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三〇話③

 おびただしい数の魔物魔獣をすり抜け、百々代(ももよ)は潜行していく。不識しれない雄雅ゆうが、そして高い機動性を用いれば並の相手では捕らえることができない。順調に足を進めて五階層まで到着すれば、異様な構造物が視界に入る。

 見た目は、四間(8メートル)程の巨大な心臓。脈打つそれは所々に開いた穴から魔物魔獣を生み出しており、これが元凶なのだと一目で理解できる。

(これを壊せば解決かな、…そんなわけないか)

 走りながら足を止めずに周囲を伺ってみるも、フーリらしき姿はない。これ以上深くに潜行し、同じ構造物を生成していると考えたほうが、気落ちしなくて済むと百々代は考えた。

(どう切り込もうか、それとも情報を持って帰還するべきかな。今の発生頻度なら、現状の面々でも十分に進んでいけるけど、結構な時間は必要。…こんな物を作り出せるだけの力があってことだし、同じのをいくつも作られるだけの猶予は与えたくない)

「ふむ…」

(階層を挟んでの単独行動中、帰りにも魔物魔獣が沢山いるし雷迎電辿は使用できない。…、回削籠手で穴を空ける開花蕾を押し込むのが確実性高い。いや、状況が状況だし金の瞳で確実に壊しちゃおう)

 手段を選んでいる場合ではなく、失敗は彼女の命だけでは済まない可能性がある。確実性の高い、怯え壊す金で周囲の敵ごと大心臓を睨めつければ、木人は砕け散り中の天牛虫はのた打ち回るような飛翔をして、大心臓おおしんぞうにはひびが入りゆく。

(よし、あと少し、これで…。そう上手くはいかないと)

 大心臓は砕け散った。然しながらその内部からは大猩々(ごりら)と思しき、巨木人が現れて一直線に百々代を狙って走りくる。体当たりは軽く躱しては金の瞳で睨めつけたのだが、罅が入ったところから再生を始めていくではないか。効果が薄いのであれば拘る理由もないので、蜉蝣翅かげろうばねを展開し対峙するのであった。


 二度三度刃を当てて腕脚の破壊を狙った百々代だが、切り口が浅く再生速度が上回っている現状に芳しくないものを感じ取り、退路を探る。

(木人そのものも未だ多くいるし、この巨木人は俊敏に動き回るから背を見せたくないんだよね。…、雷迎電辿らいごうでんてんは周りに誰もいなくて、確実に倒せるような相手じゃない場合いまは危険すぎるし。………、まあでも一旦引くしか無いよね、頼りにして良いのかわからないけど)

 自身の左肩に残っている火傷痕に意識を集中して、危機的状況に起こる感覚を当てにしては踵を返した。

 パチリ、パチリと自身の危機に生じる雷の感覚は、目とは別に危機を感じる第六感として機能し、見てもいない攻撃を確実に回避していく。

(階層を超えちゃえば、あの巨体は通り抜けられないだろうから、一帆たちと相談して対処に当たろう。それが一番だよねっ)

 攻撃が来ると同時に擲槍移動で軌道変更をいれて敵中を突き進むこと僅か、百々代は四階層へと通り抜けて小さく安堵の息を漏らしたのである。

「危なかった…、これで―――」

 ドオオン!と彼女の後方が爆ぜるような物音を聞いて、恐る恐る振り返れば巨木人が大魔宮を破壊して階層を超えてきており、脱兎の如く勢いで百々代は逃げ去っていった。

「なんなのーっ!?」

 百々代の悲鳴が四階層へとこだまする。


「そろそろ百々代が戻ってきてもおかしくない時間なのだが…」

「百々代のことだから何かに巻き込まれてるんだよ、きっとね」

 「だろうな」と一帆が蘢佳に返したその瞬間に、危険を示す信号弾が三つも放たれて篠ノ井隊の面々は顔を引きらせた。

「何が来るかわからんが、迎撃の準備だ。希少龍でも出てくる覚悟をしておけ。起動」

「何でも来い!とは言いたくありませんが、もう怖いもの無しですわ!起動」

 勢いよく二階層から飛び出してきた百々代は、準備万端な一行をみて安堵し浮き渡る黃を惜しげなく使用しては、空宙を滑り進む。

 一階層二階層間の通路も巨木人に破壊され、狙うは追いかけ続けている百々代の姿。宙に浮いていようがお構い無しで、跳び上がって掴みにかかる。だが、空宙において優位性を有するのは彼女であり擲槍移動で急行落下しては回削籠手を起動した。

「雷迎電辿。すぅ…はぁー…、昇雷ストライク!」

 落下してくる巨木人目掛けて百々代は飛び上がり、胴体へ籠手を捩じ込んでは蹴り逃げて百万雷の無差別放電に備える。内側から全身を焼かれたのにもかかわらず、巨木人は健在。落下後に起き上がっては、反動で動きの鈍っている百々代へ一直線に向かう。

(下から上じゃあ力不足、か。でも)

「百々代さん!!!」

 空を蹴り彼女を回収したのは勝永。咄嗟とっさの連続使用を成功させて、安全圏へと逃げ延びれば巨木人の周囲には氷の障壁が無数に展開されて、身動きが取れなくなり。

「――氷花」「――陽芒ひのけさき!!」

 篠ノ井隊最大火力が魔物一匹へと降り注ぎ、氷片と灰へと変えられてしまうのである。

「助かったよ勝永さん。上手くなったね、追風の使い方さ」

「ひ、必死だったので。これで失礼します」

 そっと百々代を下ろした勝永は、頬を上気させて距離を置いた。彼もまだまだ男の子、女性である彼女と密着するのは思うことがあるのだろう。

「ちょっと!百々代が通路を拡大させたから、敵の勢い増しちゃったんだけど!手前の射撃だけじゃ捌ききれないよ!!」

 苦情を飛ばす蘢佳の言う通り、巨木人が壊してしまった通路は敵の流れを良くする結果になり、篠ノ井隊は対処に追われるのだった。

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