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五話⑦

 細々とした魔獣の群れを蹴散らしていれば、視界の端から飛来物があるに気が付き百々代(ももよ)は躱す。

鏃石ぞくせき?方向的に誤射ではない…魔物かな)

 二度三度、飛び来る小石を纏鎧てんがいの纏った腕で払い除け、軌跡を辿る。

 視線の先には大猩々(ゴリラ)の様な大きな体躯をした猿の一種が、杖のようにして木の棒を振るい石の魔法を飛ばしていた。

猩猿魔しょうえんま、やっぱりねッ!魔法の原点、拝ませてもらうよ!)

 百々代が急速に接近すると猩猿魔はブンブンと杖を振るいては幾重にも石の防壁を築き上げ、進路を狭めては的確に狙い撃つ。とはえい精度では一帆かずほはおろか百々代の擲槍にも劣る実力、偏差射撃をされようとも青い瞳で捉えている限り当たりはしない。

(猩猿魔の骨は鏃石みたいな石系統の触媒に使われる、…つまりはその手の魔法を自在に使える筈。考えなしに突っ込めば痛い目に合いそうだねッ)

 トントン、と作り出された壁を足場に動き回り、擲槍射撃にて射撃戦を行っていく。大なり小なりの魔法への抵抗を持つのが魔物だ、有効打足り得ない擲槍ではあるが、損傷を蓄積させるには十分たる威力なわけで。


「―――ッ!!!!」

 猩猿魔は怒号と共に自身の身体に岩の鎧を纏い、岩の棍棒を作り出して駆け出す。

 魔物という存在は人にとって魔法の原点であり、迷宮から繰り出される厄介な天敵だ。人族がまだ魔法を持たない時代、襲い来た魔物を数人がかりで討ち取って、頭蓋を被り骨を振るったことで魔法が発現した事が起源の一つとされている。百々代の言う「魔法の原点」というのはそういう事。

 それから魔物の骨を加工し杖を作り、魔法の力を用いて迷宮を踏破。内部に存在する素材や迷宮遺物などを用いして魔法文化は発展していき今に至るわけだ。

 体躯の内に触媒を持ち自在に魔法を操る魔物。魔法馬鹿の百々代からすれば生きた宝物殿であり魔法の祖だ、挙動一つ一つも見逃すこと無く凝視しながら応戦していく。

 猩猿魔の体長は一間四尺《3メートル》、他の同年代よりは遥かに丈夫な彼女でも振り下ろされる棍棒をまともに喰らえばひとたまりもない。躱し、受け流し、隙を見ては拳や蹴りを打ち込んで岩の鎧を剥がしていく。


「……ッ」

(…。)

 すばしっこく目障りな対象を視る瞳は何処か血走っており、怒りという感情をまじまじと感じられる。

 癇癪かんしゃくを起こしたかのように棍棒を無闇矢鱈むやみやたらに振るって、百々代を挽き肉に変えようと試みが、機動性に於いて彼女に叶うはずもなく。

 ドン、と脇腹に重い一撃を貰い猩猿魔は苦悶を浮かべ、衝撃によって罅の入った岩の鎧を修繕していく。


(やっぱり硬い、ねッ!)

 左腕を引きつつ拳を構えて、右足から放たれた零距離擲槍ブースターにて後ろへ飛び去り、空中で左足から再度使用、くの字に移動しては頭部へ蹴りを加える。

(効いてないね、コレ。有効打になりえるのは零距離擲槍パイルバンカーくらいで、肉体強化からの打撃と擲槍射撃じゃあ力不足だ。今後の課題かな)

