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五話⑩

 一階層の壁面に出来たうろを下り、光が差したかと思えば再び森。森林迷宮ということもあって、上から下まで全てが全て森林で構成されている飽きの来る迷宮だ。

「今回も潜行時間は同じ時一つと半分(3じかん)、発見もしくは刻限が迫りしたい今日の探索は終える。普段ここは七階層前後で構成されるらしいから、上手くいきゃあと二日三日で終えられるが…無茶な探索はしないように。碌なことにならないからな」

 午後の部が始まり、いくらかも歩かない内から甲熊こうゆうが現れて、かおるは面倒くさそうに成形武装の剣を構える。


「ここは私が仕留めるんで百々代(ももよ)さんは力を温存しといてください」

「はいっ」

「はぁ…」

 魔力で出来た剣身に左手を添えた薫は、迫りくる甲熊を睨めつけては剣を勢いよく空振る。剣身の長さは四尺(120センチ)で相手との距離は五間(9メートル)は確実にある状況。

駆刃くじんかな。条件は剣身に触れながら剣を振る)

 ズバン、魔力で形作られた不可視の刃が甲熊の前足を切り裂き転倒をさせ、次いで振られた追い薙ぎで鱗で覆われた胴体へと裂傷が生じた。


「……。…あー、すみません、仕留めきれなかったので追撃をお願いしてもいいですかね」

「はいっ」「ああ、任せろ」

 装甲が割かれ柔らかな肉を晒しているのなら、そこを狙わない道理はない。一帆かずほと百々ももよの魔法射撃でもって甲熊は死骸へと変わっていく。


「いやあ…かっこつけたのに形無しになっちゃいましたね。中型以上の魔獣相手じゃあ力不足を否めませんね」

(そもそもが人を相手取る装備ってのもあるんですがねぇ)

「纏鎧と本体を断つ為の魔法で甲熊の装甲を突破できるんですねっ」

「…。ひと目見ただけで分析したんで?」

「いえ、薫さんは一帆様の身辺警護で来ているので、あくまで対象は人なんじゃないかなって推測です」

「正解です。ちっとばかり力んだせいで二発目は完全に頭を逸れちゃいましてね。恥ずかしいばかりですよ」

「今のは駆刃でいいのか?」

「ええ、そうですよ。見たことありませんか?」

「学舎では見たことないな、百々代はどうだ?」

「わたしもありませんねっ」

「はぁ…私の在学中は大人気だったんですが、魔法にも流行り廃りがあるんですかね」

「今年の一年には纏鎧…は兎も角として擲槍が人気だな。というか成形魔法の授業が一度もない、今後人気になるのかもしれんな」

「あー…、そういえば私もニ年くらいに習った気がしますね」

「…お喋りはここまでみたいです」

 薄っすらと目蓋を持ち上げては、森林の奥を顎で指せば幾多の魔獣。


「薫、細々とした相手を任せられるか?俺が足止めをして百々代に甲熊の対処に当たらせたいのだが」

「任せてください。雑魚はなんとかするんで、デカブツに専念してもらっていいですよ」

「それじゃあ、行きますねッ!」

 腰掛けていた倒木を木っ端微塵にしながら百々代は吹き飛び、落ち葉を散らしながら股下へと滑り込み。

零距離擲槍パイルバンカーッ!!」

 装甲の無い腹部へと必殺技を繰り出し次の標的へと足を向ける。


(身一つ、と考えれば機動力と火力のお化けですねえ、本当に。一帆様は的確に援護してますし、高すぎる壁を前にしている他の一年生が不憫ふびんな)

 前衛たる百々代が注力出来るように、氷矢で露払いをしつつ甲熊の手足を凍結させて動きを鈍らせているわけで。派手さに欠けるがやっていることは、一年生の範囲を越えており三年四年と言われても差し支えのない水準。

