五話⑪
探索を始めて四日、七階層に到達した一同は気を引き締める。
「回廊階って事は次が首魁の住処だな。相手は王太鼠、馬鹿みたいにデカい鼠とその取り巻きだ。数ある迷宮にいる首魁の中でもハチャメチャに弱いが、あくまで『首魁の中では』という大前提があることをわすれないように」
「「はい」」
「作戦は防衛から三人と篠ノ井が障壁を貼る防衛手。俺と薫、安茂里が前衛をしつつ臨機応変に動いて、残りが射撃魔法での攻撃手だ。俺か安茂里の存在を考えれば王太鼠は問題ないが、山のような取り巻きの群れの方が危険になるだろう。防衛攻撃共々、鼠を駆除して道を作り出してくれ」
一同頷き装備を改めて王太鼠との戦いに臨む。
第八階層。今までの鬱蒼とした森とは異なり、低木が疎らに生えるだけの草原地帯に一行は降り立つ。
彼らの視線の先には体高が二間弱は有りそうな馬鹿みたい大きな体躯の鼠と周囲に侍る数えきれない太鼠の群れである。太鼠すら二尺程の大型の鼠なのだが。
そんな婦女子であれば卒倒しそうな光景だが、気圧されることもなく一帆を始めとする防衛手は障壁を展開し、攻撃手たちと百々代は鼠を撃ち抜いていく。
(一帆様は五本同時に氷矢を射出してたっけ)
腰に佩く魔法莢に触れて擲槍の形状を変化させて三分割し水平に放てば、何頭かの太鼠を巻き込んで屠り次の準備を行う。
(相手が大勢いる場合には良いけれど、精度を保つにはしっかりと集中しないと)
細かく射線を調整しながら百々代は効率的な場所へと擲槍をねじ込み、死骸の山を築いてくも圧倒的な物量は波となり延々と押し寄せてくるわけで。
「安茂里、爆発の魔法は使えるか?細々としててめんどくせえ」
「わかりました。障壁を厚くする事をお勧めしたいのと、…一帆様を借りたいです。空中に障壁貼って足場作れますよね?」
「は?」
「わたしとの模擬戦闘で空中に張ってましたよね?高く跳ぶんで着地できるだけの足場が欲しいんです」
「わかった。やってやる」
「よしっ決まったな。防衛手!全力で障壁を張ってくれ」
「「「了解!」」」
「それじゃッ」
障壁の外へと飛び出した百々代は足裏に魔力を集中させて零距離擲槍にて大きく跳び上がり、再度発動しては高所を目指す。
(あの軌道なら、ちっ、二回も使いやがったな。…三重障壁で確実な足場を、上手くいった。やってやれ百々代!)
(急なお願いでも応えてくれる一帆様、素敵ですよ。それじゃあ、六分力の拡散飛手甲やってやろうか!!)
飛手甲の魔法莢を六分の威力に解放し、両手を前に突き出して拳を大きくパーの形に開いて構える。
「飛手甲ッ!」
明らかにパンチの形状ではないが、あくまで軌道句。両手から放たれた纏鎧は射出後に各指毎、合計一〇分割で飛んでいき向かい来る太鼠らへと着弾した。
ドドドン、一〇の弾頭は地上を埋め尽くすほどいた太鼠を綺麗サッパリ吹き飛ばし、王太鼠を激怒させるには十分すぎる着火剤となったようで、二間弱の巨躯が勢いよく走り出す。
「「「う、うわぁ…」」」
とんでもない惨状にドン引く一同だが、迫りくる首魁の対処を迫られているわけで、障壁を密にしながら射撃での迎撃を試みる。怒り狂っているのか、突き刺さる魔法などなんのその一直線に突き進む相手へ直弼と薫が前に出て前足を切り落とす。
「悪ぃな、こちとらこれが仕事なんだわ」「片が付かないと帰ってくれそうにないので」
「――――ッ!!!!」
「おわっ!」「厄介な」
前足を失った王太鼠は四間程の二本尾を振り回して二人は引き剥がし、後ろ足で立ち上がり押し潰すべく巨躯を押し付ける。窮鼠猫を噛むというが、追い詰められた獣は恐ろしいもの。
立て直した二人は尻尾を切り落とすべく立ち回り剣を振るう。
キィン、刃が火花を咲かせて男二人を弾き飛ばし、飛来する射撃魔法を受け付けなくなり対象が首魁の魔獣ではなく、魔物であった事を悟った。削られていた体表と前足は再生を始め、王太鼠本体は楽勝だろ高を括っていた一同は臍を噛む。
「硬化と再生だッ!撃てるだけ撃ち込んで足止めをしろ!」
(どういう理屈だよ、聞いたことも見たこともねえぞ、魔法を使う王太鼠なんてよ――)
ドゴッ、鈍い打撃音と共に王太鼠の体躯が揺らぐ。
音の現況を終えばそこに居るのは百々代なわけで、高所に設置された障壁から減速もなしに落下し飛び蹴りを食らわせたのだ。後ろに蹴り飛び両足片手を地に漬けた勇者着地を披露し、擲槍移動で以て吹き飛び、勢いのまま零距離擲槍を横っ面にぶち当てた。
「硬くても衝撃は通るはずだよッ!更にもう一ぱ――」
「安茂里ッ!」
攻撃に意識を集中していたせいか、迫りくる尾撃に対応出来ず強烈な一撃を貰い地面を転がっていく。弾性の纏鎧を纏っていようと衝撃は通る、やったことを見事に返されて地面に蹲る。
「げほっ、けほっ」
(…痛ぁ、世界が、回る…。…向こうも動きに難があるけど、ぐ)
乱雑に尻尾を振り回し前衛の二人から距離を置き、体勢を立て直しては憎き少女へと突撃を始めた。
「悪いが百々代は俺のなんだ、取らせない。来い、佩氷」
(やってみせろよ、百々代は俺に必要なんだ!)
迷宮遺物佩氷を用いた攻性障壁を多重に張っては百々代を護り、王太鼠を取り囲む檻を構築すべく一帆は杖を振るい顔を顰める。
「大人しく氷漬けに成れってんだァ!ドブネズミがよ!!!」
厄介極まりない二本尾を障壁で地面に縫い付け、逃げようと藻掻く本体も多重に障壁を押し当てて接触からの凍結で動きを鈍らせ。
「よくやった篠ノ井の!首元開けな!俺の剣は重いぜ、重量がな!!」
目配せをして同僚に障壁の足場を作らせた直弼は、高所から跳び重化で威力を増した剣にて硬化した太鼠の首を落とす。
こうして波乱の戦闘は幕を下ろすことになった。
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