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五話⑥

「えへへ、信じてましたよ一帆かずほ様。模擬迷宮みたいに的確な援護をくれるって」

「当たり前だろう。百々ももよとは迷宮探索で肩を並べるつもりなんだ、これくらい出来て当然だ。然し…甲熊こうゆうともなると佩氷はくひょう合わせの障壁は無意味だったな」

「なんなら踏み抜かれてませんでした?一部」

「ああ、その場で直しはしたが、対小型及び中型の足止め程度だな」

「数の多い太鼠を一気に持っていけたのは大きいと思いますけどねっ!」

 どうにも緊張感に欠ける二人に近寄るのは、年齢が然程変わらない青年二人で。


「御助力感謝します!篠ノ井一帆様はたしか一年生ですよね?!広範囲に渡る魔法、素晴らしかったです!」

「安茂里百々代様は、四年生の先輩ですか?あまりお見かけしたことがないのですが。あっ、自分たち三年で学舎外活動の一環として迷宮管理局に加わっていまして」

「えっと、わたし一帆様と同じ一年生です。安茂里工房の安茂里百々代と申します」

「一年?」

 ポカンと口を開けた青年らは魔法学舎の三年生。金木犀きんもくせい魔法学舎では成績優秀者に限り三年生から迷宮管理局等の進路先で現場を学ぶことが出来る。


「あー!もしかして雲先ひばせんの成形獣を一撃で潰したっていう実技首位の!」

「めっちゃ話題になってた後輩ちゃんだ。へえ、よろしく。自分は爵士しゃくし家の柿平かきだいらけい

「僕は芒山すすきやま男爵家の出馬いずんまこうだよ、よろしくね」

「どうもよろしお願いします柿平先輩、出馬先輩」

 ペコリと頭を下げて挨拶をしていれば、なにか思い出した風の一帆が口を開く。


「柿平先輩と出馬先輩はたしか、三年生の第七座と第九座ですよね?」

「覚えて頂いてたなんて光栄です!いやー然しすごいですね、今年の一年。そこらの三年生よりか強いですよ、お二人共」

 うんうんと頷く慶。お世辞と言うよりかは本心味のある言葉に、百々代は嬉しそうに口端を上げる。

「というか何があったんですか、結構な大惨事に思えるのですが?」

 一帆が順繰りと見回せば、残る三人も視線を追う。少なくない怪我人に、魔獣の爪痕残る街並み、普段であれば迷宮外出てくることのない魔獣の死骸。こんなのが日常的であってはならない状態だ。


「どうにも同時多発的な迷宮の構造変化と再胎さいたいが発生しているようでして、迷宮管理局も右往左往の大慌てみたいなんですよ」

「大時化ですか、そんな話を少し前に聞きましたっ」

「そそ、時化。それで秋桜街こすもすがいの森林迷宮は処理が追いつかなくなってしまい、管理区画と区画壁を突破されてしまい現在に至るわけです」

「猫の手でも借りたい状況らしく、自分たち学舎外活動者も任意で協力しています」

「なるほど、理解しました」

「一帆様」

「ああ」

「待った待った、一帆様と百々代さんは何を頷きあってるんですか?同行しよう、なんて言わないですよね?」

 割って入るのはかおる。護衛の彼からしたら大問題なのだから当然だろう。


「人手不足らしいじゃないか。ならば空いてる手は貸すべきでは?魔獣がそこらに現れる状況じゃあ休暇にもならないしな」

「この状況は見過ごせませんっ」

「四年三年ってなら力を借りたかったんだが、一年じゃなあ…」

 髭を擦りながら眉をハの字にして歩いてくる直弼も若干の困り顔である。


「非常事態なのだから兎や角言っていられる場面でもないだろう。俺と百々代もだが、薫を同行できるのはい大きくないか?」

「巻き込まれるのは確実なんですね…。勝手な行動されるよりは舵取りできる方が安全だ、腹括ってくれ直弼」

「本気かよ…しゃあないか。そんなら三年の二人と一緒で学舎外活動者として同行してもらうぞ」

「「はい」」

 いい返事に溜息を吐き出し直弼なおすけは天を仰ぐ。

 ちなみに、救助支援等をしていた結衣らは、一帆と百々代が迷宮管理局に同行したと聞いた時、「知ってた」と一様に言ったとか。


―――


「つーわけで新しい学舎外活動者の篠ノ井一帆と安茂里百々代だ。もう全てを察してくれ、迷宮馬鹿だよコイツら…こういうのは殺しても死なないから放っといても良いんだが、一応目を付けといてくれ」

