三〇話⑨
「なんなんだよ邪魔ばかり!勘弁してくれよ!」
「戦乱を引き起こそうなんて野望を捨て去り、密やかに暮らすのであれば考慮しなくもありませんが!!」
「そんなこと今更出来るかよ!」
「ならば容赦はできません。雷放ッ!」
宙を突き進む百々代は零距離擲槍で加速してから、万死龍へと体当たり。それと同時に雷が爆ぜるのだが相手に効果があるようには思えない。
「百々代。前みたいに俺たちが魔法を使おうとすれば適応されるのか?」
「わかんない!とりあえずやってみてよ、地上に被害が出ないようにさ!」
「何をごちゃごちゃ独り言を!目障り耳障りなんだよ、篠ノ井百々代!!」
(光線、位置取りを調整して地上に被害が出ないようにしないと!んぐっ)
狙いを自身に向けさせたまま急上昇を行いつつ、光線の回避を試みるが人の形態と比べて直線的な動きしか出来ず、先読みされて直撃を受ける。雷纏鎧の放散型防御があるとはいえ、流石に直撃を何度も受けれる余裕はなく、再度の光線に百々代は焦っていく。
「くっ」
「はぁ…、出来るもの、いや出来てしまうものだな」
自身への呆れが含まれた一帆の声が耳に届けば、百々代を覆うように障壁が展開されており光線を防ぎきり、砕け散っていった。
「ありがとう一帆っ!」
「ふっ。防御は俺が務める、お前たち…いや陽茉梨、勝永、利市、理愛!全員で反撃手段を模索しろ、この空間での魔法使用は百々代に適応されるのだからな!」
「わからないけどやってみますわ!」
(旋颪どころか剣もない。…風霜を)
「なるほど?」
「攻撃は陽茉梨さんに任せちゃって、私達は追風での補助に専念してみる?」
先ず発動されたのは理愛の追風。それなりの速度で飛び回っていた百々代は、風魔法の補助を受けて機動力を増し、光線の直撃そのものは躱せるようになって一帆の負担が減っていく。
「ちょこまかと鬱陶しい!!こっちだって取り込んだものは使えるんだ!!」
万死龍の巨躯からは無数の蜂が生み出されて続けて、百々代に追いつかん勢いで飛来する。大きさこそ彼女たちにとっては羽虫同然なのだが、障壁に取り付いては自爆を行う自爆蜂。光線に巻き込まれることで誘爆を起こしていくのも厄介である。
「未だ未だ!げああぁあ!!」
「首が三つ!?光線も三倍ってこと!?避けれないんだけども!」
三首の万死龍は各首で光線を準備し、百々代の退路を確実に潰すよう放っては直撃させていく。
「うわ!!」
「障壁の数と質が足りんか」
「ふぅー、自分なら出来る。起動。風霜!」
展開された風の槍は空を貫き万死龍に命中するのだが、周囲の蜂を塵芥に変えたばかりで本体には効果が見られない。
「随分と硬いようで…。この距離からだと減衰がキツイのでしょうか」
「ふむ。…。百々代さん!私の準備が出来ましたら、吶喊をお願いできますか?」
「いいよっ。でも、わたしからじゃ陽茉梨さんたちのことみえなくて、一帆が口頭での指示をお願い」
「ああ、承知した」
「それでは。起動。―――」
方向性が決まれば後は時間を稼ぐだけ、百々代は光線が地上を焼き払わないよう細心の注意を払って飛行し、一帆が必要な障壁を張って彼女の防御を固めていく。ある程度、勇魚の姿での動きにも慣れてきたこと、そして彼であれば的確な護りを展開できるという信頼を胸に、回避しきれいない攻撃に関しては端から諦め障壁で受ける方向へ切り替える。
「逃げてばかりの弱腰で、この万死龍に勝てるものかよ!」
「百々代、今だ」
「よしッ!吶喊!!」
擲槍の衝撃で急激な回頭を行っては万死龍目掛けて突撃を敢行、理愛の追風と百々代の零距離擲槍、そして利市も擲槍を加えて超加速を行えば、誰だって何かあるのだと悟り相手も羽撃くのだが。
