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五話⑨

 一帆かずほら三人は魔獣を蹴散らしながらゆっくりと歩みを進める。

 秋桜街の森林迷宮は枝葉が覆う天井と、苔生して滑りやすい足場が延々と続いている場所だ。場所によっては信号弾も光は届かないため、音を頼りに移動することもあるだろう。

 方針計を頼りにみ南へ進む一行は、また一匹魔獣を屠る。


「よっと、…今ので辺りの敵は見えなくなりましたね。木々の裏に隠れている分はわかりませんが、天井を覆われ鬱蒼うっそうとしている割に木々が少なく見通しは悪くないので大丈夫かと」

 青い瞳の観測範囲は人のそれとは比べ物にならない程広く、細かなものまで捉える事ができ、索敵に十分役立っていた。

「はぁ…そうか。…それにしても足場が悪くて歩き難いな。…うおわっ」

「ふぅ、大丈夫ですか?」

 苔で滑り転びそうになった一帆の手を引き、懐へ抱き込んだ百々代は安堵の息を吐き出す。手足と違って胴体部は弾力のある纏鎧てんがい、ほんのりと体温を感じられる密着っぷりに彼は少しばかり恥ずかしがる。


「あ、ああ、助かったよ。ありがとう。…もう放してくれて大丈夫だ」

「はい、足元気を付けてくださいねっ」

「四半時《30ぷん》も移動しましたし、小休憩を挟みましょうか。敵さんも見当たらないようですし」

「はーい」

「ああ、そうしよう」

「もう少し進めば陽光も差して歩きやすそうな一帯になってるんで、僅かな辛抱ですよ」

「それは有り難いが、戻るときにも苔床を進まないといけないのは気が重くなるな」

「背負いましょうか?移動砲台の完成ですよっ」

「…勘弁してくれ」

「他人の事言えた立場でもないんですが、一帆様も百々代さんみたいに身体を鍛えましょう、最近は剣術の鍛錬も怠っていますよね。迷管は身体が資本みたいなところありそうなんで」

「俺も痛感したよ。鍛錬の再開がてら体を鍛えるさ」

 手頃な場所に腰掛けた二人は、だらんと手足を伸ばして休息を取る。運動不足気味な一帆と、迷宮歩きには慣れてない護衛の薫には厳しい環境のようだ。


「百々代はよくもまあそんなすらすら進めるな」

「纏鎧甲の足裏が引っかかりのある構造になっているんです。擲槍移動から止まれるようにするための機構なんですが、副産物ですね」

「形状変化でその構造を維持しているのか?それとも導銀に?」

「前者です。融通の効くようにしておきたかったので、起動を繰り返して身体で覚えました。ですので…こういう事もできます」

 拳を結んでは開いて、何の変哲もない手甲ような纏鎧を鋭い爪のような形状に変えたり、右手のみの大きさを変えてみたり形状変化を行って見せる。


「形状変化が本当に上手い。実技首位で入学したっていうのは本当なんですね」

咄嗟とっさの判断で変えるのは、まだ難しいので精神的な余裕は必要ですけどね。そうそう、纏鎧甲には見た通り魔法陣に余裕を持たせているんですが、こういう事もできまして」

 二人に背を向けた百々代は自身の魔力を操り、背中の中程から鱗状の纏鎧を背骨に沿って展開し、六肢竜のような尾を形成した。


「これ高速で動き回る際の重心を調整して均衡性の制御に用いようと思ってたんですが、あくまで纏鎧の延長でしか無いので動かせないんですよね。擲槍移動の空中制御なんか出来れば機動性に磨きがかかるかと思ったんですが、任意に動かせるか、一定の条件で特定の動きをするような陣を組み込んだ魔法莢が必要でして結構大変なんです。…そこで先日魔法省から発表された、成形武装を転用した義肢の魔法!アレ、指は難しくても膝や肘みたいな簡単な稼働部位を動かせるように出来る最新技術で――」

「一歩様ってコレと競ってるんですか?」

「…ああ。」

「ちなみに義肢の魔法云々ってなんですか?」

「魔法省魔法莢研究局の報紙は学舎でも閲覧できるから、その内容だろうな。莢研は派閥事で成果発表がてら報紙を発行してるんだが…成形魔法学派閥かなんかだろう」

「そうなんですか、報紙が閲覧できることすら初耳でした」

「大半の生徒は知らないから問題ないだろう。莢研に行く奴しか読まんからな基本」

「――というわけですっ」

 要約すると『尻尾があったら移動の制御に便利そうだけど、まだまだ先は長そうです』という話しが終わった。


「百々代さんは莢研に興味はないんですか?そっちにも進めると思いますよ」

「ありますよっ、でも昨日今日、直接に迷宮に触れて魔物や魔獣と戦ってみて、わたしのやりたいことは誰かの安寧を守ることなんだって再確認しました。魔獣に襲われ怪我をした人がいて、場合によっては死傷者がいたかもしれません。だから迷宮管理局に進みます、わたしは。力を求めて魔法莢を弄るのは、その一環です」

「そうですかい。私が一四、一五の時なんて女の子の尻を追っかけてばっかだったんで、立派だと思いますよ。…ただまぁ気負いすぎないようにやってくださいね、潰れちゃ意味がないんで。…それじゃあ探索を再開しましょうか」

 三人は森林を歩く。


―――


 休憩を終えて歩き始めること四半時と少し、一行は密集して進むことの出来ない樹木の壁へと到達していた。


「ここが階層の果てですか。森林迷宮だとこんな風になっているんですね」

 蟻一匹通ることの出来ない、樹木が並んでいるだけでその姿は壁である。

「これ以上向こうは無限に緑の屋根が広がっているだけで何もないみたいですよ。それじゃあ左に向かって進みましょうか」

「そうだな」

 迷宮で次の階層へと進む場所の多くは壁に沿って配置されている事が多い。多いと言うだけで違う場合もあるのだが、自然を模した構造であればほぼ確実に壁にあるといっても過言ではないだろう。

「…。あっ、少し進んだ先で壁にうろみたいな穴があるように見えるんですけど、もしかして」

「おっ、次階行きの虚なら幸先いい。一帆様、青い信号弾の準備しといてください」

「了解した」

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