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五話⑤

 雪々(しんしん)と舞い踊る氷の結晶が地面を薄っすらと白く覆う冬の頃。

 湖の河口に集まった一帆かずほらは葉っぱで作られた小舟に、小指ほどの蜜蝋に火を灯し、豆を数粒乗せて川に流す。

 冬流祭とうりゅうさい、初雪の日に始まりの海へと感謝を贈る百港国ひゃっこうこくの祭だ。三天魚と支神信仰と同じく何時何時に始まったか定かでなく、不思議なことに各島々で行われているのだ。

 ちなみに雪が降らない暖冬には、なんとなくの頃合いで各々が流す。


「下流の街でも舟を流してるのが見えますね」

「綺麗よね、河川かわの星々。冬は寒くて苦手だけれど、この光景は好きなのよ」

 そろそろ戻りましょうか、などと話しをしている最中。どうにも街の中が慌ただしく思い、百々代は青い瞳で遠望する。


「あの、街の向こう側でなにか催し物でもあるんですか?急いで走っていく人が多くなったのですが」

「催し物?どうかしら、そういう話しは届いてないけれど」

「芸人一座が足を運んだ、なんて聞きませんし冬に大きな祭りもありません。なんでしょうね」

 結衣ゆいと侍女は首を傾げ、街の方へと視線を向ける。


「というかよく見えるわね…」

「目は良いんで。……あっ、子供が転んで、………何かから逃げているようにも思えます、走りくる先、向こう側って何かあったりします?角度的に見えなくて」

「…。…ッ!お嬢様!」

「ええ、まずいわね…。そっちの方角は、秋桜街の森林迷宮よ。何か非常事態に陥っている可能性があるわ」

「起動、肉体強化ッ!」

「待ちなさい百々ももよ何をするつもり!?」

「困っている人がいるのなら助けないと!」

「貴女は強いけれど、実践経験のない一年生に過ぎないのよ!迷宮管理局に任せて待機するべきよ!行ったところで、」

「一人二人は救えるかもしれないんです!わたしは守ります、全てじゃなくても手の届く範囲で」

(危険を顧みず火中へ飛び込んでいった勇者ヒーローに、わたしも倣いたい!)

「馬を借りるぞ結衣、百々代後ろに乗れ、走るよりか早い。かおるも同行だ、いいな?」

「「「は?」」」

「一人で突っ走らせるわけにはいかないだろう、必要なんだよ舵取りがな」

(ヒーローってのに憧れてる節があるから、その影響だろうな。…一年の段階から魔物共と戦っておける経験は欲しい、俺にとっても願ったり叶ったりだ)

「ぐぬぬ、もういいわ!わたくしも行くわ!ここは西条家の管轄、貴方達ばっかり出てってわたくしが引きこもって震えてたなんて見栄えが良くないのよ!」

「お嬢様?!」

「勿論、回復魔法による支援を専門にするわ!準備なさい!あん莉子りこ駿佑しゅんすけさんもお手伝いください」

「はーい」「わかりました」「了解した」

 苦虫を噛み潰したような表情の結衣は、テキパキと指示を出しては出立の準備をさせる。


「…もう、せっかくのお休みなのに。運がないわ」

「薫、準備は?」

「…本当に行くんですね。行けますよ」

「掴まってろ百々代」

「はいっ!」

 三人は先駆けて戦闘区域へと馬を進める。


―――


「場所は市街地、飛手甲ひてっこうは使わないようにいいな?」

「無茶な戦いはしないでくださいよ。百々代さんの機動力なら一撃離脱で様子見しながらの戦闘も可能だと思うんで」

「はいっ!」

 既に街人は逃げるか、家屋に閉じこもっているようで、戦闘域までは馬で問題なく進んでいけた。


「…甲熊こうゆう群小狼ぐんしょうろう太鼠たいその森林系迷宮に生じる魔獣がみえます。迷管の方も見えますが、数に圧されていますね。起動、強化、纏鎧乙、纏鎧甲。行きますねッ!」

「無茶をしすぎるなよ」

「はいッ!」

 走馬の鞍から飛び降りた百々代は着地と同時に零距離擲槍射撃にて身体を弾き、高速で戦闘域へと突入する。


(金の瞳を使う選択肢もあるけれど、錯乱した魔獣は厄介極まりないから――)

 体毛が固まり、鱗状に発達した熊の懐へ飛び込み、右腕に魔力を集中させて、踏み込みを発剄はっけいに殴りつけ。

「――零距離擲槍射撃パイルバンカー!!」

 ドゴォ!

 空気をも揺るがす振動と共に甲熊は後方へと吹き飛んでいき、内臓が破裂したのか口から血を流しピクピクと身体を震わせている。

 人が呆気にとられている中、迫りくる群小狼の数匹を蹴り飛ばし、後ろに飛び退いては戦列に加わる。


「金木犀魔法学舎所属の安茂里百々代、見参しました。これより戦列に加わります」

「同じく学舎の篠ノ井一帆だ」「どーも、篠ノ井家の護衛で川中島薫です」

 篠ノ井(しののい)家、となれば領主家であり大層な御子息。何故にこんな前線へという感情も有りつつ、迷宮管理局の者は確かな増援に安堵する。

「薫、久しぶりじゃねえの!」

「直弼じゃねえか、そういや迷管にいってたっけか。なら話が早え、助力してやるからさっさと片付けるぞー」

 髭面のずんぐりむっくりは上市場かみいちば直弼なおすけ。薫とは旧知の仲らしい。


「応よ。嬢ちゃんと坊っちゃん、あんま前に出すぎねえようにな!」

「承知しました」「了解した。来い、佩氷はくひょう

 涙杖だじょうを持ち佩氷を振り頻り、敵の足元へ広く障壁を張っては接触を引き金に凍結させていく。甲熊ほどの大きさとなると影響力は無いものの、群小狼の動きを鈍らせて太鼠を氷像に変えるには十分な効力がある強力な範囲攻撃だ。

 迫りくる群小狼もご自慢の足を潰されていては、厄介度合いはガクンと落ち込む。こうなれば形成は人側に大きく傾きを見せるわけで。

(学生って話だがお二人さんともすげえな)


「一斉射だ、障壁張れる奴以外は群小狼を撃ち抜いて、障壁持ちは甲熊の突撃に備えろ!嬢ちゃん、さっきのまだやれっか?甲熊潰した魔法」

「出来ます!」

「なら右からくる奴に一発頼むわ」

「はいっ!」

 迫りくる甲熊を確認し百々代は駆け出し、擲槍移動で急加速する。


(警戒されてるっぽいね。だけど…やっぱり来たッ!)

 隙を生まないように相手は泊まることなく突進し、彼女の撃破を試みたが相手は一人ではない。氷矢が甲熊に突き刺さり凍結させて隙を作った。

(流っ石!)

 回し蹴りを零距離擲槍で加速させ巨体を蹴り飛ばし、起き上がろうとする対象へ拳と擲槍を捩じ込んで装甲など意ともせずにぶっ潰す。

 息を整えて残る敵に目を向ければ、薫と直弼で一頭、迷管魔法師が数人ずつで合計二頭を潰し、残るは群小狼と太鼠の細々とした残党狩りとなった。

(ふぅ…。一帆様ー、素晴らしい援護でした!)

 百々代が小さく手を振れば、一帆はニヤリと相好を崩した。

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