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五話②

「いらっしゃい、待ってたわ!二人で全員集合よ!」

 馬車旅を終えて、それなりに大きな湖の畔に建つお屋敷に足を踏み入れれば、待ってましたと言わんばかりに結衣ゆいらが出迎えていた。


「招いてくれたこと感謝する、西条結衣」

「お招きいただきありがとうございます、結衣様」

 親しき仲にも礼儀あり、慇懃に礼をした二人が視線を戻せば怪訝な表情の結衣。

「ねえ、百々代(ももよ)。なんで貴女は制服なのかしら?」

「その…実は社交服が合わなくなってしまい…。制服であれば格式に十分合うかと考えて着用しました」

 別荘であろうが屋敷入りする時はしっかりとした格式の衣服を纏う。実際に隣に立つ一帆かずほは社交用の衣装に身を包んでいる。

「成長期は大変ね…。まあ良いわ、屋敷入りは出来たのだから、私服に着替えてらっしゃい。こほん、ようこそお越しくださいました、心よりの歓迎を申し上げますわ」

 ご令嬢の手本とも言うべき可憐な礼をして、結衣は二人を迎え入れた。


「やったー!全員そろったね!」「ご無事の到着、何よりです」「道中仲良くしてたんじゃないの?」

「じゃあ百々代を案内してさしあげて」

「畏まりました。どうぞこちらへ、百々代様」

「はいっ。ではまた後で」

「待ってるわ」

 客室に向かって廊下を進む中、侍女は百々代の様子を伺う。


(この方がお嬢様の一目置く、市井出身のお友達ですか。…お嬢様と同い年でこの背丈なら、衣装が合わなくなるのも納得ですね。…と同情している場合ではありません、旦那様から彼女の品定めを申し使っているのでした)

 一帆と百々代の関係が良好であり、西条の名を貸す事に不利益がないのであれば、結衣の話した養子の件を何時でも実行できるだけの準備をしておこうという魂胆。

(後援者の今井いまい様ともお話しなさってましたし、半ら決定で事が進んでいるのでしょうね。そして最後の後押しが欲しいと)

 成績は言うまでもなく優秀。残るは人となり、家名を貸して泥を塗られるようなら価値は低い。市井から非貴族を養子に迎え入れるのは、慎重になる必要があるのだ。

 そんな西条家に仕える者の思惑など気にする風もなく、百々代は着替えて広間へと向かっていく。


「来たわね。やっぱり制服は、こう意識が学舎に寄ってしまうから駄目よ、今日からは楽しく過ごすのだもの開放感がないと。では皆が優秀な成績を以て冬季休暇を迎えられたことを祝いましょう!」

「楽しもー!」

 結衣が音頭を取り賑やかしく内輪の午餐会が始まる。それほど長い期間ではないものの、毎日は顔を合わしては勉学を共にした仲。弾む会話は楽しげであった。


―――


 歓談に遊びに楽しく時間を過ごした初日の夜。百々代は風に当たるべく外套を羽織っては星を見上げる。


(うーさぶさぶ、流石に冷えるね)

 絆ぎ熟れた星の煌めきに、困惑頻りな生まれたての時期を思い出しては、自分が人となったことを改めて実感させられていた。


(あの頃のわたしは、人に憧れてたんだろうね。絆や友情で結ばれ高め合い、強大な敵と戦う姿に、孤独だったローカローカ(わたし)はさ。新たに生まれた先が人で、安茂里あもり家で金木犀きんもくせい港で本当に良かった、えへへ、羨むだろうなこんな生き方は)

「あんまり外に居すぎると身体を冷やすぞ」

「そうですねっ。一帆様も星を見に?」

「いや、百々代が外に見えたからだ。…星を見るのが好きなのか?」

「好き、なのかはわかりませんが、星が出ていれば繋げて形を作ってまして、昔の頃から」

「ふぅん。俺は星鯱ほししゃち五星くらいしかわからんな」

「わたしも一般的なのはそれしか。独自に作ってるだけなんで」

 寄り添いながら二人は星を見上げて、白い息を漏らす。言葉はなく、ただただそこにあり続けるだけの時間を。


文鰩魚とびうおが」

「跳ねましたねっ」

 無数の星が描く夜闇の画板に一線の光が走る。


「…異性と二人、流れる星を見るとは」

「何かあるんですか?」

姨捨おばすて古永ふるながは大魔宮に挑む前に聖高原ひじりこうげん咲世子さよこと流れる星を見てな、二人は誓いを立てて生涯を共にしたんだ。そんな事から古くは縁結びに、なんて言われてた時期がある」

「素敵なお話しですね。えへへ、一帆様と長くお付き合いできれば嬉しいです」

「当たり前だ。百々代は学舎を卒業しても共に迷宮管理局へと進むのだからな、そう簡単に縁が切れてたまるか」

「ですよねっ!しっかり付いてきてくださいよ」

「阿呆、さっさと追い越すに決まってるだろう。調子にのるな」

 両の目蓋を開いた百々代は、にへらと笑っては一帆の手を取り星空の下で舞踏を始める。


―――


「恋人みたいでしょ?あれでお互いに全く恋愛感情ないのよあの二人」

「ええ?」

 踊る一帆と百々代を遠目に眺める結衣と侍女。侍女の方は困惑頻りに二度三度見をしている。


「半年くらい顔を合わせているからわかるわ、まっっったく恋愛感情ないのよ、本当に。一〇年くらいの付き合いのある大親友くらいにしか思ってないわアレ」

「…。お嬢様が旦那様にご提案したお話しは上手くいくのでしょうか?」

「それは多分大丈夫じゃない?どんなきっかけになるかはわからないけれど、何時かはくっ付くでしょ。割って入れる人がいるなら拍手喝采をしてあげなくてはね」

「…そうですか。成績優秀、将来有望、品行も問題ないとなれば家名を貸すだけの価値はありますし、旦那様には問題ないと報告いたしますね」

「よろしく」

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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