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七話④

 成形獣の授業を何回か受けていくと、貸し出される魔法莢の種類も大きくなっていき、鼠だらけの授業風景は毛色を変えていた。

 犬や猫、狼や人型の石像などを駆使する事ができるようになる生徒も現れて、中々に賑やかな風景だ。


「今回は貴方方がどれだけ動かせるかの試験とします。成績に直結するものではありませんが、散秋季試験には同様かそれ以上の内容が実技として課せられますので、事前練習と思い挑んでください」

 演習場に作られた障害物を置かれた通り道を、如何に迷わずそして障害物へ触れずに乾燥できるかを見られる試験だ。

 一応のこと成形獣の大きさごとで大まかな区分があるも、小さい方が有利と先輩から聞いている生徒も多く、先程までとは異なり小ざっぱりしている。


「わたくしの実力、篤と見てなさい!」

 ふんすと鼻息を鳴らして自信満々に行うのは結衣ゆい。成形獣に適正があったのか器用に偵猫ていびょうを操り、落ち度もなく完走しては試験を見るためにやって来た雲雀ひばりに褒められている。

 順調に生徒たちが試験を終えていき、一帆かずほ派閥の最後となったのは百々代(ももよ)。成形獣の授業では難しい表情をしていることの多い彼女だが、今回は自信に満ちた表情で指定の場所へ立つ。


「起動。成形獣、綱蛇こうだ

 姿を現したこは長さ六尺(180センチ)、太さは一寸強(4センチ)の枯れ草色をした大きめの蛇で、チロチロと舌を出している。ヒィっと何処かから悲鳴が聞こえる姿だ。

 授業内外色々と試した結果、人気がなく操り難いと忌避される綱蛇と相性が良いと感じ取り、練習を積んで今日に至る。前世は龍だが足が一〇〇本も生えていた化け物、蛇と通じ合える部分はない。

 横への波状運動を用いてシュルシュルとそれなりの速さで進行をしていく。飛び越える必要のある段差は鱗を立ててよじ登り、細く狭い道も何のその。一切の問題なく完走した。


「安茂里百々代、完走。お疲れさん。成形獣は苦手だと聞いていた、綱蛇を選ぶとは中々の挑戦者だね。本来の試験では内容が難しくなるから復習を忘れないように」

「はいっ!」

 雲雀から問題ないと告げられ、嬉嬉と相好を崩す百々代は親友たちへの元へ戻っていく。


「上手く行って良かったな。協力した甲斐がある」

「皆さんありがとうございましたっ!」

 授業後の時間を活用し、日々様々な成形獣を試した百々代は一帆らの操る綱蛇を仔細まで観察し、その移動方法の理解に従事した。

 出来るようになるまでやる、その成果だ。

 ちなみにも彼女練習に毎日付き合っていた五人は、移動先の指定での移動ではなく思い通りに成形獣を動かせるまでの実力になっている。

 評価内容はさておき生徒が皆完走し授業は終わりとなった。

 入学前後は水準の低いと言われていた現二年生は、なんだかんだ実力をつけてきて例年平均といって差し支えない程に収まっている。一部を除いて。


―――


「じゃじゃーん!」

 いつも屯している一室に、賑やかしく入室したのは杏。手には木製の箱を持ちニコニコと机に置く。

「なんなんだその箱は?」

「開けてからのお楽しみ!じゃあ開けるよー!」

 唐突に始まった開封式に、一同は首を傾げて中身を見ていれば、丁寧に緩衝材で囲われた銀色の人形。見たことのない精巧さから流れ物であることは確実で。


「なっ?!ジークンシルバー!」

 カッと目を見開いた百々代は、周囲の驚きなどお構いなしに人形を凝視している。そう、これは彼女が人に化けて英雄劇ヒーローショーを楽しんでいた時期の代物。


「わぁすごいっ!変身具のクロオビベルトもしっかりと作られてるし、わたしが生きてた時よりずっと後作られたやつかなっ」

(こいつ…失態に気付いてないぞ…)

 転生者であることを知っている人物は多くない。この場に於いては一帆のみ。

「百々代。」

「はいっ!なんですか?…あっ」

 驚きの表情をした四人を見て百々代の顔色はすっと青褪める。

「えーっと…あのー…。かずほさまぁ…」

「いいだろう、ここにいる全員なら。百々代の秘密を明かしても。父上には共有者が増えたと俺から伝えていく」

「わかりました…。その、わたし実は前世の記憶がありまして、国番五一は知っている国なんです。国名は忘れましたが」

 どうにも信じられないような話の連続に一同は驚きつつも、一帆と百々代がこんなくだらない嘘をつくとは思えないため納得していく。


「百々代の好きだったひーろーを模した人形が出てきて興奮してしまったと」

「はい…。」

「前世の記憶を持って生まれることなんてあるんだね、驚いたよ―」

「二回目の人生だなんて」

「不思議なこともあるものだ」

 気持ち悪がられる風はなく、百々代は安堵の吐息を吐き出す。


「もしかしてだけど、五一の文字が読めたりするの?」

「読めますっ!この前の流れ物には魚の名前が書かれていましたし、このジークンシルバーの背中、ここに書かれているのは製造番号だとおもいます」

「「…。」」

「大発見じゃない?解読できるんでしょ」

「読み進めることは出来ますが、前世の記憶を素に読み解きました!と言われても信用できませんよ?」

「あー」

 いわれてみれば、と一様に納得する。前世の記憶なんて事自体が信用できるかイマイチなものなのだからしょうがない。


「前世があって二度目の生涯を生きているわたしですが、…お友達でいてくれますか?」

「全然良いよ、百々代ちゃんのこと好きだし」「これからもよろしくね」「何の問題があるんだい?」

「前世の記憶があろうと百々代は百々代、それに変化もないじゃない。真面目で頑張りやで魔法莢馬鹿で危険だろうと飛び込んでいって、今まで通り大切なお友達よ。そこで物知り顔な一帆さんだって、知った上で仲が良いのでしょう?わたくしたちも同じよ」

「えへへ、ありがとうございます。皆の事、好きでしたが大好きになりましたっ」

 胸に秘める隠し事がなくなった百々代は、満面の笑みで歓談に耽る。

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