七話②
二年生ともなると授業も様々増えてくる、その一つが成形魔法学及び実技。成形武装と成形獣の授業である。
「もう既に成形武装の魔法莢を使用している方はいますが、多くの人は触れたことすらないと思いますので基礎からお話しましょう」
成形魔法というのは、魔法莢を介して魔力に形状を持たせて駆使する魔法の分類だ。
纏鎧や氷矢のような魔法も魔力を形に落とし込んでいると言えるのだが、これらと成形武装を比べると自由度が低く固定の形状を持つ代わりに、精巧で強固な物を同じ形状で再現し続けられ、実剣等の手荷物も減らすことができる。
秀人ように剣身を延ばすのも別途魔法莢が必要となったり、訓練用の刃を潰した剣にも専用の物が必要と、魔法として小回りが効き難いという欠点はあるが、それを加味した上でも長い間人気を誇っている魔法である。
次いで成形獣、こちらも同じ形状を再現し続けられる利点、意のままに操り視界の取得まで可能であり、便利な魔法の一介だ。少しばかり慣れは必要になるが。
「というわけで今回は成形武装の剣を皆さんに実践してもらいます。魔法莢は事前に渡してある物を使用してください」
生徒は返事をしてから起動句を口にする。
「起動。成形武装、剣っ!」
意気揚々と叫んだ百々代の掌上に現れた剣を落とさないように掴み、格好良く構えては一帆らに振り返る。
「えへへ、できましたっ!格好良いですよね、何処からともなく現れる武器って」
「成形武器ってそういうものでしょうに…。起動、成形武装、剣」
百々代の感覚に共感することのない結衣を皮切りに一同も剣の成形に成功する。成形武装の魔法今莢は誰でも使用できることを前提に作られているため、順繰りと見回しても失敗している者は見られない。
「成形武装を用いた授業も今後追加されます。試験にこそ関係はありませんが、進路によっては多用する可能性もあるので真剣に受けるように。成形獣の授業は戦闘術の後になりますので、成形魔法の感覚を馴染ませておくと良い結果を残せるでしょう」
―――
それから数度の授業を経て様々な成形武装を生徒たちは試していく。
「百々代は斧槍を使用するのか」
「広い有効範囲と先端に重心があって威力があるので。狭い所に行くときは剣の方が良いですけど」
長さ八尺の長物を片手に軽々と振るっている。高い身長と合わせて非常に圧のある姿。対して一帆は三尺七寸のよくある剣。
「それじゃあ、」「手合わせ願おうか」
成形武装と纏鎧、駆刃のみを利用した模擬戦闘が始まる。
肉体強化もなしに長物を片手で振り頻り、鈍い音で空を斬っては一撃必勝の攻撃で一帆へを攻め込む。
(馬鹿みたいな力押しだが、膂力と相まって厄介。打てる手は)
下手に防御してしまおうものなら、防御ごと叩き砕かれない暴虐のそれ。
「駆刃」
振った剣身から魔力の刃が百々代目掛けて飛んでいくも、空いた左手で防がれ潰される。纏鎧の範囲を限定的にすることで強度を高める形状変化。
纏鎧に関しては彼女以上に一日の長がある。切歯しながら一帆は次の手を考え、再度駆刃を使用し、防御の隙を突くように間合いの内側へと潜り込む。
(長物の弱点は間合いの内側、そして徒手空拳は禁止されている)
(けど、偶然に身体が当たるのは不可抗力ッ!)
斧槍を振る仕草を行いながら、距離を詰める彼に対して百々代も踏み込み体当たりを狙う。
(こいつッ!拙)
普段から身体を鍛えている彼女の体当たりを諸に喰らえば勝ち目はない。
進路を無理繰りに変更し体勢を崩しながら避けたが、上体を大きく捻り砂を掻き上げながら振り抜かれた斧槍が直撃する。
両者共転び砂に塗れながら立ち上がり、ほぼ同時に起動句を叫ぶ。
「「駆刃ッ!」」
弾け散った駆刃を見届けること無く百々代が地を蹴り、先端に付いた槍の刺突を繰り出す。片手とは思えない重厚な連撃を剣で受け流しつつ機会を探る。
(一か八かだが)
「くうじんッ!」
連撃の隙を狙い、剣を構えてはったりを仕掛けると、百々代急ぎ左腕での防御へと姿勢を変え。
「あっ」
(悪いな、勝ちたいんだよ。百々代に)
薄くなった部分へと一撃を加えて纏鎧を砕く。
「よしッ!見たか百々代、限定的な戦闘だがお前に勝ったぞ!」
「お見事でしたっ!…構えも込みのはったりにはしてやられました」
「目が良いから、構えを取れば釣れると思ってな」
「なるほど。わたしをよく知ってるからこその、でしたか。次はありませんからねっ!」
「次は次で別の手を打つさ。それよりも纏鎧を薄くしていたが、怪我はないか?」
刃を潰してあるとはいえ斬られたのだ、心配そうな表情を見せた一帆は百々代の脇を擦り、痛みの有無を確かめる。
「大丈夫ですよ。痛みはありませんし、直前で纏鎧を掻き集めたんで」
「それならば良かった」
安堵しつつも大きな壁への足掛かりを得て、一帆は満足げな吐息を漏らす。
「慣れない魔法って大変ですね、やっぱり。近接戦闘となると肉体強化はほしいです」
「そういえば肉体強化は無かったのか…。今後は成形武装を使っていくのか?」
「どうでしょう。今すぐに用意する予定はありませんが何れは使ってみるのも悪くないかなって。ただ…手は自由にしておきたいって思うことも多かったです」
今回の戦闘に於いて両手で武器を構えなかったのは、普段の戦い方を加味したもの。接触起動にも条件起動にも左手を用いる彼女からすれば、腕の自由を損ねてまでの魔法足り得るとは考えていないのも確か。
「一帆様はどうなんですか?剣の心得があるみたいでしたが」
「剣は幼少から習っていてな。俺も別に取り入れようとは思わん、中距離の方が得意だ」
などと話している二人の会話を耳に周囲は引いていた。あれだけ戦えて採用に至らないのか、と。
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