 よろしく、と迷宮管理局員らは快く迎え入れる。


「とりあえず管理区画内の魔獣駆除、次いで迷宮攻略となる。構造変化で既存の地図が駄目んなっちまってるし、再胎で首魁がさ現れている状況。加えて半年くらい前からの大時化で四方八方大忙し、増援は望めない。最悪と言える状況だが、秋桜街の森林迷宮くらいならなんとかなる筈だ。気合い入れて行くぞ!」

「「「応ッ!」」」「おー!」

 迷宮管理局員は一〇名、そこに学舎の魔法師、薫を加えた一五名での管理区画及び迷宮奪還を行うことになる。

 管理区画及び区画壁は緊急事態の際に魔物魔獣の封じ込めを行う建造物なのだが、…まあこういうこともあるのだろう。小規模の襲撃を撃破しつつ向かうのは秋桜街の郊外。半時《1じかん》も歩けば到着できた。

 高さ二間一尺《4メートル》程の石壁に覆われた区画壁に備わっている扉は機能している風はなく、誰がどう見ても破壊されている。


「内部にまだ人が居たりは?」

「いんや、俺らが殿しんがりだ。今は魔獣しかいない」

「そうなんですね。…門から見るに内部にある建物も酷い状態ですし、手段と被害を問わないでいいなら、一網打尽にできそうなんですが」

 百々代は腰にいた魔法莢まほうきょうに手を添える。飛手甲は爆発魔法、壁があるのならば被害は管理区画のみに抑えることが出来る。


「――そりゃあ…俺の首が飛ぶな、勘弁してくれ」

「迷宮そのものは破壊できないが…周囲は更地になりかねない。…百々代抑えてくれ」

「はいっ」

「ただ、内部では使えるかもしれんから大事に持っといてくれ、その危険物」

(今年の一年はしょぼいって言ってたの誰だよ…)

 一部が非常に高水準なだけなのだが、まあ仕方ない。


「切り込みは俺と薫、安茂里の前衛三人で。後衛は障壁役が守りを固めつつ攻撃役と雪崩込んでくれ。誤射して俺の可愛い尻に穴を増やさないでくれよ」

「はははっ、上市場さんが避けてくれりゃあそれで解決なんで、ケツだけに!なははは!」

「「…」」

「安茂里、こいつを肉体強化はこいつを使え、市販品より迷管支給品のが質がいいからな。起動句は『起動、強化。』だ」

「承知しました」

「一応補足しとくと、俺の予備だから少し重めに調整をしてある。上手く慣らしてくれ」

 解体して触媒や魔法陣を検めたい欲に蓋をして、帯革に佩く肉体強化の魔法莢を入れ替え深呼吸をする。


(腰に佩いた実剣を扱う為の調整、だね。だけど珍しいなぁ、成形武装の方が荷物として邪魔にならないし扱いやすい、…あー)

「その剣って迷宮遺物なんですか?」

「ん?ああ、そうだが。唐突だな」

「重い調整ってことなんで、実剣を使うなら迷宮遺物かなって思いまして」

「そういう。こいつは不朽くちない。珍しい代物でもないが、手入れ要らずで便利な相棒でな。成形なんか断然重くて、魔物魔獣を切り砕ける一品だぜ」

 ちらりと見せた刃から鋭利さを見取る事はできないが、確かに重い一撃を繰り出す事ができそうだ。

「よーしそんじゃ、おっ始めるぞ。管理区画抑えて、迷宮門さえ確保できりゃあ、後は構造変化した迷宮を攻略するだけのいつも通りのお仕事だ。行くぞォ、吶喊とっかん!」


 直弼の合図で百々代は零距離擲槍ブースターにて飛び上がり、区画壁を通り越しては落下の勢いで甲熊の脳天へ零距離擲槍踵落パイルドライバーをお見舞いし、頭蓋を蹴り潰してから百々代は周囲を探る。

 もはや人型(くい)打ち機だ。

(重いっていうのは、発条に力を加えるような、感覚なんだねッ!上手く使えば、――)

 迫りくる群小狼を文字通り蹴散らし、囲まれないよう動き回りながら後続が切り込むだけの活路を開く。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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