 横薙ぎの一撃を纏鎧で覆われた肘と膝で受け止めつつ、棍棒そのものを砕いては懐に潜り込み、殴り上げ零距離擲槍を捩じ込む。

「安茂里ィ!そのデカ物こっちに飛ばしな!」

 聞こえた声は直弼なおすけのもの、敵陣を切り抜け追いついたのであろう。

「了解、ですッ!」


 素早く猩猿魔を挟んた直線上に移動した百々代は、腰にく飛手甲の魔法莢を手探りで操作し、非起動状態から最低火力に切り替え拳を突き出す。

ロケット手甲パーンチ!!」

 ほぼ密接状態で放たれた飛手甲は、彼女諸共爆発に巻き込んで猩猿魔を直弼の許へと吹き飛ばす。

「猿魔ってなあ、こう倒すんよ!」

 不朽くちないを両手で持ち上げた彼は、吹き飛ばされた飛来物を撃ち落とすため得物を振り下ろせば、鈍い打撃音と共に叩きつけられ地面に血液で花を咲かせた。

 条件起動、重化。両手で振り下ろすことを条件に、手に持つ得物の重量を幾倍にも膨らませる魔法。この魔法を好む彼だからこそ、折れることの無い銘不朽を相棒としているのだ。


(何あれ、すっご)

 飛手甲で自爆した百々代は建物の瓦礫から這い出て、先の光景に感心するのであった。


―――


「よし、区画内は片が付いたか。…相手が相手とはいえ、派手にやったな安茂里」

「言い訳のしようもありません」

 彼女と猩猿魔の戦闘は周囲への被害なんてお構いなしの双方大暴れ、結果として建物だろうが舗装地だろうが見るも無惨な状態で、極めつけは飛手甲の自爆。

「ん?ああ、別に責めてるわけじゃねえ、こんなの魔物のせいにしときゃなんとかなる。対魔物は初めてだろうに、よく対応できたもんだ、お疲れさん」

「は、はいっ!」

 パッと笑顔を輝かせる姿に、直弼は飼っている大型犬を思い起こす。


「一旦様子見しつつ休憩だ、魔獣が現れたら見張りが対処して、魔物が現れたら全力で叫べ」

 管理区画から非戦闘員を逃がすための撤退戦、秋桜街の防衛戦、移動時の迎撃戦、管理区画の掃討戦。昼前から戦い詰めの管理局員らは疲労困憊甚だしい状況で、腰を下ろし急拵えの食事を食んでは一息つく。

「いやー、助かったよー。君たちの増援なかったら、まだここを落とせてないかもしれないからさ」

「当然の事をしたまでです」「お力になれてよかったですっ」

 不味いけれど大目にみてね、と手渡された食事に一帆は無心で匙を進め、百々代は美味しそうに食べていく。


「二人共迷管志望なんだっけ?ウチは何時でも人手不足だから大歓迎だよ、めっちゃ強いしさ」

「人手不足なんですか?」

「ああ、学舎に通ってるなら習ってるかもだけど、迷宮は天糸瓜島だけでも一〇〇箇所はあって、どこかしらは常に構造変化と首魁しゅかいの再胎をしているんだ。常駐の管理局員もいるし、ある程度の周期は想定されているけど、移動には時間を食うし今回みたいなことも稀にある。戦える人材はいくらでも欲しいんだ」

 管理局員は困り顔で語る。

 平時であれば港防省の戦闘可能な魔法師らも協力してくれるのだが、あくまで違い省庁の職員。迷宮探索には慣れておらず、手を借りるにも一手間掛かる。

 一応のこと、学舎卒業生以外にも魔法質が一定以上あり、迷宮に足を踏み入れることが可能な人材に対して門戸を開けているのだが、あまり多くないのが現状だ。

 迷宮に入ることの出来る魔法質は市井では、凡そ二分《20パーセント》弱の上澄み。貴族家では凡そ六分七分《60から70パー》。市井では魔力質の検査すらしないことがざらなので、まあ才能は埋もれ頻りとなる。

 どれほどの魔法質かといえば、検査器で水の球を作れる必要があるので狭き門なのは確実。


「誰かが魔物魔獣に襲われて痛い思いをするのは避けたいですし、わたしは迷宮管理局へ進みますよ。それに一帆様と路を同じくすると約束もしてますし」

「期待していてください。今でこそ百々代は第六座ですが、卒業するころには第二座まで上がってると思うんで」

「えへへ、第一座ですよ。一帆様に追いつかれませんので」

「ふん、言ってろ」

(いいねぇ若いって)

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