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五話④

「ただいま戻りましたっ」

 然程時間も経たずに百々代(ももよ)は帰ってきた。目に見える外傷はなく、至って元気そうな姿に一同は胸を撫で下ろす。

一帆かずほ様、お怪我はありませんか?結構な威力になってしまったので」

「大丈夫、軽微なもので治癒も終わっている。もも」

「百々代っ!!貴女って人は!魔法が楽しいというのは十分に伝わって来るけれど、人と人との模擬戦闘ならばしっかりと安全に配慮してやりなさい!もしどちらかが大怪我をして取り返しがつかないことになったらどうするのかしら!?」

「ごめんなさい…。一帆様、申し訳ございませんでしたっ」

「俺は構わんぞ」

 お冠な結衣ゆいに叱られて、百々代はしゅんと謝罪を行う。高揚しすぎて周囲が見えなくなっていた事は確かで、反省すべき点は多く思い当たる。


「次からは気をつけるように、節度を守って模擬戦闘をなさい」

「はい」

「それじゃあ治癒をするから、纏鎧てんがいは解除してね」

 軽度の打撲が何箇所か、治癒そのものは簡単に終わった。


「一帆様っ!わたし、人と戦うのは気乗りしなかったのですが、一帆様と戦うのはとても楽しかったので、またやりましょう!」

「ああ、望むところだ。負けっぱなしでは収まりがつかんからな」

「わたしの勝ちでいいんですか?」

「俺の纏鎧は全損だったからな」

「そうなんですか、じゃあ勝ち星はいただきますねっ!」

(反省、してるのかしら?)


「最後の魔法はなんだったんだ?」

「面白半分で作った、纏鎧甲、手足の硬い纏鎧を爆発で飛ばして、接触を二次条件に爆破する魔法です。前の短期休暇の際に棘鹿角ちょろつのを手に入れたので、空いた時間で魔法陣を組み立てて、冬季休暇一番に作ったんです」

「ちょろつの?」

「棘鹿っていう魔獣の角で、爆発系の魔法莢まほうきょうに良く使われる触媒の一種になります。専門の工房に降ろされて一般では見かけない珍しい品なんですよ。あっ、勿論発動を制限する機構と威力調整用の機構を備えた外莢がいきょうを取り寄せてもらいまして、見ます?これなんですけど―――」

 今井いまい商会連盟の内にはそういった工房も存在している為、百々代は達吾郎たつごろうに対して平にお願いし特別に販売してもらったのだ。触媒なんかもそういう筋から仕入れることは出来なくもないのだが、お世話になり頻りな状態なので遠慮しているらしい。

 さてぺらぺらと説明を始めたものの、話の内容を十分に理解できるものはいるはずもなく、置いてきぼりをくらう面々なのだった。


「ふむ、わからん。というより、その魔法莢に彫り込まれた陣は百々代手製という認識でいいのか?」

「はいっ!纏鎧二種と零距離擲槍は既製品の中身を弄っただけの自作品の中でも改造品と呼ばれる品ですが、飛手甲ひてっこうは完全自作です!」

坂北さかきた女史から習ったのか?」

「いえ、安茂里工房で作っている品や、昔に一帆様と一緒に学んだ時の魔法莢の魔法陣を記録していたので、分解抽出構築して学びました。まだまだむらが有りますが、自信作なんですよっ!」

 常識の外側にいる存在、というのが一同の感想。

 幼い頃から、生まれ変わりの都合でそれなりの思考力を持ち、興味関心が多く向いていた百々代だからこその力をなのだが。


「うん、まあいいか。なんか色々と聞きたいことがあったが、全て吹き飛んでいってしまったな」

「思い出したらいつでも聞いてくださいっ!」

「ねえ百々代、その魔法莢はしっかりと魔法省に届け出を出しているの?」

「はい、資料の提出はしています。許可が必要なのは販売時なので個人使用する分には不必要ですが、危険物なので提出はするように、と今井の小父様と父さんに言われ送付しました。大丈夫です!」

「そう、なら良かったわ。よし、とりあえず戻りましょうか、寒くなってきたわ」

 季節は冬、野外は当然のこと寒いわけで、結衣の提案の元、一同は足を別荘へと向ける。


「その指輪と指輪から出した綺麗な杖も迷宮遺物ですか?」

「指輪が金環食きんかんしょく、杖が佩氷はくひょうだ。金環食は物をしまえる便利な遺物だが、便利が故に金子の掛かる。複数個の物品を収納する事も可能なのだが、失敗すると一度に全て出てきてしまう難点もあるがな」

「ほー。そんな便利な迷宮遺物があるんですね、ちなみにいくらくらいなんで?」

「二五〇〇〇()

「?」

「将来余裕が出来たら購入を考えてみると良い」

「はい」

 迷宮遺物一つにそれほどの大金を出せる驚きと、現状では到底届かない金額に思考が停止した百々代は反射的に返事をしていた。


「来い佩氷。っとこれはもうどういう力を有するかはわかっているんじゃないか?」

「魔法への氷属性の付与、ですか?」

「この杖を条件起動にした魔法に、というのが正解だ。月の涙杖が自身に氷の適性と、氷に関する魔法への凍結付与。非常に良い相性なんだが…百々代は強敵だったよ」

「近付けさせない戦略は有効でしたよ。迷宮の魔物魔獣相手であれば強力な一手かと思いますっ」

「自身と味方の足を留めてしまうから、使い所をよく考える必要があるがな」

「なるほど、迎撃戦用って考えたほうが良いかもしれませんね。…障壁ではなく、識別付与の結界にしてはどうでしょう?」

「結界は視野に有ったのだが、障壁と比べると強度や攻性付与の際に即効性が欠けてな」

「ふむ、難しいですね」

「ああ、難しい。良い案が浮かんだら何時でも教えてくれ」

「はいっ!」

 魔法馬鹿二人へ周囲の者らは呆れるのであった。

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