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五話⑧

 明くる日。赤茶色の癖っ毛が明後日にハネている百々ももよは、迷宮管理局員らが集まっている場所へと足を運ぶ。冷え込みや慣れない寝床などお構いなしだったようで、健康そうな相貌をしている。

 迎えるのは直弼なおすけかおる、数名の管理局員で一帆かずほや三年の二人はまだまだお休みのようだ。


「おはようございますっ」

「おはようさん。食事はそこ、飲み物は茶か珈琲コーヒーを好きに淹れてくれ」

「はーい」

 昨日の物と変わらず一般的に美味しくない保存食の料理を山盛り皿に乗せて、茶を入れては腰を下ろす。


「昨晩はよく寝れたか?」

「はい、問題なく。一帆様はまだ就寝中ですか?」

「一帆様はまだ起きてきてませんよ。こういう環境には慣れてませんし、寝付くのに苦労したのかもしれません」

「なるほど。…はむ。ん…今日は迷宮に入るんです?」

「ああ、さっさとケリをつけないと篠ノ井(しののい)の坊っちゃんや安茂里あもりが戻れないだろう。まあ不幸中の幸いというか、この森林迷宮は然程難しい場所でもないらしく、首魁も王太鼠おうたいそっていうただデカいだけの鼠だ。単体で見れば昨日のお猿さんの方が厄介だわな」

「そうなんですね。猩猿魔しょうえんまみたいな魔物って多く現れるんですか?迷宮っていえば魔物って印象があるので」

「ここじゃあ珍しい部類みたいだな。ここで前に確認されたのも…、えーっと一四年も遡るらしいぞ」

「……。ふむふむ、そういうものなんですね。上市場かみいちば様はあちこちを回っている巡回管理局員、探索者という認識でいいのでしょうか?」

「そ。今は学舎から来てる二人の面倒を見てるけど、普段は…アレとアレ、あともう一人の四人であちこち回ってる。安茂里は迷管志望って言ってたが探索者になるつもりか?」

「防衛者よりかは色々と潜ってみたいなと考えています」

「ふぅん、俺らとしちゃ大歓迎だ。学舎で勉強頑張んな、実力がない奴は好きな道を選べないもんだ」

「はいっ!」

 将来の目標を間近で見られる機会に百々代は嬉しそうにしていた。


「…ところで、こっちで用意した物でアレだが…よくもまあそんな不味い飯を鱈腹たらふく食えるな」

「え?美味しいですよ、味がするんで」

「そ、そうか…」

(…秋桜街で美味い食事処にでも連れてってやるか)


―――


「今ここにいるのが一五人。三人一組で動いてもらおうと思う。四組が迷宮内の探索、一組が迷宮門の外で防衛に就いてもらうことになるんだが」

「自分たちが残ります。昨日や最近の疲れも癒えてないもので…、それに優秀な後輩ちゃんたちもいるみたいですし」

 居残りに名乗り出たのはけいこう。彼らはそれなりの間、直弼らと行動していた事もあり、百々代は兎も角として一帆と比較しても疲労の色が見て取れる。

「んじゃあ、ウチが四人だし誰か一人残ってやれ、決め方はじゃんけんかなんかでいいだろ。薫は篠ノ井と安茂里の二人、駐屯組も半分に分かれてくれ」


 そんなこんなで手早く分かれては、装備と陣形の確認を行っていく。

 先ずは信号弾の魔法莢まほうきょう。次階を見つけた時には青い光とキューンと音の鳴る物を、魔物のような厄介な相手と会敵した場合には赤い光とパパンと音の鳴る物、それ以外で集合する場合に黄色い光とトトンと音の鳴る物、合計三種の魔法莢。

 次いで時計。至って普通の見た目をした時計だが、…なんと至って普通の時計だ。迷宮内では朝夕の時間変化が存在しない事が殆どで、存在する場合でも外界とは異なる進みをしている。複数組で探索を行う場合には足を踏み入れる前に発条を巻き、針を合わせてから探索を行う。

 最後に方針計ほうしんけい角芯石かくしんせき。方針計は方位磁針用な見た目をしており、常に紐づけられた角芯石へと針を向ける。構造変化のした迷宮に地図はなく、無闇矢鱈むやみやたらに進んでいくと帰れなくなることがままある為、帰路を示すための道具は必須だ。

 帰ることなく、遺体も発見されなかった者は「迷宮に食われた」と表現され、年間で数件は起こる事故だ。気をつけたいところ。


「百々代さん、一帆様、私の順で進みますので、背中は完全に預けてもらって結構です。基本はお二人の射撃魔法にて敵を討ちつつ、抜けられた場合は百々代さんと私で対処しますので」

「承知しましたっ」「了解した」

「さっさと片を付けて戻りましょう」

「そっちも準備は終わったようだな。森林迷宮ってのはそれなりに数ある形態だが、迷宮に食われる率が二番か三番目くらいに多い、薫の指示にしっかりと従うようにな」

「はいっ!」

 四組が集まったのは水のない噴水のような構造物。これが迷宮門であり、迷宮という異界への入口となっている。

 直弼たちが近寄り中心部に手を添えれば、またたく間もなく姿を消していく。最後に潜るのは百々代たちで。


「囲いの内側にいる全員が中心部に触れると内部に潜ることになりますんで、気を引き締めてください」

 そんな事をいう薫は欠伸をしながら、手を伸ばしているわけだが。

 一帆と百々代は頷き合い中央部へと触れる。

 瞬時に景色は一変し鬱蒼とした森林の迷宮門に三人は立っていた。


「これで全員揃ったな。先ずは角芯石を設置して時計の確認だ。潜行予定時間は時一つ半(3じかん)、次階門が見つかり次第合流、次に進む。製図は後回しだ」

「「了解!」」

 魔法師たちは四方へ散っていく。

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