「させません!!風霜!!」「動かれたら困るんだよ!」
風霜と鏃石を弾幕として展開すれば、有効打こそ足り得ないが移動を阻害するには十分な妨害となり、百々代は相手に肉薄する。
「陽芒!絶対に当たる距離から、最大火力をくらいなさいな!!」
円錐状に展開された光の束は胴を突き破り翼を焼き、半身と頭の二本を蒸発させて決定打を与えるに至った。残った一本の頭からは憎悪と怒り、殺意に恐怖、様々感じ取れ、落下していく最中に最期の足掻きと地上へと口先を向けて光線を放つ準備を行っていく。
「させないよ!!」
(勇魚の姿じゃ回るのに時間が掛かり過ぎる、別の姿になるしかない。ローカローカの姿は流石に拙いから、)
銀の瞳を輝かせて化けた姿は武狼。百々代にとってはなくてはならない、相棒と言い切れるだけの魔法の一つ。人型に於ける浮き渡る黄の制御は、暫くの間で慣れてきたもの。擲槍移動を用いては落下する万死龍目掛けて距離を詰めながら、轟の蜂杖のような銃を生み出して撃ち進む。
命中こそするものの、やはり地の硬さがあるためか中断は出来ず、利市と理愛の加速補助も加えての急行落下。そこから拳を構えて。
「零距離、擲槍ァァアアア!!!」
拳が命中することで超至近距離範囲に限定された衝撃力が強化された擲槍が起動、全ての勢いが一点に集約された攻撃を受けた万死龍はあまりの加速に赤熱化し、山肌に追突しては光線のために蓄えた炎が暴発することで内側から爆ぜ山の半分を消し飛ばして命を終えたのである。
「はぁ…はぁ…、うぐっ!眼が!」
(このまま落下したら、皆がどうなるかわからないっ。せめて勇魚日様の姿で着地しないと。…視界が、霞む)
相手を倒したことで安堵した結果か、今までの無理が全て身体に押し寄せてきて、左眼と思しき場所へ激痛が走り大勇魚は墜落してく。沈みゆく意識の中で、大切な仲間たちが何かを叫んでいる声を聞きながら、百々代は意識を手放すことしかできなかった。
「百々代の身体の動かし方なんてわかんないよ!?けど、なんとかなれー!!」
「百々代がどうかしたのか?!」
「意識がなくなっちゃったみたい!!前に一度だけ表層に出れたし行けるでしょ、うごけー!!うぎっ」
痛覚の無い蘢佳も、左眼へ対して激痛が伝播し悶えたくなるのだが、そんなことをしている余裕はなく。最低限の動作で大勇魚を霞草街の郊外で不時着させた。
着地と同時に化ける銀の効力がなくなったのか、百々代は人型に戻って彼女の内部に取り込まれていた一行は外へと放り出されたのである。
「百々代!呼吸はある!急ぎ医務室に連れて行くぞ!!」
「うす!」
勝永が百々代を背負い、一歩踏み出せば霞草街からは見慣れた莢動車が大急ぎで到着し。
「やっぱり皆だったか!いやぁ、すごいものを」
「最高だ颯!百々代を連れて医務室、いや医院でもいい、医務官の許へと連れてってくれ!」
「え?っ!わかった、掴まっててくれたまえ!」
「俺達は先に行っている!」
「私達も急いで向かいますわ!」
荒っぽい颯の運転で事故を起こしそうになりながら、三人は医院に向かう。
「何が、」「どうなっているのでしょうか?」
四八階層で魔物の猛攻を凌いでいた巡回官らは、唐突に消え去った魔物に困惑しながら百々代らへ加勢すべく階層を上がったのだが、視界に広がっているのは地上まで続いている大穴。
一同は再度四八階層へと潜っては上がり、顔を見合わせたのであった。
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