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三〇話④

「なんなんだこの暴風域は!向こうばかり無事で!」

 ぐらりぐらり、揺れる船上にて大陸国の連合軍は悪戦苦闘していた。原因は言うまでもなく青嵐結界せいらんけっかいで、艦隊戦を仕掛けようとしたその出鼻を派手に挫かれていた。

 効果半径四半里(1キロメートル)、そして八つの遅杖ちじょうと魔法莢を用いることで、大凡二里半(10キロメートル)に及ぶ暴風域の壁を作り上げては、敵の連携を半崩壊。

 範囲内から飛び出してくる勇猛果敢な馬鹿者へは、迷宮遺物を用いた高威力の魔法射撃を当てることで対処し、百港国連合艦隊は圧倒的優位性を確保していた。

(古の魔王族や龍族でもここまでやらんぞ!どういうことなのだ!これでは空も飛べんし、ダンジョン外世界では転移の距離も限られていて届かん!)

「一旦体勢を整え、後続と合流し左右から挟み込むぞ!撤退!」

 旗艦は光信号を用いて全体へ指示を伝播させては、後方に舵を取らせる。青嵐結界では百港国側も攻め込むことは出来ないので、逃げることには困らないのだが、大陸国連合は確実に物資を人員を消費していた。


「相手さんまた帰っていきますね」

「そろそろ懲りてくれるといいんだけども」

「厳しでしょうね…、今回は」

 一国で攻め込んで来るのであれば痛い目を見て撤収する判断も出来るだろうが、複数国家が利権を求めて手を組み連合相手を出し抜こうと考えながら行動に出て、且つ互いに自尊心というものもある。「厳しいです、撤退します」をすれば大陸国同士で舐められるのは必至、退くに退けない、それは大陸国連合の状況である。

 加えて百港国側は徹底した行動阻害と防衛に特化しており、相手側の被害が少ないことも攻め続ける原因であろう。

「それなら地道に追い払って、物資を消費し続けてもらうさ。こちらと違って相手は補給に時間が掛かるだろうし、船乗り病もやってくる」

 叢林そうりんは結界が消えると同時に杖を金環食きんかんしょくから取り出して、風嶺龍ふうれいりゅうの素材を用いた射撃魔法。風霜を起動、一隻を狙い撃ち船員数名を海へ落した。

(この人も強いんだよなぁ、昨今話題の『小雷龍しょうらいりゅう』と限々の勝負を出来るくらいなんだし)

「ところで百港は攻め込まなくて良いんですか?意外なことに大蕪も平豆も大人しくしてますが…」

 「不気味ですよ」と付け加えた軍人は周囲を見渡す。

「いやね、海良殿下が抑えてくれてるみたいなんだ。大蕪島では色々とあったみたいだけど、天糸瓜以外では影響力の強い人だからさ」

「そうなんですか。大人しくし力を貸してくれるんならなんでもいいんですけどね」

「どちらかといえば、戦後処理。勝った後の外交で色々と動きたいんだろうね、これ以上ない機会だから。…その前に泥を付けさせてはもらうけれど」

 幾度と魔法射撃を行って小さな被害を押し付けた叢林は、迷宮遺物を蔵って機関からの指示を待つ。

(超長距離射程魔法、風霜改ふうそうあらた。元々あった物を長距離用に仕様変更したとはいえ、…百々代さんが敵じゃなくて良かったよ)


 夜闇に紛れ船上に現るは魔王族のチャー。

(夜襲など面白くもないが、厄介な魔法があっては戦も儘ならない。厄介だよ、人族とは―――!)

 降り立とうとした瞬間、魔力の刃が飛来しチャー寸前で弾き周囲を探るのだが、それらしい対象は発見されない。しかしながら、真後ろからほんの僅かな気配を感じ取っては回転し、剣で防御の構えを取った。

(これが百々代さんの言っていた、人語を解する人型の魔物。さっさと潰してしまおうかな)

 追風を《おいて》用いて空宙機動を行い、駄目押しの一撃を。一度呼吸を潜めて不識しれないを使用する。

(この感じ、篠ノ井百々代が見せた技と同――!)

 近接での追撃が来ると思えば、擲槍三本飛来し躱しきれずに腕を負傷した。

「くっ」

 きぃん、叢林の耳に装着されている耳飾り、権音けんのんが耳鳴りのような音で危険を示し、音が連続したことから連撃を察知。音の方向から攻撃の位置を把握しては、攻撃の一切を凌ぎきり蜉蝣翅かげろうばねで以て手に持った刃を弾き飛ばした。

 わかりやすく歪んだ表情に、返しの手札がないことを悟った叢林は一歩踏み込み、先の一撃で降ろした刃の角度を反転させて、目にも止まらぬ速さで斬り上げた。

 鮮血とともに宙を舞うのはチャーの左腕、奇襲どころではない、一対一では分が悪い相手だと脳では理解できていた彼だが、二度も、勇者でない人に敗北するには自尊心が許さず、反撃を試みようと思考を回した。

「甘いな魔物畜生」

「っ!?」

 首に下げていた照明弾の魔法莢を起動した叢林は、自身諸共チャーの視界を潰しては。

「今だ、放て!」

 船上に潜んでいた彼の仲間に指示を出し、一方的な魔法射撃をお見舞いしチャーを蜂の巣に変えていった。

 ばしゃん、と海に落ちたチャーは波に飲まれて消えていき、叢林たちは一息吐き出しては顔を見合わせる。

「上手く行ったね」

「まさか本当にくるとは思いませんでしたよ」

「態々目立つように多くの遅杖を積んでいたから、夜襲なりなんなりを仕掛けてくるのは確実だったよ。はぁ…」

「死骸は…回収しそこねましたか」

「魔物ということを考慮すると、行きている可能性を捨てきれないけれど。暫くは動けないだろう、…と願いたいね」

「叢林さんなら手を変え品を変えでなんとかなるんじゃないですか?」

「なるけど大変だろう?それに次もこっちを狙ってくるとは限らないんだしさ」

 一同は「それもそうか」と納得して、見張りを交代すべく船内へと足を向けた。

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