら医務室を目指す。

(戦闘中は気が付かなかったが、学舎のあちこちで騒ぎが起きているのか…。茶臼山と下島が教師を呼びに行って、誰も駆けつけてない理由はこれか。あいつらが俺に声をかけたこと、感謝しなくてはな)

(視界が…、まず、い)

「…かずほ、様」

 朦朧としていた百々代が意識を失い崩れ、支えになっていた一帆も巻き込まれて転倒する。


「ぐっ…、百々代、起きろ!クソッ」

 抱きかかえようにも彼女の背格好は、彼よりも少しばかり高く身体そのものにも丈夫な筋肉が有り、そこそこの体重。持ち上げるのが精一杯で歩くことなど出来ようはずもなく、このまま置き去りにして駆け出し医務室へと走るか、助けを待つかの選択肢を迫られる。

 医務室に行こうと呼んで来れる状況とは限らず、貴族と市井出身では扱いに多少の差が出る。ここで待っていれば目についた者へと声をかけ力を借りれるかもしれないが、何も出来ずに終わってしまう可能性も孕む。


「百々代…」

「安茂里百々代!篠ノ井一帆!」

 学舎方面からぞろぞろと姿を現したのは、一帆、火凛、市井派閥の面々。


「百々代っ?!一帆さん状況は?」

「結衣!今すぐに治癒をしろ!腹に穴を開けられて、肋骨が折れてる!」

「わかったわ、応急処置にしかならないけれど、止血くらいはできるはずよ!」

「篠ノ井一帆、敵はどうなった?」

「俺達で退けることが出来た、が、このざまだ。周囲警戒を頼む」

「了解した」

 大吉を始めに市井出身の生徒は震える手を握り込み、周囲へと視線を張り巡らせていく。


「教師は呼べなかったか」

「ええ、どこもかしこ大騒ぎで。お二人が戻って来る気配がありませんので、貴方方のお仲間へ声をかけて加勢に来ましたの」

「…そうか。状況を把握してる者は?」

「「「…。」」」

 一同は首を横に振り口を噤むばかり。


「とりあえずの応急処置は終わったわ。これ以上の処置はわたくしには無理、早く医務室に連れて行かないと」

「駿佑、力を貸してくれ」

「了解、失礼するよ百々代ちゃん」

 二人で向き合って、百々代を挟み込む様に持ち上げて駆け足で医務室へと一同は向かう。


―――


『然し、ふふっ、マッシミリアーノが魔物化まで切って、ここまで追い込まれるとは随分と厄介な相手みたいね』

『煩い、ですね…。プレギエラの迷宮で仕入れた魔物は操作を断ち切られたうえで潰され、透明化は看破され、魔物化した私自身すら操られかけたのです。厄介極まりない存在でしたよ、アレは』

 担がれたマッシミリアーノは忌々し気に百々代を思い出す。金の瞳は魔物を操る力ではなく、恐怖を基にした幻覚、幻聴、幻触等々を生物だろうと無機物だろうと付与し自壊を誘う異能なのだが、使われた対象が魔物と魔物化した彼であった為に勘違いをしている状況のようだ。

 ちなみに赫角犀の死因は窒息死。何かしら、到底太刀打ち出来ない存在に睨まれて、呼吸すら出来なくなった。


『もう再生が終わりました、自分で移動できますので下ろしてください。…タイスマリー、貴女まで撤退、合流するとは何があったのですか?』

『こっちも似たようなものよ。どうにもね、透明化の魔導具は看破されているらしく、二人持ってかれたわ』

『…若い芽を摘みつつ我が国への敵愾心を煽り、戦の取っ掛かりを作るって命令でしたが、…割に合いませんね』

『全くよね』

『そういえば戦った相手はどんなのでしたか?今後に備えておきたいのですが』

『前髪で目を隠した男と太っちょのオッサンの二人よ』

『こんなカンじのナ』

『ッ!』『グアァッ!』

 透明化の外套を脱ぎ捨て、不可視の刃にてマッシミリアーノの両足を切り落としたのは前髪で目元を隠した雑貨屋の店員。


『いやア、イイモノをもらったヨ。マイドマイド、バカなたいりくじんはしらなイぎじゅつをハコんでくル。あー…ありがとウ』

 再生能力が有ろうとも両足を失った状態から元に戻すには時間が掛かりすぎる。タイスマリーはマッシミリアーノに見切りをつけ、煙幕を張り視界を潰してから透明化の外套を用いて逃げ去った。

『あー、にげられタ。テメエはニガさないからナ。ジョウホウの…ショウゴうにいるんダ』

『―――ッ!!!』

 口を無理やり開かれ布を押し込んでは、両腕も切り落とし四肢の切断面を魔法で焼く。


「あー、通じてんのかねプレギエラ語。大陸の言葉は似通ってるから、細部を変えれば良いらしいが」

「あら、そちらも終わったみたいですね」

「そりゃまあ、相手さんの便利な外套が有ったんで、一瞬」

 物陰からタイスマリーの首と首以外を引きずって現れたのは小太りのオッサンこと、雑貨屋の店長。


「ちゃーんと生かしていますか?」

「あー、大丈夫。ほら、手足切り落としても再生しようとしてるし。死人からの情報を精査できるくらいには生きられるだろ、これでも」

「やだやだ、しっかりと諜問官らしくなってきちゃって」

 血腥い現場には似合わないような微笑みを浮かべて、店長は一息つく。


「それにしても便利な物ですね、人の体温を視覚で検知できる魔法は」

「「人を探したい、目に見えない対象を」って要望を添えて仕様書を渡したら、こんな物が出来上がるんだから驚きだわ。…あー、無事だといいんだけど」

「そこらの貴族よりは優先的に治療をしてもらえると思いますよ、後ろには名だたる貴族が付いていますからね。それでは合流しつつ戻りましょうか、姿を見られては今後の仕事に支障も出ましょう」

「了解」

 四肢を切り落とされたマッシミリアーノと死体となったタイスマリーを担ぎ、雑貨屋の二人は学舎を後にする。

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