 彼自身、目の前に高すぎる壁のある一人。彼女との模擬戦闘、そして昨日今日と続く対魔獣の実戦に実力を大きく伸ばしつつある。


(形状変化を用いた同時展開。一動作一本では圧倒的に手数不足だし、実物は迷宮管理局員のを直で見たから…出来た)

 三本の氷矢を同時に射ち放ち、小さな群れを一度で無力化し次へと視線を移す。

 妨害を行おうとした対象は錐揉み回転をしつつ大木に叩きつけられ絶命し、百々代は次の甲熊へと突き進んでいた。


(ふっ、上手く射線に入らないよう立ち回っているな)

 手間が増えないようにと、百々代は一帆が動きやすいよう位置取りをして戦う。これくらいできるだろう、これくらいやってみせろ、と言わんばかりの的確な空間掌握術。まあ、彼に対する大きな信頼の為せる技だろう。

 生身で受ければ死に繋がる強靭な腕と鋭い爪を用いた一撃、防御を必要とする場面であろうと攻撃の構えをとって。

(えへへ、)

 五本の矢が対象の半身に突き刺さり、動きを鈍らせ大きな隙を作り出す。

 もはや聞き慣れた衝撃音を耳に戦闘は終わりを告げた。


―――


 難もなく順調に足を進めていく中で、森林の川、沢に当たり迂回するか悩んでいる三人。

「沢に沿い下っていけば…二叉に分かれて幅が狭くなっている場所が見えます。迂回しましょうか?」

「それが良いでしょうね。ここは少しばかり深さが有りそうなんで危険は避けたいです」

「百々代が俺達を抱えて飛び越えたりはできないのか?」

「わたしはそれでもいいんですけど…やります?落ちない保証と着地が成功する確信がありせんけど」

「よし、止めよう、中止だ」

 川に落ちないよう三人は足を進めていくと、百々代が何かを発見したようで一人駆け出す。

「やっぱりっ!見てくださいこれ!玉髄山椒ぎょくずいさんしょうですよっ!」

 薄っすらと緑がかった白灰色のゴツゴツとし所々に棘の見られる幹と、同色の山椒の様な葉が広がる四尺《120センチ》前後の背丈をした、植物のような鉱石のような存在に一帆と薫は首を傾げた。

「玉髄山椒、とは?」

「迷宮資源の一つで、魔法莢の触媒とか装飾品とかに使われる鉱石ですっ!特別珍しいものでもないんですが、装飾品としての需要もあって地味に値の張る物なんです!これって採取しても大丈夫だったりしませんかっ?!」

 二人に視線を向ける事無く説明し、様々な角度から玉髄山椒を観察している百々代。


「持ち帰れるかは兎も角、採取はしてもいいんじゃないですかね。構造変化後の迷宮は稼ぎ場なんて聞きますし。あとで直弼と森林迷宮ここの防衛者にでも確認してください、協力者って事なんで許可をもらえると思いますよ」

 パッと笑顔を輝かせた彼女は、纏鎧の形状を鋭いものへと変えて根本を掘り進める。

「そういう使い方も出来るんだな、纏鎧それ


―――


 そんなこんなで順調に足を進めた一行は、青い信号弾の光と音を頼りに迷宮管理局員たちへと合流をすべく足を進める。

「よしっ、全員揃ったな。…?」

 何故か白灰色の植物のような何かを抱えた百々代を見て、直弼は首を傾げた。

「あの!これ玉髄山椒なんですけど、持ち帰りたいんですが駄目でしょうか?」

「玉髄山椒か。俺的には構わないが」

「良いんじゃないですか?安茂里さん頑張ってくれてますし、玉髄山椒の一本くらいなら許可を出せますよ」

「ありがとうございますっ!!」

 満面の笑みの彼女は今にも飛び跳ねそうな様子で、至極嬉しそうに礼をする。


「必要なら加工屋も紹介しますよ。装飾品にするんですよね?」

「いえ、触媒にしようかとっ」

「ああ、そういう。なら問題はなさそうですね」

 ちなみに約四尺の玉髄山椒の価格は三〇〇〇賈、それなりに高価な品である。

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